メッキ製品の腐食の原因がメッキ皮膜の膜厚が原因だったら原因を知りたくないですか?
メッキ処理された製品は、私達の日用品からスマートフォン、自動車、建築材料などの幅広い分野で応用されており特に、電子部品の製造では電気メッキ、無電解メッキが重要な技術となっています。
無電解メッキは皮膜の均一性(レベリング性)や耐酸性、耐アルカリ性など様々な特性を持っているため、自動車産業から建築関係、OA機器など幅広い分野で活用、利用されているメッキ加工です。
メッキの加工方法には大きく分けて電気メッキと無電解メッキに分けられます。
電気メッキの場合、外部電源を用いて処理を行う方法で、板形状を例にあげますと、板の外周部に電流が集中し、板の中心部は電流が集中しない特性があります。この電流集中の差によりメッキの膜厚に差に繋がります。(電流の集中する外周部のメッキ膜厚が厚く、電流の分散する中心部はメッキ膜厚が薄くなります。)この形状による電流の強さの差(メッキ膜厚の差)が電気メッキのデメリットとなります。
その点無電解メッキは製品形状による膜厚のバラツキが少なく、皮膜の均一性に優れているため、寸法公差の厳しい精密部品へのメッキ処理や、加工の際に削り過ぎた製品の寸法修正などとして幅広く利用されています。
こんな無電解メッキですが、無電解メッキの中でも最も利用されておりますニッケルメッキ(無電解ニッケルメッキ)の持つ特性とメリットを詳しくご紹介します。
■INDEX■
1. 無電解メッキ(化学メッキ)とは...
無電解メッキ(electroless plating)とは、化学メッキとも呼ばれ、化学反応を利用しメッキを析出される方法です。
この方法は、化学反応を利用した加工処理であるため、電気メッキなどのように電流分布による影響や、製品の形状による膜厚のバラツキが生じにくいため、高い寸法精度の部品などに対し処理を行っても均一に処理ができるため、交差を維持しながら様々な特性を持たせる事ができるため、幅広く利用されています。
また、無電解メッキとは、金属化合物の溶液または気体などを使用し、化学還元作用にて金属または非金属表面に金属皮膜を形成する方法を無電解メッキ法(化学メッキ法)と総称します。処理の方法には次の方法があります。
置換メッキ(浸漬メッキ法、接触メッキ法)
化学還元法(自己触媒メッキ法、非触媒メッキ法)
熱分解法(CVD)
無電解ニッケルメッキは②の化学還元法の自己触媒メッキ法によるメッキの処理方法になります。
1.1 無電解ニッケルメッキはなぜカニゼンメッキと呼ばれるの?
「無電解ニッケルメッキ」は「カニゼンメッキ」と呼ばれたりするのですが、カニゼンメッキが無電解ニッケルメッキと同一処理であることはあまり知られておりません。なぜ無電解ニッケルメッキ処理をカニゼンメッキと呼ばれているか昔に遡ってご紹介。
カニゼンメッキの由来は昭和30年頃小野田セメント株式会社がカニゼンプロセスを初めて技術導入し、全国に広めたのですが、その際にカニゼンメッキという名前で無電解ニッケルメッキ処理を全国に広めたため、カニゼンメッキという呼び名が広まり定着し現在に至ります。
※カニゼンメッキ=無電解ニッケルメッキ(呼び名の違いで同一の処理です。)
1.2 無電解ニッケルメッキとは...
無電解ニッケルメッキ(カニゼンメッキ)ですが、実は複数種類の無電解ニッケルメッキ、厳密には無電解ニッケルベースの合金メッキがあるんです。
無電解ニッケルーリン合金メッキ(Ni-P合金メッキ)
無電解ニッケル-ホウ素合金メッキ(Ni-B合金メッキ)
無電解ニッケルーリンーPTFE(Ni-P-PTFE複合メッキ)
その他無電解ニッケルベース合金メッキ(複数あり)
無電解ニッケルベースの合金メッキには沢山種類がありますが、無電解ニッケルメッキと言われた場合、一般的に無電解ニッケル-リン合金メッキ(Ni-P合金メッキ)を指しております。
1.3 無電解ニッケルメッキのメリット
無電解ニッケルメッキのメリットは色々あります。
非金属のプラスチックやセラミックスのような素材にもメッキ処理することができる。
複雑な形状の製品でも均一な膜厚の皮膜が得られる。
寸法交差の厳しい精密な製品の寸法維持ができる。
皮膜の最大硬度がHV1000とステンレス素材の約4倍の硬さが得られる。
RoHS(ローズ)指令に対応(鉛フリーの素材なので安全)
1.4 無電解ニッケルのデメリットはどんなところ??
もちろん無電解ニッケルにもデメリットはあります。
電気ニッケルメッキに比べ処理代が高額
極端な厚付を行うとピットが発生する。
メッキで光沢を得にくい
よく無電解ニッケルメッキの処理代が他のメッキ加工代に比べて高い事が言われます。
加工代が高くなる理由は、酸化物等の蓄積により無電解ニッケルメッキ液を定期的に更新する必要があるためです。
電気メッキのメッキ液は金属分などの補給や浄化は行うのですが、液の管理をしっかりしていれば半永久的に使用できます。
2. 無電解ニッケルメッキ膜厚測定方法
無電解ニッケルメッキの膜厚精度が良くても、測定評価ができなければ意味がありません。 そこで無電解ニッケルメッキ皮膜を測定試験する方法をご紹介致します。
一般的な無電解ニッケルメッキの膜厚測定方法としましては以下の方法があります。
蛍光X線式試験方法
デジタルマイクロメーターによる試験方法
質量計測による無電解ニッケルメッキ皮膜付着量試験
断面観察による測定試験
2.1 蛍光X線式試験方法
蛍光X線式厚さ試験方法とは、物質にX線を照射するとその物質中に含まれる元素に固有のX線が放射され、無電解ニッケルメッキの膜厚を既知の試料との蛍光X線量を比較することによって無電解ニッケルメッキの膜厚を測定できる試験方法です。
金属、非金属上の比較的薄い無電解ニッケルメッキの膜厚測定に利用されます。
蛍光X線量の選別方式によって波長分散型とエネルギー分散型の2つの方式があり、無電解ニッケルメッキを施す製品によっては測定できない場合もあるので確認が必要となります。
2.2 デジタルマイクロメーターによる試験方法
デジタルマイクロメーターによる試験方法とは、外径、内径などの寸法を測定できる精密測定機器で、無電解ニッケルメッキ前・後の寸法の差を測定することで無電解ニッケルメッキの膜厚を測定する方法です。
板厚であれば表裏両面無電解ニッケルメッキ分厚くなるため、片側の無電解ニッケルメッキの膜厚はトータル膜厚÷2で片側の無電解ニッケルメッキの膜厚を算出します。
※無電解ニッケルメッキ皮膜のように均一にメッキ処理される方法に限る測定方法になります。
2.3 質量計測による無電解ニッケルメッキ皮膜付着量試験
質量計測による無電解ニッケルメッキ皮膜付着量試験とは、無電解ニッケルメッキの皮膜重量から膜厚を測定することが出来ます。
皮膜重量の測定には小数点以下3桁(0.000)まで秤量可能な電子天秤にて測定し、無電解ニッケルメッキ前・後の重量を電子天秤にて測定します。
測定した結果を下記の計算表に当てはめて計算します。
無電解ニッケルメッキ皮膜重量(g) = 無電解ニッケルメッキ後重量(g) - 無電解ニッケルメッキ前重量(g)
無電解ニッケルメッキ膜厚(μm) = 無電解ニッケルメッキ皮膜重量(g)/製品表面積(cm2)/無電解ニッケルメッキ比重(g/cm3)×10000
2.4 断面観察による測定試験
断面観察による測定試験とは、無電解ニッケルメッキを施した製品を切断し、断面を観察測定することで無電解ニッケルメッキの膜厚を測定する方法です。
実際の膜厚を実測で測定できる方法ですので、蛍光X線やデジタルマイクロメーターなどでの測定値が正しい値か確認するための検証測定としても利用しております。
デメリットとしまして製品を切断する必要があるため、破壊試験となり破壊ができない案件などには不向きな内容となります。
3. 無電解ニッケルメッキの実績精度
無電解ニッケルメッキの膜厚精度につきまして弊社で実際に処理した加工実績をご紹介します。
Φ5×200mmの細長いパイプ内面の断面観察を施したのですが、膜厚は15.20~15.48μmでした。
※ 1μm(マイクロメートル)は1000/1mm
肉眼では確認できないかなり極小の単位です。弊社の無電解ニッケルメッキであれば、これほど精度の高い均一な膜厚を実現することができます。
4. 膜厚測定以外のメッキ皮膜評価
膜厚測定以外にはどのような評価方法があるのかご紹介
膜厚測定以外にもメッキ皮膜を評価する項目は色々あります。
ビッカース皮膜硬度測定(単位はHVになります。)
メッキ皮膜密着強度試験(テープテスト、ピール強度試験などがあります。)
耐食性試験の詳細はこちら(中性塩水噴霧試験、酢酸塩水噴霧試験、キャス試験などがあります。)
その他にも仕様に応じたメッキ皮膜の評価テストがございます。
5. まとめ
一般的に無電解ニッケルメッキ皮膜は均一性が良好で・・・・って表現されます。
こんなお問い合わせを頂きました。
「無電解ニッケルメッキを依頼しましたが、止まり穴の中に無電解ニッケルメッキが施されていないようで、穴の内径に腐食が発生していますが考えられる原因は?」というご質問を頂きました。
なぜこんな問題が発生し、原因は??
無電解ニッケルメッキはホスフィン酸ナトリウム(次亜リン酸ナトリウム)の還元作用による 化学反応を利用した処理方法です。 金属イオンが常に供給されている状態であれば均等に処理が可能です。
今回ご質問頂いた止まり穴の内部や小さな穴の内径などは、メッキ液の入れ替わりがないため、メッキ皮膜になる金属分が不足状態になります。
結果、止まり穴に無電解ニッケルメッキが施されておらず、穴の内部が腐食するという事態が発生したものと考えられます。
無電解ニッケルメッキの膜厚のバラツキはいろんな要素で発生することがあります。
1つの原因として無電解メッキ液の循環(常にフレッシュなメッキ液が供給されているか)不足が原因として挙げられます。
穴の内部腐食などでお困りの際は、ぜひ弊社までご相談ください。
お急ぎの方はこちら 直通電話 090−6819−5609
【著者のプロフィール】
1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。
30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。
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