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【メッキのプロ直伝】ニッケルメッキは、腐食や外的要因から守り、尚且つ硬さなどの性能を向上させる事が出来ます。

更新日:5月9日

物には必ず寿命があります。

どんな物でもできるだけ長持ちしてほしいと思う一方、特に金属製品などは、空気に触れているだけでも経時に伴って劣化(腐食)してしまうこともしばしばあります。また、化学的な影響がある環境では、さらにその劣化が進んでしまうことも珍しくありません。


このような外的要因から製品を守り、耐久性を向上させる手段として有効な技術として、メッキが挙げられます。メッキにおける耐久性の要素として、耐食性や耐酸性などの性質があります。


本記事では、メッキの耐久性について解説し、耐久性を向上させるメッキの代表的な存在の一つであるニッケルメッキについてご紹介します。その中で、無電解ニッケルメッキについてはその特徴や用途を詳しく解説します。


■INDEX■


  ・製品を長持ちさせるために

  ・耐食性とは

  ・耐酸性とは

  ・その他の耐久性


  ・耐久性を向上させるメッキという技術

  ・犠牲防食タイプ

  ・高耐食性皮膜タイプ


  ・ニッケルの耐食性とニッケルメッキ

  ・電解ニッケルメッキと無電解ニッケルメッキ

  ・無電解ニッケルメッキの原理

  ・無電解ニッケルメッキの特徴


  ・無電解ニッケルメッキの耐食性

  ・無電解ニッケルメッキの耐酸性

  ・耐久性を利用した用途




 

1.製品の耐久性

1.1.製品を長持ちさせるために


原材料を加工し、生産されたものは、「製品」となって私たちの元に届きます。

身の回りの小物のようなものから、住宅など大型のものまで、世の中にはたくさんの製品があります。 消費者にとって、せっかく購入した製品はある程度の期間は長持ちしてもらわなければ困ります。

生産者は、その製品が一定期間は機能を保持し、壊れたり劣化しないことを保証する必要があり、それが製品の信頼性にも繋がります。


製品がどのくらいの期間長持ちするかを示す性質を耐久性といいます。 耐久性は使用する環境などにも左右されますが、少なくともその製品を使用する典型的な環境での耐久性を保証することも、製造者の重要な責務となるのです。


原材料そのままの状態では耐久性を保証できないものも多く、製造の段階で、耐久性を保証するための工程を経るものも少なくありません。


後ほど詳しくご紹介しますが、メッキも耐久性向上の技術として広く使われる技術で、製品を腐食などの劣化から守り、寿命を長くしてくれるものとして活用されます。


1.2.耐食性とは

一言に「長持ち」と言ってもさまざまな要素があり、耐久性は多くの性質から構成されるものです。中でも金属材料でよく挙げられるのが耐食性です。


金属は空気中で酸素と反応し、酸化物となって性質を変えてしまうものがほとんどです。このことで機能性や強度を低下させてしまうことも多く、このように金属が化学的に性質を変えて製品の劣化を引き起こしてしまう現象を腐食といいます。


金属系の製品は特に、腐食によって製品寿命を縮めてしまうことも多く、鉄が錆びて使えなくなる状態などは腐食の典型的な例です。耐食性とは、腐食しにくいかどうかの度合いを示す性質で、当然耐食性が高いものほど長持ちします。なお、腐食はその物質のイオン化傾向に関連し、金属の中でも金や白金のようにイオン化傾向が低い物質はあまり腐食しません。


金属製品に金メッキを施すのは、単に見た目の美しさのみでなく、耐食性の向上も理由の一つになっていることが多いです。


腐食をそのままにしておくと、最終的にその箇所が破壊し、大型構造物だと重大な事故に発展するケースもありますので、決して甘く見てはいけない現象です。また、異種金属を隣り合わせに接しておくと、それぞれのイオン化傾向の差が腐食を引き起こす、ガルバニック腐食という現象も注意しておく必要があります。


1.3.耐酸性とは

製品の使用環境の中には、酸性が強いところで使用する状況もあります。酸とは水に溶けると水素イオンを生じる物質で、具体的には塩酸、硫酸、酢酸などがあります。


金属などの物質が酸の環境にあると、金属物質と水素イオンの相手になっているイオン(例えば塩酸なら塩化物イオン)が反応し、やはり腐食が起きてしまうことがあります。

耐酸性とは、このような酸の環境でも腐食しにくい性質のことです。

1.4.その他の耐久

他にも、酸に対してアルカリに強い耐アルカリ性という性質もあります。 アルカリ(塩基)は水に溶けると水酸化物イオンを生じる物質で、水酸化ナトリウムなどがこれに当たります。そのような環境で腐食に強い性質を耐アルカリ性といいます。


酸、アルカリを含めて薬品に対する耐久性を耐薬品性ということもあります。また、ここまでは化学的な話が中心でしたが、機械などの摺動部で繰り返し動くことによって次第に接触部がすり減ってしまう摩耗という現象も、製品の耐久性の要素となります。


摩耗に対する性質を耐摩耗性といい、一般には硬度の高い物質ほど耐摩耗性も高い傾向にあります。



2.耐久性とメッキ

2.1.耐久性を向上させるメッキという技術


前でも少し述べましたが、メッキは耐久性を向上させるために有効な技術です。金のように化学的に安定している物質ばかりで製品を製造できればよいのかもしれませんが、それではどんなものでも高価になりすぎてしまいますし、そもそもそれほどの量の金は存在しません。


鉄やアルミのような物質は、例えば空気中で酸素と反応してしまいますが、空気と接する表面だけでも反応しにくい素材の皮膜で覆っておけば、耐食性は増します。耐食性を増すためのメッキは、基本的にはこの考え方に則って行われます。また、その皮膜の性質によって、犠牲防食タイプと高耐食性皮膜タイプに分けることができます。


なお、メッキによって硬度を上げて耐摩耗性を高くすることもよくありますが、本記事ではこれより後は、耐食性の面から見たメッキと耐久性について詳しくご紹介してゆきます。


2.2.犠牲防食タイプ

メッキによって耐食性を確保する方法は、犠牲防食タイプと高耐食皮膜タイプの二つがあります。

犠牲防食というのは、表面にイオン化傾向の低い金属の皮膜をメッキし、皮膜が優先的に腐食してゆくことで素材を守る方法です。仮に表面の皮膜に傷が付き、少し素材が露出したとしても、他の部分の皮膜が優先的に腐食してゆくため、耐食性に大きな影響はありません。


犠牲防食タイプの典型的な例として、鉄素材に用いる亜鉛メッキやスズメッキが挙げられます。前者を「トタン」、後者を「ブリキ」などとも言い、古くから私たちの身の回りにも普及している技術です。


2.3.高耐食皮膜タイプ

高耐食皮膜タイプは、耐食性の高い物質の皮膜をメッキし素材を守る方法です。いわば耐食性の高い物質のバリアを張るような方法ですが、こちらは仮に皮膜に穴が空き、素材が一部でも露出してしまうと、その部分から素材の腐食が進行してしまいます。


このようなメッキの欠陥はピンホールといい、このタイプのメッキ方法ではできるだけ避けたいものになります。本記事でこの後詳しくご紹介するニッケルメッキはこちらのタイプに属します。



3.ニッケルメッキとは

3.1.ニッケルの耐食性とニッケルメッキ


ニッケルという金属は耐食性に優れ、強度も高い金属で、現在ではとても広く利用されている金属です。ニッケル単体で使用するというより、ニッケルを他金属に含有させての利用が多く、例えば銅とニッケルの合金を硬貨に用いるなど、私たちの日常にも普及しています。


鉄とニッケル、クロムから成る合金をステンレス鋼といいますが、これは腐食しにくい鉄としても有名なものです。このようなニッケルの耐食性の高さを利用した表面処理がニッケルメッキです。

一般にニッケルメッキは光沢があり、耐食性や耐熱性に優れています。


3.2.電解ニッケルメッキと無電解ニッケルメッキ

ニッケルメッキには、電解ニッケルメッキと無電解ニッケルメッキの二つがあります。電解ニッケルメッキは電極を用いて通電によってメッキを行う方法です。皮膜の成分はほぼ100%ニッケルで、耐食性にも優れています。表面に光沢があり、装飾なども目的でも用いられます。


通電によってメッキを行うため、電気を通す条件でなければメッキを行うことはできず、電極からの位置によってメッキにムラができることもあります。


一方で無電解ニッケルメッキはニッケルとリンの合金が皮膜となることが一般的です。リンの含有量によっても数値に違いがありますが、電解ニッケルメッキより高い耐食性を持っています。また、その名の通りメッキに際して通電する必要はなく、電極を用いることによるデメリットはありません。

ただし、皮膜の析出速度が遅く、同じ膜厚でも電解ニッケルメッキよりメッキに時間を要してしまいます。


3.3.無電解ニッケルメッキの原理

無電解ニッケルメッキは通電せず、メッキ液内の電解液と素材の化学的な還元反応を利用してニッケルを析出させます。したがって、素材をメッキ液に浸すだけでメッキが進行してゆきます。ニッケルが析出した後もそのまま時間の経過に応じて膜厚が次第に厚くなってゆきます。


電解ニッケルメッキとの大きな違いは、このときに析出する皮膜はニッケルとリンの化合物である点と、皮膜が浸した材料のあらゆる箇所に均一に生成されることです。このときのリンの含有量によって、無電解ニッケルメッキはさらに3つに分けられます。


低リンタイプ(リン含有量4%以下)、中リンタイプ(7~10%)、高リンタイプ(11%以上)の3種類で、厳密に言うとそれぞれで皮膜の性質も少しずつ異なります。


高い均一性により、特に複雑な形状の製品では、電解ニッケルメッキより無電解ニッケルメッキの方が確実性が増します。また、ニッケルメッキのような高耐食皮膜タイプでは避けたいピンホールの出現率も、電解ニッケルメッキより低いです。


3.4.無電解ニッケルメッキの特徴

耐食性についてはこの後詳しくご紹介するとして、無電解ニッケルメッキの一般的に言われている特徴をご紹介します。


耐食性と並んでよく利用される特徴は硬度の高さです。無電解ニッケルメッキの硬度は他のメッキと比べてもかなり高く、そのため部品の表面の保護や耐摩耗性の向上によく用いられます。自動車のエンジンや軸受のような、摩耗によって消耗しやすい部品に無電解ニッケルメッキを用いることも多いです。

また、皮膜自体の通電性は高い、リンの含有量によっては非磁性となる、はんだ付け性(ワイヤボンディング性)に優れていることなども大きな特徴です。電気的な特性も利用して、電子部品などに用いられることもあります。



4.無電解ニッケルメッキの耐久性

4.1.無電解ニッケルメッキの耐食性

無電解ニッケルメッキの皮膜にはリンが含まれており、結晶構造が電解ニッケルメッキのものと異なります。このことが耐食性を向上する要因となります。


リンを含有せず結晶構造が違う電解ニッケルメッキと比べると、耐食性は高いです。 また、基本的にリン含有量が高いほど耐食性は良好で、無電解ニッケルメッキの中でも、低リンタイプに比べて中リンタイプや高リンタイプの方が耐食性が増します。


さらに、無電解ニッケルメッキはピンホールの出現率も低く、バリアがしっかりしていて、腐食を起こしてしまう箇所が少ないという意味でも耐食性が高いです。なお、さらに耐食性を向上させたい場合、以下のような方法があります。

  1. 150~200℃程度の熱処理を行う(ただしそれ以上の温度にするとかえって耐食性が悪くなります)。

  2. シリコンオイルなどでさらにピンホールを塞ぐ処理を行う。

  3. ニッケル-銅-リンなど耐食性がより高い合金皮膜を選択する(電解液が変わります)。


4.2.無電解ニッケルメッキの耐酸性

無電解ニッケルメッキの耐酸性も、リン含有量によって異なります。 リン含有量は高いほど耐酸性も高くなり、高リンタイプのものが最も耐酸性が高いです。なお、耐アルカリ性については逆に低リンタイプの方が良好で、使用環境に応じてリン含有量を選択することも必要になります。


また、製品で使用される薬品の種類によっても対応が違いますので、耐薬品性での用途でご検討の際はお気軽にご相談ください。


4.3.耐久性を利用した用途

無電解ニッケルメッキは広い用途で用いられます。船舶や航空、機械分野の部品で用いられることも多く、その際に耐食性の高さが効果を発揮することもよくあります。


また、化学分野の管やバルブなどにも、優れた耐食性や耐酸性(耐薬品性)が有効です。 耐食性や耐薬品性は、歯科用器具といった特殊な用途への応用にも繋がっています。



5.まとめ

無電解ニッケルメッキの話を中心に、ニッケルメッキの耐食性や耐酸性、耐久性について解説いたしました。以下はそのまとめです。

  1. 耐久性には耐食性や耐酸性といった要素があり、耐食性は腐食しにくい性質、耐酸性は酸に対して強い性質である。

  2. 製品の耐久性を確保するためにメッキを行うことも多く、高耐食皮膜タイプで耐食性に優れたニッケルメッキはその有効な方法の一つである。

  3. ニッケルメッキには電解ニッケルメッキと無電解ニッケルメッキがあり、皮膜にリンが含まれる無電解ニッケルメッキのほうが耐食性が高い。

  4. 無電解ニッケルメッキはリンの含有量によってタイプが異なるが、リン含有量が多いほど耐食性が高い。

  5. 無電解ニッケルメッキは、リン含有量が多いほど耐酸性も高い。

製品の耐久性向上など、無電解ニッケルメッキをご検討中のお客様は是非お気軽にご相談ください。



6.当社におけるニッケルメッキのご対応について

当社にて無電解ニッケルメッキの対応をしております。 鉄、ステンレス、アルミニウム、銅・銅合金への実績はもちろん、製品の部分的なマスキング対応、

ネジやナット、その他の小物などジグに装着できない製品へも対応可能です。


無電解ニッケルメッキの特性ではクリアできない案件など合金メッキ、複合メッキなど含めご提案しておりますのでお気軽にご相談ください。


お急ぎの方はこちら 直通電話 090−6819−5609





【著者のプロフィール】

1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。

30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。




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