メッキは素材の表面処理方法として広く用いられている方法です。
実はその歴史は古く、人類は紀元前からこのメッキという技術を扱っています。
中身が露わになり本性がばれてしまうことを「メッキがはげる」という慣用句を使ったり、日常の中にも溶け込んだ言葉となっているメッキ。
本来の技術的な意味や位置づけは確固たるものがあります。
本記事ではメッキとはなにか?について説明し、その種類や特徴を紹介してゆきます。
他の表面処理方法との違い、メリットやデメリットもお示しし、メッキをご検討中の方の活用のお助けとなるよう、解説してまいります。
■INDEX■
2.1.特殊な性質や機能の追加
2.1.1.離型性を向上させる機能メッキ
2.1.2.摺動性を向上させる機能メッキ
2.2.防食
2.3.装飾
3.1.乾式のメッキ処理方法
3.2.湿式のメッキ処理方法
3.2.1.置換メッキ
3.2.2.電気メッキ
3.2.3.無電解メッキ
5.1.ニッケル
5.2.クロム
5.3.銅
5.4.金
5.5.銀
6.1.メッキとアルマイトの違い
6.2.メッキと塗装の違い
7.1.メッキのメリット
7.2.メッキのデメリット
1.メッキとは
メッキとは、素材の表面に金属の皮膜を付着させる表面処理の総称です。
素材の表面にさまざまな処理を施す表面処理技術の中でも代表的な存在の一つで、工業製品をはじめ、さまざまな製品に活用されています。
素材は金属であることが多いですが、一部は樹脂やセラミックスなど非金属の素材に施すことも可能です。
まずはメッキを行う目的や種類について、ご紹介してゆきます。
2.メッキの目的と特徴
2.1.特殊な性質や機能の追加
メッキにはたくさんの種類があり、その目的や特徴もさまざまです。
メッキを行う目的の一つとして、表面に特定の機能性を追加することがあります。
例えば、導電性の高い金属の皮膜を表面に付着させることで、その素材の元の性質に導電性を追加することができます。
これを行うことで、元々電気を通さないような物質であっても、電子部品や基板などに用いることができます。
他にも、同様の方法で熱伝導性や磁性などを追加することもできます。
このようなメッキのことを機能メッキといいます。
2.1.1.離型性を向上させる機能メッキ
機能メッキは他にもあります。
金型の製作には、製品を取り外しやすくするため、素材表面の潤滑性や耐摩耗性を向上させる必要がある場合があります。
このような性質を離型性といいますが、メッキによって離型性を向上させることもできるものもあります。
耐摩耗性に関しては、メッキ部分が硬い金属であれば実現できることも多く、単に硬度を向上させるためにメッキを行うこともあります。
硬度の高いメッキの代表として、ニッケルメッキやクロムメッキがあります。
2.1.2.摺動性を向上させる機能メッキ
部品同士が接して動くような機械部品の場合、そのような箇所が簡単に目減りしてしまったり、滑りがスムーズでなかったりすると困ります。
離型性に近い感覚ですが、このような素材に対しては、摺動性と言われる性質を向上させる機能メッキを施します。
摺動性も耐摩耗性が高い必要があり、硬度の高い金属皮膜を付着させることになります。
摺動性の高いメッキの代表として、テフロン無電解複合メッキ(無電解ニッケルとテフロンの複合メッキ)や硬質クロムメッキがあります。
2.2.防食
なんといってもメッキといえばと言うべき性質は防食性です。
防食とは、素材を腐食から守る性質です。
腐食というのは素材が化学反応を起こして劣化してしまう現象で、金属につく錆などもこの現象の一つです。
腐食してしまうと最悪の場合、素材がボロボロと壊れてしまったり強度低下なども起こるので、構造物の腐食は避けたいものとなります。
したがって、メッキによって素材表面を腐食から守る防食メッキは、多くの製品に用いられています。
2.3.装飾
メッキには装飾目的で行われているものも多いです。
メッキの皮膜の見た目は概ねその金属の見た目と同じなので、金や銀など美しい見た目のものも多いです。
また、金や銀でなくても綺麗な光沢を放つメッキも多く、そのような金属皮膜を利用して見た目の美しさを上げるためにメッキを行うケースもあります。
3.メッキの方法は大きく分けると2種類
3.1.乾式のメッキ処理方法
メッキを行う方法は大きく分けて2種類あります。
乾式メッキと湿式メッキです。
乾式メッキとは、メッキの際に水溶液などを利用せずに素材に高真空下で皮膜を付着させる方法です。
通電せずにメッキができるため、メッキできる素材が多い一方、厚いメッキができないことやメッキ速度が遅いことなどのデメリットもあります。
また、湿式メッキに比べコストも掛かってしまいます。
乾式メッキには、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングなどの手法があります。
3.2.湿式のメッキ処理方法
もう一つの方法は湿式メッキです。
いわゆるメッキとしてイメージされる方法はこちらの処理が多く、実例も多いです。
湿式メッキとは、メッキを水溶液などの中で行う方法です。
3.2.1.置換メッキ
置換メッキとは、素材の表面の金属とメッキ液中の金属イオンが置き換えられるような反応でメッキ皮膜を生成する方法です。
品物の表面を皮膜が覆うと、置換できる素材が表れなくなるため、メッキ皮膜はそれ以上は付着しなくなります。
したがって、厚いメッキを行うことはできません。
また、ピンホールと言われるメッキ皮膜に発現する穴も発生しやすいです。
3.2.2.電気メッキ
電気メッキとは、水溶液中で素材を陰極、メッキしたい金属を陽極として電気を流し、メッキを行う方法です。
メッキの中でも最もスタンダードな方法と言え、銅、クロム、ニッケル、亜鉛、金などさまざまな金属を皮膜とすることができます。
電流密度によって皮膜の成膜速度を調整することができますが、電流密度は素材の場所によってばらつきができるため、素材の場所によってメッキの厚さにムラが生じてしまいます。
また、電気を通す材質の素材にしかメッキを行うことができません。
3.2.3.無電解メッキ
無電解メッキとは、電気を使わずに素材をメッキ液に浸漬するだけで化学還元反応によってメッキを行う方法です。
置換メッキと違い、メッキ皮膜自体が触媒にもなるので、皮膜が素材を覆ったあとでも皮膜は生成され続けます。
したがって、厚いメッキをすることも可能です。
メッキに時間はかかるものの、素材の形状に関係なく均一な皮膜を生成することができます。
ピンホールの発現率も低く、安定したメッキを行うことができます。
また、電気を通さない素材にもメッキを行うことが可能です。
4.メッキの処理工程
メッキの処理工程は方法によっても違いますが、大別すると以下のように分けられます。
前作業 → 前処理 → メッキ処理 → 後処理 → 出荷検査 → 梱包・出荷
前作業は素材の確認や治具へのセッティングです。
その後前処理工程を行います。
前処理工程とは、素材の脱脂処理や酸洗い、エッチング、ストラクメッキなどです。
例えば、素材に加工時の油分などが残っているとメッキ皮膜の付着が悪くなってしまうため、そういったものを取り除いたりします。
この工程によって、メッキの密着性を向上させます。
その後、メッキそのものの本工程に入ります。
この工程はメッキの方法によってさまざまです。
その後は後処理工程を行います。
後処理工程は乾燥処理や熱処理です。
この処理を行うことで、硬度改質などを行うことができます。
また、変色防止などの作業もこの工程で行います。
ジグなどから取り外し、外観検査・密着性試験、膜厚測定など必要な検査項目を検査し、問題なければ梱包し出荷となります。
5.メッキに使用する金属の種類
5.1.ニッケル
メッキに使用する金属はさまざまなものがありますが、代表的なものをその特徴とともに紹介します。
なお、皮膜の性質は基本的に使用する金属の性質と一致します。
まずはニッケルです。
ニッケルは耐食性、耐薬品性に優れています。
また、硬度も高く、耐摩耗性が高いため、摺動部品に使用されることも多いです。
ニッケルメッキは電気メッキ及び無電解メッキで行うことができます。
5.2.クロム
クロムメッキは耐食性があるメッキです。
硬質クロムめっきと言われるメッキだと、硬度も非常に高く、摩擦係数も小さいので、離型性や摺動性にも優れています。
したがって、工業用途に非常に良く用いられる一方、クロムは美しい光沢を持つため、装飾用途でも用いられます。
クロムメッキは電気メッキにより行います。
5.3.銅
銅メッキは素材に導電性や熱伝導性などを追加する機能メッキとして用いられることが多いです。
また、銅は人体に対する抗菌性があることを利用した用途でも用いられます。
銅自体が変色しやすいので、銅メッキの表面も変色しやすい性質を持っています。
5.4.金
金メッキは素材表面に金の皮膜が付着し、美しい金の表面の見た目となります。
したがって、アクセサリーや時計などの装飾用途に使われるものを見かけるケースも少なくありません。
また、導電性や熱伝導性にも優れており、耐食性が高いことも大きな特徴で、工業用途に用いられることも多いです。
純金メッキと言われる軟質金メッキの他、硬度を上げた硬質金メッキなどもラインナップされます。
5.5.銀
銀は導電性が金属の中で最も優れています。
したがって、銀メッキは素材に導電性を追加する目的で使用されることが多いです。
金メッキと並んで装飾用途への適用も多く見られます。
6.他の表面処理方法との違い
6.1.メッキとアルマイトの違い
メッキは表面処理の中でも代表的なものですが、他の表面処理方法もあります。
例えば、アルミニウム素材に酸化膜を生成させ、腐食などに強くする方法をアルマイトと言います。
一見すると、アルマイトも素材に皮膜を生成させているように見え、メッキの一種と思われがちですが、実は違います。
アルマイトの場合、アルミニウム素材自体の表面を別の物質に変化させるため、新たに皮膜を生成させるわけではありません。
メッキを行うと全体の厚みは生成皮膜分厚くなりますが、アルマイトの場合は少し異なります。
アルマイト(陽極酸化処理)の成膜原理は、電解質溶液中にアルミニウムを浸し、アルミニウムを陽極(正極)として電気を流すことで、溶液中で電気分解が進み、液中で発生した酸素と結合してアルミニウムの表面に酸化アルミニウムの皮膜が生成されますが、アルミニウムに正極の電気を流す事で素材が溶解しながら酸化アルミニウムの被膜を成膜するため、例えばアルマイトの被膜が10μm成膜できた場合、寸法増加は約半分の5μmとなります。
素材を溶解させながら成膜する方法がメッキ処理と異なる大きな部分です。
なお、どちらも同じように電気を用いた処理を行いますが、メッキの場合は素材を陰極に、アルマイトの場合は素材を陽極に設置するなど、プロセスにも違いがあります。
6.2.メッキと塗装の違い
素材に皮膜を付着させるという意味では、塗装も表面処理の一つです。
また、塗装の場合はそれによって防食を行ったり、機能性の追加や装飾の用途で用いることもあるので、メッキの一つと考えることもできそうに思われます。
しかし、メッキと塗装も別物です。
塗装は樹脂のような金属以外の物質を吹き付けなどの方法で素材表面に塗り、皮膜とする方法です。
メッキの皮膜は金属なのに対し、塗装の皮膜は金属以外となります。
また、これまでのメッキのプロセスでも分かる通り、処理のプロセスも違います。
塗装はコスト的には安く済み、万が一剥がれても再塗装が容易であるなどの手軽さがあります。
ただし、メッキに比べて剥がれやすく、機能も限定的ですが、防錆、識別用途などに優れた特徴があります。
7.メッキ処理のメリット・デメリット
7.1.メッキ処理のメリット
メッキ処理を行うことで素材のままで製品化するより多くのメリットがあります。
そもそもメッキを行う目的にあるように、メッキによって防食性が増し、製品の耐久性が飛躍的に向上するものもあります。
また、素材が元々持っていない性質を追加することもできるため、製品をさまざまな素材によって作ることが可能となります。
装飾用途の見た目の向上も大きなメリットで、金や銀などの素材を用いなくとも、軽くて低コストで同じ見た目のものを製造することも可能です。
塗装のように剥がれやすいこともないため、安心して素材を守ることができることもメリットです。
7.2.メッキ処理のデメリット
メッキ処理のデメリットとして、塗装などに比べると作業に手間がかかり、その分コストも掛かってしまうことがあります。
プロセスが専門的であるため、専門の業者にしか扱えない技術で、設備もそれなりのものが必要となります。
また、素材によっては表面に使用する皮膜金属との相性的に悪い場合もあり、実質的に不可能な組み合わせもあり得ます。
メッキ処理のメリットとデメリットを良く理解し、必要に応じて選択肢として検討することが大切で、専門の業者にも相談してみることは有効な一手となります。
8.まとめ
メッキ処理とはなにか?を解説し、さまざまな観点から特徴やメリット・デメリットなどをご紹介しました。
以下はそのまとめです。
・メッキとは素材の表面に金属皮膜を生成させる表面処理である。
・メッキの目的には、防食性、導電性などの機能性の追加、装飾などがある。
・メッキには乾式メッキと湿式メッキがある。
・メッキの皮膜に用いられる金属はニッケル、クロム、銅、金、銀など多岐にわたり、それぞれに特徴がある。
・メッキは素材に新たな金属皮膜を付着させるもので、酸化膜を付着させるアルマイトとは別の表面処理である。
・素材に樹脂などを吹き付けるなどして行う塗装もメッキとは別の表面処理である。
・メッキは塗装ほど簡単に剥がれることがなく、安定した表面処理方法である。
・メッキは専門性が高く、コストも掛かってしまう場合がある。
・メッキのメリットとデメリットを理解し、必要に応じて活用することが大切である。
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【著者のプロフィール】
1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。
30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。
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