ニッケルメッキ
ニッケルメッキ(電解ニッケルメッキ・電気ニッケルメッキ)とは、金属の表面にニッケルを電解析出させてメッキする電気メッキです。装飾性と機能性を兼ね備えたメッキとして、様々な分野で広く利用されています。
ニッケルメッキを専門の会社に発注する際は、その耐食性の高さや変色に強いところ、硬度の高さなどの特徴に注目しておきましょう。前もってその特性について理解を深めておけば、製品にどのようなメッキ加工をしてほしいのか業者と打ち合わせする際にも話がスムーズです。
ニッケルメッキが持っている特徴から加工方法まで、詳細をご紹介します。変色しづらいこと、耐食性が高いこと、光沢感があることなど、様々な性質に注目し、ニッケルメッキをどう活かすのか見ていきましょう。
1. ニッケルメッキについて
1.1 そもそもニッケルメッキとは?
メッキ処理はニッケルメッキ以外にもクロムメッキ、銅メッキ、金メッキといったようにたくさんの種類があります。メッキ処理業者を見つける際には、自分たちでもある程度特徴など重要な点を確認して発注することが大切です。
こちらでは、ニッケルメッキについて詳しく解説していきます。
◉概要
電気ニッケルメッキは、19世紀半ばにイギリスで発明されました。当初は装飾目的で使用されていましたが、20世紀に入ってからは耐食性や耐摩耗性などの機能性が評価されるようになり、自動車や航空機などの工業製品にも広く用いられるようになりました。
現在は、アルミニウムや鉄などの材料で作られた品物をニッケルの皮膜で被覆する処理をニッケルメッキと呼びます。ニッケルメッキは品物の表面にニッケルの皮膜を生成させる事で、ニッケルの耐食性や耐熱性、硬度などの特性を持たせる事が可能となります。
◉特徴・特性
より具体的なポイントについては後述しますが、ニッケルメッキの特徴・特性をまとめると以下のようになります。
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耐食性が高い
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耐熱性に優れている
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光沢のある見た目を長い間維持できる
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密着性が高い
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変色しづらい
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さびにくい
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硬度が高い
このように、ニッケルメッキにはあらゆる利点があるのが特徴です。腐食したり、熱によって変色したりするなどの劣化を防ぐ特性を持っています。それだけでなく、美しい光沢感を表現できる、さびや変色を防げるなどの美観性の高さにも注目しておきたいところです。密着性が高く、曲げるようなことがあっても簡単に剥がれてこないのも、ニッケルメッキのメリットだといえるでしょう。
2. ニッケルメッキの特徴
それでは、前述したニッケルメッキの特徴についてより詳しく解説していきます。
◉耐食性・耐熱性
まず、特性のひとつとして耐食性の高さが挙げられます。ニッケルは錆びにくいため、電気ニッケルメッキは被メッキ物の腐食を防ぐ効果があります。特に、酸やアルカリなどの腐食性環境にさらされる金属製品はメッキ加工を施すことで劣化を防ぐことが可能です。
製品の機能性自体はしっかりとキープしたうえで、メッキによって耐食性を高めることができるので、製品の品質の底上げにつながります。
◉光沢のある見た目
美観に優れているところも、ニッケルメッキが持つ大きな特徴のひとつです。光沢のある美しい仕上がりが可能なため、、装飾目的としても広く用いられています。半光沢を付与することも可能です。
ちなみにニッケルメッキのすべてに光沢があるわけではないため、光沢感を重視した加工処理を施したいときは、光沢ニッケルメッキを採用するのがおすすめです。
また、さびや変色などの劣化にも強いため、美しい見た目が長持ちするのもポイントです。様々な機能性を活かしたうえで見た目の美しさも表現できるのは、ニッケルメッキならではの魅力といえるでしょう。変色を気にすることなく高品質な見た目を維持したいときには、ニッケルメッキが適していると考えられます。
◉磁性
ニッケルは磁性体であるため、電気ニッケルメッキは被メッキ物に磁性を与えることができます。磁気記録媒体や磁石などの用途に用いられます。
◉硬度
メッキ処理にはニッケルメッキ以外にも多くのものがありますが、ニッケルメッキは数あるメッキの中でも高い硬度を誇るのが特徴です。
無電解ニッケルメッキの皮膜硬度は析出状態でHv500~700程度、熱処理を行うことでHv1000程度まで高める事が可能です。電気ニッケルメッキは無光沢ニッケル、光沢ニッケルで異なり、無光沢ニッケルメッキでHv200~250程度、光沢ニッケルメッキでHv400~500程度の皮膜が得られます。
電気ニッケルメッキは熱処理を行いましても皮膜硬度は上昇致しませんが、ニッケルは硬い金属であるため、被メッキ物の硬度を向上させることができます。
◉優れた展延性
ニッケルメッキは、展延性に優れており、カシメ加工などで変形しても割れにくいのが特徴です。これにより、加工後の耐久性が向上します。
◉精度バレルメッキ
複雑な形状や細かな部品にも対応可能な高精度バレルメッキができます。これにより、曲がりやすい形状や重なりやすい製品にも精度高くメッキを施すことが可能です。
◉アルミニウムへの密着性
直接アルミニウム素材に高い密着力を持つニッケルメッキが可能です。これにより、アルミニウム部品の耐食性や耐摩耗性を向上させることができます。
◉多様な工法
ニッケルメッキは、治具を使用した静止メッキと、バレルメッキ(回転メッキ)の両方に対応しています。
このため、製品の形状や用途に応じた最適なメッキ方法を選択することができます。
2.1 ニッケルメッキの欠点
◉膜厚のバラツキ
電気ニッケルメッキは、被メッキ物の形状や電流密度などの影響で、膜厚にばらつきが生じる場合があります。特に、複雑な形状の被メッキ物では、膜厚のばらつきが大きくなります。膜厚バラツキは、耐食性や耐摩耗性などの性能に影響を与える可能性があります。
◉二次加工性
電気ニッケルメッキは、硬い膜を形成するため、二次加工が難しい場合があります。例えば、曲げ加工や溶接加工を行うと、メッキ層が割れてしまう可能性があります。二次加工性を向上させるためには、メッキ後の熱処理などの対策が必要となる場合があります。
3. ニッケルメッキの種類
ニッケルメッキは、電気ニッケルメッキと無電解ニッケルメッキの二つの方法に大別されます。
どちらもニッケルの特性を活かした皮膜を作るメッキであることには変わりありませんが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか。特徴をそれぞれ見ていきましょう。
◉電気ニッケルメッキ
電気ニッケルメッキは、電気分解によってメッキを施すニッケルメッキです。電気のエネルギーを使用して製品に皮膜を作るのが特徴となります。高い純度のニッケル皮膜(99.8%以上)を実現でき、耐摩耗性や耐食性が求められる用途に適しています。
その美しい光沢を活かして装飾用の加工としても多く採用されています。精密機器などの製品に使用されることもあるなど、用途としては非常に幅広いのが特徴的です。また、一口に電気ニッケルメッキといっても、光沢ニッケルメッキ、半光沢ニッケルメッキ、無光沢ニッケルメッキなど細かく分類されていますので、下記にそれぞれ特徴を記載いたします。
・光沢ニッケルメッキ
光沢ニッケルメッキは、光沢のある美しい仕上がりになる電気ニッケルメッキです。装飾品や高級家電などに使用されます。耐食性は無光沢ニッケルメッキに比べ劣りますが、皮膜硬度が無光沢ニッケルに比べ硬い皮膜になります。
光沢ニッケルめっき皮膜硬度はHV400~500程度
・無光沢ニッケルメッキ
無光沢ニッケルメッキは、光沢を抑えた落ち着いた仕上がりになる電気ニッケルメッキです。反射光を抑えるため、高級感を演出したり、光沢が目立つことを避けたい場合に使用されます。光沢ニッケルメッキよりも耐食性に優れています。
無光沢ニッケルめっき皮膜硬度はHV200~250程度
・黒色ニッケルメッキ
黒色ニッケルメッキは、外観性を目的とした電気ニッケルメッキです。
黒色の外観が得られ装飾性に優れています。
・サテンニッケルメッキ
サテンニッケルメッキは、光沢と無光沢の中間の仕上がりになる電気ニッケルメッキです。落ち着いた光沢と高級感を演出したい場合に使用されます。
◉無電解ニッケルメッキ
一方、無電解ニッケルメッキは電気の力を使うのではなく、化学的な還元反応を利用して皮膜を形成するメッキ方法です。電気ニッケルメッキの場合は、かける電気のエネルギー量次第でメッキの厚さが変わってきます。しかし、無電解ニッケルメッキの場合は化学反応によって皮膜を作るため、メッキ液に浸漬している時間によってメッキの厚さが変わってきます。また、全体的に厚さにばらつきのない仕上がりになることも大きな特徴です。
したがって、無電解ニッケルメッキは複雑な形状や非導電性の素材(例:樹脂、セラミックス)に対しても、厚さが統一されたメッキ加工を施すことができます。
無電解ニッケルメッキも、きれいな光沢や耐食性・耐熱性の高さなどが特徴となっており、変色にも強いです。また、硬度の高さも無電解ニッケルメッキならではの特性となっており、特に熱処理を施した後には、より高い硬度が得られます。
3.1 コストと用途の違い
無電解ニッケルメッキは、化学反応を維持するための高温と薬液の管理が必要であり、その結果、電気ニッケルメッキよりもコストが高くなる傾向があります。処理槽の化学的安定性を保つために、薬液の補給が必要となる点もコスト増の要因です。
一方で、電気ニッケルメッキは比較的低コストであり、広範な用途に対応しますが、
電流の影響でメッキの厚みが均一にならないことがあり、特に複雑な形状の部品にはムラが生じることがデメリットです。
電気ニッケルメッキは高純度の皮膜が得られ、無電解ニッケルメッキは均一なメッキが可能です。それぞれの特性やコストを理解し、用途に応じて適切なメッキ方法を選択することが重要です。
4. ニッケルメッキの加工方法
最後に、ニッケルメッキの加工方法について詳細を見ておきましょう。基本的に、ニッケルメッキは以下のような工程で加工処理されます。
1.加工する製品の脱脂処理を行う
まず、ニッケルメッキがしっかりと密着するように、表面についている油脂をなくさなければなりません。
もし油脂を取り除くのに不足があった場合は、ニッケルメッキの密着性が悪く、メッキの膨れや剥がれの原因となります。
2.電解脱脂処理を行う
電解脱脂を施すことで、水素ガスや酸素ガスなどの発生ガスと脱脂液の相乗作用で仕上げ脱脂を行います。
3.酸活性(酸中和・酸処理)を行う
製品を酸に浸漬し、製品表面に生成されている酸化皮膜やサビを除去して、ニッケルメッキと素材の密着性を高めます。
4.ニッケルメッキ処理を行う
多くの前処理工程を経てニッケルメッキ処理を行います。電流密度や処理時間など適正な条件で処理を行います。ニッケルメッキ処理完了後、完全に乾かしてすべての工程は終了です。多くの前処理工程を経てニッケルメッキ処理を行います。電流密度や処理時間など適正な条件で処理を行います。ニッケルメッキ処理完了後、完全に乾かしてすべての工程は終了です。
素材によって加工方法は異なるのですが、主にこのような方法で加工致します。以下に素材別の加工方法も記載致しますので、参考にしてみてください。
◉鉄鋼
脱脂→電解脱脂→酸中和→ニッケルメッキ
◉アルミニウム
脱脂→エッチング→スマット除去→亜鉛置換→亜鉛置換剥離→亜鉛置換→無電解ニッケル→ニッケルメッキ
◉樹脂材料
脱脂→エッチング→触媒付与→無電解ニッケル→ニッケルメッキ
5. ニッケルメッキの用途
ニッケルメッキは、その優れた特性により、さまざまな分野で幅広く利用されています。以下に、主な用途を紹介します。
1.締結部品
耐食性や耐摩耗性が非常に高いため、ボルトやナットなどの締結部品によく使用されます。錆びにくく、長期間にわたって使用可能です。
2.電気部品と電子部品
電気コネクターやスイッチなどの電気部品にもニッケルメッキが用いられます。ニッケルメッキの耐久性と導電性が、これらの部品の性能と寿命を向上させます。また、電子部品の保護や性能向上のためにも使用されます。
3.装飾用途
光沢と美観に優れているため、装飾目的でも利用されます。例えば、家庭用の装飾品や家具の金具、自動車の装飾部品などに使用され、見た目の美しさを引き立てます。
4.産業用途
化学工業や食品工業において、容器や貯蔵タンク、パイプの内面にニッケルメッキが施されます。腐食から保護され、長期間の使用が可能となります。また、自動販売機の施錠やドアロック部品など、耐久性が求められる部品にも利用されています。
◉メッキの種類で音質は変化する?
ニッケルメッキの用途は様々で、現在は多くの製品に使用されています。ここで豆知識としてチェックしておきたいのは、オーディオケーブルにあるプラグ部分に使われているメッキです。
実は、プラグ部分にどのような種類のメッキ処理が施されているかで、音質は微妙に変わるといわれています。実際に、メッキの種類次第で音質に影響するという話を耳にしたことがある方は意外と多いかもしれません。もちろん、どの素材のメッキで音質がどう変わり、良し悪しにどれだけ影響するのかは、個人の主観や微妙な聞こえ方の違いによって異なります。
ニッケルメッキ処理されたプラグの場合は、音質がタイトな音になるという意見もあります。このように、メッキの性質の影響は音質など様々な部分にあるということがわかります。
6. ニッケルメッキの膜厚測定について
電気ニッケルメッキの膜厚は、メッキの品質を評価する上で重要な要素です。膜厚は用途によって異なりますが、一般的には数μm~数十μmが一般的な膜厚です。
膜厚は、電流密度やメッキ時間によって調整することができます。
電気ニッケルメッキの膜厚測定には、以下のような方法があります。
1.蛍光X線式膜厚測定装置
蛍光X線式厚さ試験方法とは、物質にX線を照射するとその物質中に含まれる元素に固有のX線が放射され、ニッケルメッキの膜厚を既知の試料との蛍光X線量を比較することによってニッケルメッキの膜厚を測定できる試験方法です。
金属、非金属上の比較的薄いニッケルメッキの膜厚測定に利用されます。
2.デジタルマイクロメーター
デジタルマイクロメーターによる試験方法とは、外径、内径などの寸法を測定できる精密測定機器で、ニッケルメッキ前・後の寸法の差を測定することでニッケルメッキの膜厚を測定する方法です。
板厚であれば表裏両面ニッケルメッキ分厚くなるため、片側のニッケルメッキの膜厚はトータル膜厚÷2で片側のニッケルメッキの膜厚を算出します。
7. JIS規格について
JIS H8626は、鉄鋼及び非鉄金属素地上に工業用の目的で行ったニッケルめっき及び電鋳ニッケルの有効面について規定する。
注)耐食性、耐摩耗性、肉盛りなどに用いることを目的としたもの。ただし、耐食性を目的としためっきにおいても、そのめっき最小厚さがJIS H8617に規定する値の範囲内である場合には、その規格による。
注)この規格では電鋳ニッケル自体の品質についてだけ規定し、形状、寸法、精度、母型の材質、離型処理、離型性、転写性などの電鋳操作及び使用目的に関した特性については規定しない。