錫メッキは古くから使われている、とても有用な表面処理技術の一つです。
その種類やメッキ方法にも種類があり、現在でも多くの分野で活躍しています。
一方で、錫メッキを行った表面が変色してしまう報告がときどき起こってしまうようです。
そこで、本記事では錫メッキにおける変色のメカニズムや原因を分析し、解説してゆきます。
また、変色を防止するための方法もご紹介します。
変色に悩まされている方をはじめ、多くの方のお役に立つ内容となれば、幸いです。
■INDEX■
錫メッキの特徴 1.1. 錫メッキの特徴 1.2. 錫メッキの種類とさまざまな浴
錫メッキの変色について 3.1. 錫メッキの変色 3.2. 変色のメカニズム 3.3. 変色による影響
変色の原因と対策 4.1. 酸化の主な原因と対策 4.2. 硫化の主な原因と対策 4.3. その他の原因
その他の錫メッキにおける注意点 5.1. ウイスカとその対策 5.2. さまざまな材料への錫メッキの課題とその対策
1.錫メッキの特徴
1.1.錫メッキの特徴
錫という金属は、人類の歴史でも古くから用いられている金属です。
いわゆるブリキと言われる鉄に錫メッキを施したものは、錫の耐食性を利用した伝統的な表面処理方法です。
錫は耐食性があるだけでなく、毒性も低く、このようなメッキ技術にも広く使われるものとなっています。他にも錫メッキには有効な特徴があります。
例えば、摺動性が高く、機械の動きを伝える部分に活用されることもあります。
また、優れたはんだ付け性も大きな特徴の一つです。
はんだ付け性とは、その名の通り電子部品などを接合する際のはんだ付けをしやすい表面かどうか、という性質です。従来、このような用途には錫と鉛の合金であるはんだメッキを用いてきましたが、毒性のある鉛は現代社会では採用されにくく、その代用として錫メッキの活用が広がっています。その一方、錫自身はとても柔らかいという性質も持っており、表面処理としての硬度はさほど期待できません。
この性質を逆に利用し、メッキ後に変形させるような材料に活用することもできます。
1.2.錫メッキの種類とさまざまな浴
メッキを行うにはメッキ浴が必要です。
錫メッキの浴には、酸性浴、アルカリ浴、中性浴があります。
酸性浴は、硫酸などを利用する浴で、メッキ速度が速い、光沢仕上げが可能などの特徴があります。また、常温でのメッキが可能となり、比較的扱いやすい方法です。
このような酸性浴で施されたメッキは酸性錫メッキといいます。
酸性錫メッキは光沢仕上げも可能で、外観がとても綺麗に仕上がります。
アルカリ浴は、ナトリウム塩浴など代表的なもので、皮膜の付きやすさや回り込みやすさを表す付き回り性に優れています。
その一方、メッキ速度は遅く、光沢仕上げなどはできません。
このようなアルカリ浴で施されたメッキはアルカリ性錫メッキといいます。
酸性錫メッキやアルカリ性錫メッキは、文字通りメッキ浴が酸性やアルカリ性の性質を持っており、中和剤を用いることも必要となります。
中性浴は、ピロリン酸浴などを利用したもので、酸性やアルカリ性では侵食されてしまうような素材で活用されます。
2.錫メッキの用途
錫メッキは、その特徴を生かしたさまざまな用途があります。
古くから用いられているのはブリキのような耐食性の用途です。
現在でもブリキ板やブリキのバケツなどを見かけることがあるように、時代を超えて色褪せない有用な技術です。このような用途には錫の毒性の低さも寄与しています。
また、摺動性を利用して、軸受など機械部品の表面処理としても活用されます。
さらに、近年増えているのが、優れたはんだ付け性を利用した電子部品やコネクタ端子への適用です。ここでも錫の毒性の低さが効果を発揮し、これまでの鉛を利用した素材にとって変わる存在となっています。
鉛フリーがさけばれるこれからの時代ではさらに、高いはんだ付け性と低い毒性という強みを持った錫メッキが活躍してゆくことは間違いないでしょう。
3.錫メッキの変色について
3.1.錫メッキの変色
とても有用な錫メッキですが、時折問題点も見られます。
ときどき耳にする問題点として挙げられるのが、メッキした部分の変色です。
錫という材料は、単体では元来安定している物質ですが、錫メッキ部分が黒色や黄色に変色してしまうことがあります。
光沢メッキなどで外観を良くする目的でも使用される錫メッキでこのような変色が起きてしまうのは、とてもまずい状況です。
そこで、本記事ではここから、錫メッキの変色についてそのメカニズムや影響を考察し、対策についても解説してゆきます。
参考にしていただき、変色のない錫メッキの活用に役立てていただければ幸いです。
3.2.変色のメカニズム
そもそも金属の変色とは、その物質と周囲の環境との化学的な反応によって起こるものです。
鉄の錆などは大きく色も変わってしまう現象としてよく知られていますが、これは剥き出しの鉄材が空気中の酸素などと反応し、酸化反応によって起こっています。
いわゆる腐食と言われる現象ですが、このような現象は単に色が変わるにとどまらず、機能性に影響を与えてしまうこともあります。
例えば鉄の腐食で錆びついてしまった箇所は、本来の鉄の強度を保てないため、材料の強度を落とすことも考えられます。
また、酸化だけでなく、周囲の環境によってさまざまな腐食や変色の原因の可能性はあり、変色を分析するにはそれらを合わせて考慮する必要があります。
錫の場合、鉄と比べて安定しているため、本来はあまり酸化してしまうことも考えにくいのですが、メッキという特別な工程や使用環境によって、変色の原因が潜んでいることがあります。落とし穴のようなこの考察をおろそかにしてしまうと、せっかく行った錫メッキも無駄になってしまうことがあるので、注意が必要です。
錫メッキの変色には、酸化による変色の他に、硫化による変色も考えられます。
酸化、硫化ともに錫メッキが黒色に変化することが多く、それぞれ酸化黒変、硫化黒変と呼ばれます。その原因や対策は後述しますが、いずれの場合も製品の見た目だけでなく、機能性にも影響を与えてしまいます。
3.3.変色による影響
光沢錫メッキの場合、見た目を良くするために光沢を付与しているにも関わらず、その表面が変色してしまっては、元も子もない状況です。さらに、金属が腐食してしまうと、その機能性が失われる場合があります。化学的な変化を起こしてしまうため、性質も変わってしまうためです。
本来腐食に強いはずの錫メッキが腐食してしまうのは、強度にも影響が出てしまい、当然避けなければならない状況です。また、錫メッキの強みであるはんだ付け性においても影響があります。強度を必要としない電子部品が少しぐらい変色しても問題ないか、と言えば答えはノーです。
変色することではんだ付け性は下がってしまうことがあり、それによって電子部品自体の通電にも当然影響が出てしまうのです。
即ち、錫メッキのどのような使用法においても変色は避けなければならないことです。
もちろん、酸化による変色も硫化による変色も、ということになります。
4.変色の原因と対策
4.1.酸化の主な原因と対策
錫メッキの酸化黒変の原因は、主にその工程にあります。
元来、錫メッキは酸性浴とアルカリ浴を用いる場合は共に中和剤という薬品を用います。
しかし、この中和剤の管理が充分でないと、錫メッキが完全に中和されず、酸が残ってしまうことがあります。この酸が表面を酸化させてしまい、変色の原因となってしまうのです。
このような変色を防止するには、まずは中和剤の管理を徹底することです。
また、変色防止剤の利用も有効です。第三リン酸ソーダなどの変色防止剤を用いることで、変色を防止することができ、はんだ付け性などへの悪影響もなくなります。
また、後処理でクロメート処理を行い、変色防止を行うこともあります。
なお、弊社 株式会社コネクションでも第三リン酸ソーダとホスホン酸系の変色防止剤を採用していますが、第三リン酸ソーダが一般的で安価な方法です。
4.2.硫化の主な原因と対策
一方で、錫メッキの硫化黒変の原因は使用環境によることがあります。
例えば、過去に錫メッキ品を梱包して保管していたのに、いつの間にか変色していたという事例がありました。この場合の原因は、梱包材のアウトガスです。
段ボールなどのアウトガスには硫化ガスが含まれていることが多く、このガスが錫メッキと反応して変色を起こしてしまうのです。このような反応を防止するため、錫メッキ品は直接段ボールで梱包せず、ビニール袋などで保護する方が良いです。また、アウトガスが出にくい防錆段ボールなども開発されているので、そういったものの使用も有効です。
似たような現象はブリキの食品容器などの変色としても起こります。
食品内のタンパク質が硫化ガスとして発生し、錫メッキを硫化変色させてしまうのです。
このような用途では、ブリキ表面を塗料などでコーティングしておくことが有効です。
4.3.その他の原因
その他にも、メッキプロセス中であれば、メッキ後の水洗いが充分でない場合なども変色の原因となることがあります。また、保管時に高温多湿な環境であると、変色しやすくなってしまいます。
梅雨時などは結露が原因で腐食が起こってしまい、変色する場合もあり、このようなときは除湿剤や除酸素剤を使用することも有効です。ただし、除湿剤や除酸素剤にもアウトガスが発生する場合があるため、その確認も必要です。
5.その他の錫メッキにおける注意点
5.1.ウイスカとその対策
せっかく変色という錫メッキの問題点を扱ってきましたので、その他の錫メッキにおける注意点もご紹介します。
錫メッキでもう一点、十分考慮しておかなければならないのは、ウイスカという現象です。
ウイスカとは、錫メッキ特有のヒゲ上の突起が生成される現象です。ウイスカは、対策をしておかないと成長し、電子部品や半導体部品で回路をショートさせてしまうなどの問題を引き起こしてしまいます。対策法として、下地にニッケルメッキを施す、加熱処理を行う、添加剤で抑制するなどを行うことで、抑えることができます。
錫メッキを行い変色もしていないのに、電子部品の通電がおかしいという場合、このウイスカが原因のことも少なくありません。弊社 株式会社コネクションでは、ウイスカの対策は充分に行っていますので、ご安心ください。
5.2.さまざまな材料への錫メッキの課題とその対策
錫メッキは用途上、さまざまな材料の表面にほどこしたい処理方法です。
しかし、アルミニウム素材には直接電解錫メッキができない、セラミックスや樹脂材料にも直接処理できないといった問題があります。このような場合、下地を形成するなどして対策を行います。
弊社 株式会社コネクションでも、下地を形成するなどの方法でさまざまな素材への錫メッキが可能ですので、ご検討中の方は是非ご相談ください。
6.まとめ
錫メッキとその変色について、原因や対策も含めて解説してきました。
以下はそのまとめです。
錫メッキは多様な用途で活用されている表面処理方法で、古くはブリキ材として、昨今でははんだ付け性を利用した電子部品への表面処理として用いられている。
時折、錫メッキが変色してしまう現象が起きてしまい、変色に伴い、はんだ付け性などが低下してしまうことがある。
変色には酸化によるものと硫化によるものがある。
酸化による変色は、メッキ時の中和剤の管理などが原因になっていることが多く、中和剤の管理を充分に行うことの他、変色を抑える変色防止材の利用も有効である。
硫化による変色は、梱包時の段ボールからのアウトガスなどが原因になっていることが多く、梱包の際はビニール袋などで保護することが有効な対策である。
変色の他、錫メッキにはウイスカという回路をショートさせてしまう現象も起こり、対策として添加剤でウイスカを抑えることなどがある。
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【著者のプロフィール】
1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。
30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。
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