錫メッキは、その保護効果と美しい仕上がりによって広く使用される表面処理技術です。
錫メッキは、金属の表面を均一に被覆することで、耐食性を向上させ、さまざまな環境下での酸化や腐食から保護します。
さらに、錫メッキはその光沢と滑らかな質感によって製品の外観を向上させ、高品質な仕上がりを実現します。本記事では、錫メッキの特徴と利点について探っていきましょう。
■INDEX■
錫メッキの皮膜硬度
錫メッキの融点
人に害の少ない錫メッキ
有機酸に対して耐食性に優れる錫メッキ
錫メッキのその他の用途
1.錫メッキの歴史
紀元前16世紀にはもう錫メッキが存在しており、北部メソポタミアでは鉄器などへの錫メッキが行われていたとされています。
1970年代に入りますと電気・電子部品などの急速な成長と、携帯電話、情報端末機器などの電子機器の小型化に伴い、電子部品の小型化とセラミックスまたはガラスなどの絶縁材料とめっきの必要部が一体となったチップ部品が増大するようになります。
チップ部品にめっきを処理する際に、従来のスズめっきでは絶縁材料の侵食が問題となり、絶縁材料の侵食が少ない中性のスズめっきが開発され広く利用されています。
今では当たり前に使われているスズめっきですが、以前はスズー鉛合金めっき(半田めっき)が主流でしたが、米国において廃棄された電気製品の接合部から酸性雨の影響により鉛が溶出し、地下水を汚染し飲料水などから鉛が人体に取り込まれ、鉛中毒の原因となることが懸念され、鉛フリー半田めっきとしてスズメめっきへの移行することが不可避となりスズめっきの開発が盛んになりました。
2.スズめっきの身近な利用と長所
スズめっきは身近なところですとスマートフォンや自動車、あらゆる家電(テレビ、冷蔵庫、洗濯機)、最先端技術(5Gや宇宙関連)など幅広くご利用頂いております。
近年のIT化の拡充に合わせて、利用が増加中なのがこの『スズめっき』です。
スズめっきの長所には以下のようなものがあります。少し特徴についてご紹介します。
皮膜が柔らかい
溶融点が低い
ハンダ付け性に優れる。
人体に害が少ない。
有機酸に対して耐食性に優れている。
窒化防止ができる。
しゅう動部品のなじみ性に優れている。
光沢のある外観
3.錫メッキの特性
3.1.錫メッキの皮膜硬度
めっき皮膜の硬さ測定には一般的にビッカース硬さ試験が使われます。ビッカース硬さ試験とは、試験片に四角すい形状のダイヤモンド圧子を押込み、その時できるくぼみの対角線長さから硬さを求める試験方法です。
ビッカース硬さはHVの後に数値を並べて表示します。
例えばビッカース硬さ1000であればHV1000となります。 HVの数値が小さくなるほど柔らかく、数値が大きくなるほど硬い皮膜となります。
光沢スズめっき | HV40~60 |
半光沢スズめっき | HV14~16 |
無光沢スズめっき | HV5~7 |
アルカリスズめっき | HV3~4 |
アルミニウム合金 | HV150程度 |
柔らかいスズめっき皮膜ですが、柔らかい皮膜であるからこそのメリットがあります。そのメリットとは、相手の製品を傷つけない事です。スズメッキを施した製品を治工具として使用した場合、喧嘩してもスズめっきが柔らかいため治工具に傷がつきますが、製品に傷を付けることを避けることが可能です。
3.2.錫メッキの融点
スズめっきの融点は231.9℃と非常に低く、はんだ付け性など接合技術に幅広く利用されています。
ハンダ付けは固体の基材間に液状のハンダを供給し、このハンダが固体に拡散して合金層を形成することで両者を接合するろう接合の一種です。
家電や電子部品の部品実装は、比較的融点が低く、安価なスズ-鉛合金めっき(ハンダめっき)が用いられていましたが、RoHS規制などの環境対応の要求から鉛の含まない鉛フリースズめっきへと移行しております。鉛フリーにする事でウイスカ(whisker)が問題になるケースがあります。
また、スズめっきは非常に融点が低いのですが、昨今の電子部品では性能向上により部品の耐熱性が低くなっており、今まで以上に低融点のスズめっきが求められています。
3.3.人体に害の少ない錫メッキ
金属スズは毒性のない金属として知られており、昔から食器などに使われており、人体に害の少ない金属です。そんなスズですが、人体に害があると勘違いされるケースがあります。
勘違いされる原因は、人工的に作られた有機スズ化合物とスズめっきなどの無機のスズが同一物質と思われ、スズは害のある物質であると認識されている場合です。
有機スズ化合物(主にトリブチルスズ:TBT)とスズめっきなどの無機スズとは別物で、スズめっきで得られる無機のスズのめっき皮膜は毒性の少ない金属です。
3.4.有機酸に対して耐食性に優れる錫メッキ
スズめっき皮膜は、有機酸に対して腐食されにくい特徴がある事から缶詰、屋根、容器などに使用されています。
スズめっきはバリヤー型の防錆であるため、スズめっき皮膜が鉄素材を完全に被覆している状態であれば優れた防錆を示しますが、皮膜に傷などの欠陥を生じると鉄素材の腐食が促進されます。
スズめっき以外にも、スズ-亜鉛合金めっきやスズ-亜鉛-鉄合金めっきなども特有の耐食性を持った皮膜であるため、色んな耐食性の用途に応じて使い分けがされています。
3.5.錫メッキのその他の用途
窒化防止にも錫メッキが利用されています。
窒化処理とは、鉄鋼などを高温の窒化雰囲気に暴露することで、鋼の表面近傍(1mm以内)に窒素を浸透させて硬化させる処理で、表層が高硬度になるため耐磨耗性に優れています。窒化物を形成することで表面付近に圧縮残留応力が発生するため優れた疲労強度を有しておりますが、部分的に窒化処理を避けたい場合にスズめっきを施すことで窒化処理を防止することが可能です。
潤滑性(摺動性)にも優れた錫メッキ
スズめっきは潤滑性(摺動性)にも優れております。
スズめっき、各種スズ合金めっきはベアリングなどの潤滑性を目的としためっき皮膜としても幅広く利用されております。
装飾性にも優れた錫メッキ
スズめっきは装飾目的でも利用されています。
スズめっき単体は非常に柔らかいめっき皮膜ですので、使用時に傷がつきやすいなど装飾目的ではデメリットとなります。そこでスズと他の金属を組み合わせた合金めっきが装飾目的では使用されます。
装飾クロムめっきに似た色調としてスズーコバルト合金めっき、ピンクがかった外観であればスズーニッケル合金めっき、黒色の外観であればスズー銅ー亜鉛合金めっきなどが利用されています。
4.錫メッキのデメリット(欠点)
優れた特性の多いスズめっきですが、錫メッキには以下のようなデメリットがあります。
ウイスカ(Whisker)の形成、錫メッキは、一定の条件下で表面に微細な金属単結晶のひげ状成長を引き起こすことがあります。これをウイスカと呼びます。ウイスカは電子部品や接点などの微細な構造物の間に成長することがあり、短絡や信号の不良を引き起こす可能性があります。
アルミニウムへの直接処理の制限、錫メッキはアルミニウムとの接合には適していません。アルミニウム表面への直接的な錫メッキ処理は困難であり、他の処理方法や中間層の使用が必要です。
セラミックスや樹脂材料への直接処理の制限、錫メッキは一部のセラミックスや樹脂材料に対して直接的な処理ができません。これらの材料は錫メッキの処理条件や化学的な特性と相性が悪い場合があり、適切な前処理や中間層の使用が必要です。
5.まとめ
錫メッキは古くから存在し、北部メソポタミアで紀元前16世紀に鉄器への錫メッキが行われていました。近代に入ると、電子機器の小型化に伴い、スズめっきが急速に成長しました。スズめっきは、皮膜が柔らかく、溶融点が低いため、ハンダ付け性に優れています。また、人体に害が少なく、有機酸に対して耐食性があり、窒化防止や潤滑性など、さまざまな特性を持っています。さらに、装飾性にも優れており、装飾クロムめっきと同様の色調を実現する合金めっきも利用されています。
一方、スズめっきにはいくつかのデメリットもあります。ウイスカと呼ばれる金属表面のひげ状の成長や、アルミニウムへの直接処理の難しさ、セラミックスや樹脂材料への直接処理の制約などが挙げられます。
6.当社における錫メッキの対応
錫メッキには様々なメリット、デメリットがあります。 また光沢錫メッキ、無光沢錫メッキ、錫を主とした合金メッキなど種類も豊富です。
当社、コネクションでは光沢錫メッキを主体としアルミ素材への錫メッキ、セラミックスなどへの錫メッキ、電子部品などで問題になるウイスカ対策など対応しておりますので、錫メッキに関するご質問などございましたらお気軽にご連絡下さい。
お急ぎの方はこちら 直通電話 090−6819−5609
【著者のプロフィール】
1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。
30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。
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