錫(スズ)メッキ
錫メッキは、古くから金属表面の保護や装飾に用いられてきた伝統的な表面処理技術です。近年では、その優れた特性から、電子機器や自動車部品など、様々な分野で広く利用されています。
目次
2.1. 無光沢錫メッキ
2.2. 光沢錫メッキ
2.3. 錫合金メッキ(Sn-Pd,Sn-Ag,Sn-Bi,Sn-Cu)
2.4. 錫メッキ、錫合金メッキ皮膜比較データ
3.1.耐食性の向上
3.2.はんだ付け性の向上
3.3.潤滑性の向上
3.4.装飾性
3.5.食品衛生
3.6.RoHS
4.1. 融点が低い
4.2. 柔らかい
4.3. 酸化しやすい
4.4.ウイスカの発生
5.1. 錫メッキと亜鉛メッキ
5.2. 錫メッキとニッケルメッキ
5.3. 錫メッキと金メッキ
5.4. 錫メッキと銀メッキ
7.1.錫メッキは剥離、再処理可能か?
7.2.錫メッキは錆びる?
7.3.錫メッキは音質に影響を与える?
1. 錫メッキとは?
錫(スズ)メッキとは、錫の金属を溶かし込んだメッキ液に被メッキ物(メッキしたい製品)を浸し、電気を使いメッキしたい製品の表面に錫を薄く形成する電気メッキです。錫は銀白色の柔らかい金属で、展延性に優れ、加工しやすい性質を持っています。
2. 錫メッキの種類
2.1. 無光沢錫メッキ
無光沢錫メッキは、粒子の粗い柱状の結晶で、外観は銀白色〜灰色の光沢の無い外観になります。
無光沢錫メッキの特徴としては皮膜硬度がHV5〜7と非常に柔らかく、折り曲げ等でクラックが発生しない事が特徴です。
また、ウイスカが発生しにくい事から、リードピッチの狭い部品のウイスカによる短絡事故を防ぐため無光沢錫メッキが多く利用されています。
2.2. 光沢錫メッキ
光沢錫メッキは、表面が滑らかで光沢があり、美しい外観を持つのが特徴です。
また、無光沢錫メッキに比べ皮膜硬度がHV40〜60と高いため、コネクターなど挿抜が求められる場合には光沢錫メッキがお勧めです。
2.3. 錫合金メッキ
錫合金メッキは、錫と他の金属を組み合わせた合金メッキです。
組み合わせの金属によって、錫単体とは異なる様々な特性を与えることができます。
代表的な錫合金メッキには、以下のようなものがあります。
錫-鉛合金メッキ
RoHS規制が始まる以前は最も使われた錫合金メッキです。
ハンダ付け性に優れ、ウイスカの抑制にも優れた錫合金です。
当社にて対応可能です。
錫-銀合金メッキ
接続信頼性が高いため、端子に採用されています。
錫-ビスマス合金メッキ
融点が139℃と低いため、低温実装用のハンダとして利用されています。
錫-銅合金メッキ
鉛以外の合金メッキの中で原料コストが最も安価ですが、ウイスカの問題からメッキ後にアニール処理が必要になるため、トータルコストで考えると見極めが必要です。
2.4. 錫メッキ、錫合金メッキ皮膜比較データ
3. 錫メッキの優れた特性
錫メッキは、その優れた特性を生かして、様々な分野で広く用いられています。
具体的な特徴と用途例を以下に示します。
3.1. 耐食性の向上
錫メッキは、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、コハク酸などの有機酸に腐食されにくいため、鉄板にスズメッキを施したブリキとして缶詰、屋根、容器などに利用されています。
少し変わった耐食性の向上方法として、光沢ニッケルや無電解ニッケルメッキの上にスズメッキを施した後に熱処理を行う事でスズーニッケル金属間化合物を形成し、より耐食性を向上させる方法もあります。
3.2.はんだ付け性の向上
錫メッキは融点が低く、他の金属と容易に合金を形成するため、はんだ付け性に優れています。チップ抵抗器やチップコンデンサーの電極に錫メッキを処理する事で実装時のハンダ接合性を向上させます。
3.3.潤滑性の向上
錫メッキは潤滑性があるため、錫メッキを施すことで、摩擦を軽減し、潤滑性を良くすることができます。ベアリングなどの潤滑性を目的とした部品に使用することで、摩擦力が軽減されるため、摺動部の滑り性向上に有効です。
3.4. 装飾性
光沢錫メッキは銀白色の美しい光沢のある外観になります。この外観を利用して装飾目的で錫メッキを施すこともあります。食器や仏具などの表面に錫メッキを施すことで、高級感のある仕上がりになります。
光沢錫メッキ以外にも、スズ-コバルト合金めっきやスズ-ニッケル合金めっきなどが装飾目的で使われる場合があります。スズ-コバルト合金めっきは装飾クロムめっき似た青白い色調、スズ-ニッケル合金めっきがピンクがかったシルバー色です。ニッケルアレルギー対策用ようとして銅-スズめっきなども実用化されています。
3.5. 食品衛生
錫は、人体に毒性が無いため、食品や飲料と接触するような容器などにも安心して使用することができます。
毒性が無いだけでなく、「錫の杯は酒の毒を消す」「錫に入れたお水は腐りにくい」と言われるほど、錫には殺菌作用がある事が古くから知られています。錫メッキには錫同様の抗菌作用があるため、食品容器や食品製造機器などの表面に錫メッキを施すことで、食品衛生を向上させることができます。
3.6. RoHS対応
錫は、RoHS指令で規制対象となる有害物質を含まないため、欧州市場への製品輸出を容易にします。
4. 錫メッキの欠点
錫メッキは、優れた導電性、耐食性、はんだ性などを有する一方で、いくつかの欠点も持ち合わせています。以下では、錫メッキの代表的な欠点について詳細に説明します。
4.1.融点が低い
錫メッキは、融点が232℃と低いため、高温環境で使用できないという欠点があります。例えば、高温になるエンジン部品や半導体製造装置などには使用できません。また、はんだ付け時の熱にも弱いため、高温のはんだを使用すると、錫メッキが溶けてしまう可能性があります。
4.2.柔らかい
錫は柔らかい金属であるため、摩擦や衝撃に弱く、傷がつきやすいという欠点があります。特に、硬い物質との接触や、頻繁な摩擦を受けるような環境では、すぐに傷が付いてしまいます。傷が付くと、そこから腐食が始まる可能性もあり、耐食性が低下してしまうという問題もあります。出荷の際にも製品を紙などで包んでしまうと輸送時の振動でメッキ面と紙が擦れて傷の原因となりますので、出荷時の梱包にも注意が必要です。
4.3.酸化しやすい
錫は空気中の酸素と反応して酸化しやすい金属です。そのため、酸化を防ぐために、表面に保護膜を形成する必要があります。しかし、保護膜は時間の経過とともに劣化するため、定期的なメンテナンスが必要となります。
4.4.ウイスカの発生
錫メッキは、表面にヒゲ状の錫単結晶であるウイスカが徐々に自然成長することがあります。ウイスカは短絡などの原因となるためウイスカの発生を抑制するメッキ処理が必要です。
5.錫メッキと他のメッキとの比較
錫メッキは、優れた導電性、耐食性、はんだ性などを有する一方で、融点が低い、柔らかい、酸化しやすいなどの欠点も持ち合わせています。そこで、ここでは錫メッキと他の代表的なメッキとの比較について詳細に説明します。
5.1. 錫メッキと亜鉛メッキ
亜鉛メッキは、鉄鋼材料の防錆目的で広く利用されています。錫メッキと比較すると、以下のような特徴があります。
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亜鉛メッキと錫メッキはどちらも優れた耐食性を持っている皮膜ですが、使用される環境により異なりますので、ご評価が必要です。
また、亜鉛メッキ皮膜は自己犠牲型の防錆に対し、錫メッキ皮膜は自己防錆型皮膜の違いがあります。 -
錫メッキに比べ亜鉛メッキの方が低コストで処理できます。亜鉛は比較的安価な金属であり、メッキ処理も比較的簡単です。
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亜鉛メッキは、錫メッキよりも光沢が少なく、灰色をしています。そのため、装飾性を重視する場合は不向きですが、クロメート処理を施す事で黒色、青白い外観、黄色味の外観など色調を替える事が可能です。
用途:亜鉛メッキは、主に鉄鋼材料の防錆対策として使用されます。建築材料、自動車部品、電柱など、様々な用途で使用されています。
5.2. 錫メッキとニッケルメッキ
ニッケルメッキは、適度な硬度があり、強磁性を示す金属です。 ニッケルめっきを施すと、黄白色の美しい外観になるほか、優れた耐食性が得られます。。錫メッキと比較すると、以下のような特徴があります。
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ニッケルメッキの方が、錫メッキよりも皮膜硬度が高く、耐摩耗性に優れています。
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ニッケルメッキは、錫メッキよりも優れた耐食性を持ちますが、中性塩水噴霧試験での評価では亜鉛メッキより劣ります
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ニッケルメッキは、錫メッキよりも導電性に優れています。
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ニッケルメッキは、錫メッキよりも高コストで処理されます。
用途:ニッケルメッキは、装飾品、機械部品、電気部品など、様々な用途で使用されています。
5.3. 錫メッキと金メッキ
金メッキは、室温付近における熱伝導・電気伝導共に全金属中で3番目に優れた性質を持っています。化学的に安定で耐食性に優れており、また、電気と熱の伝導性、はんだ付け性に優れています。錫メッキと比較すると、以下のような特徴があります。
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金メッキは、錫メッキよりも金属的に安定で、優れた耐食性により、腐食しにくい特徴があります。
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錫メッキよりも金メッキの方が導電性に優れています。
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金メッキは、錫メッキよりも非常に高コストで処理されます。金は希少価値の高い金属ですので、日毎・月毎でコスト計算がされる程です。
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金メッキは、金色に輝く美しい外観を持ちます。
用途:金メッキは、装飾品、電気接点、コネクタなど、様々な用途で使用されています。
5.4. 錫メッキと銀メッキ
銀メッキは従来、洋食器及び装飾品の表面処理に使用されていましたが、近年では優れた電気伝導性を利用した電子部品、優れた潤滑性を利用した軸受部品、および優れた反射率を利用した光学部品の製造への用途展開がされています。
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銀メッキは、金属の中で最も優れた導電性で、電気抵抗率(nΩ)が錫メッキの約7分の1と低い抵抗率です。
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銀メッキは、錫メッキに比べ耐食性が劣り、硫化や酸化しやすいメッキ皮膜です。
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銀メッキは、錫メッキよりも高コストで処理されます。
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銀メッキは、銀白色の光沢のある外観を持ちます。
用途:銀メッキは、食器、装飾品、電気部品など、様々な用途で使用されています。
6. 錫メッキJIS規格(JIS H8619)
JIS H8619は、電気部品などのはんだ濡れ性、防食性などの向上の目的で金属素地上に行った有効面の電気すずめっきについて規定する。
注)電気めっきされた光沢または、無光沢もしくは電気メッキ後に溶融処理によって溶融光沢化されためっきを含む。
7. 錫メッキのQ&A
Q:錫メッキは剥離、再処理可能か?
A:母材によって剥離できない場合もありますが、剥離剤や機械研磨によって剥離し、その上から再メッキ処理する事が可能です。
Q:錫メッキは錆びる?
A: 錫自体は錆びにくいですが、表面に酸化皮膜が形成されることで、黒ずみやくすみが発生することがあります。
Q:錫メッキは音質に影響を与える?
A: はい。錫メッキは音質に影響を与えることがあります。特に、オーディオ機器に使用する場合には、音質の変化に注意が必要です。
Q :錫メッキはアルミ素材へも処理できる?
A :はい。アルミ素材へも処理可能です。色々な処理方法がありますが、当社の場合ですと下地にニッケルメッキを施してからの錫メッキをお勧めしております。
その他の素材、銅合金や鉄鋼などへの錫メッキはもちろんですが、チタンやセラミックスなどへも錫メッキ処理が可能です。