【メッキ技能士直伝】メッキは地球にやさしい?知られざるSDGsとの関係
- connectionfukui
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メッキ業界というと、従来のイメージから、一見すると環境負荷が高い技術であると感じられる方も多いかもしれません。
しかし現在では、メッキ技術は環境負荷の低減に大きく貢献しており、メッキ業界はSDGsとも親和性の高い産業として注目されています。
こうしたメッキ業界の変化の背景には、過去に直面した公害問題と、それに業界全体で真摯に向き合い、克服してきた長い歴史があります。
本記事では、メッキ業界が直面した公害問題とその克服の歩み、そして現在のメッキ業界の姿についてご紹介します。さらに、なぜメッキがSDGs社会において再び注目されるようになったのか、その理由や未来に向けた取り組みについても解説します。
メッキを「環境負荷の高い技術」と捉えている方にも、ぜひお読みいただきたい内容です。
本記事を通じて、メッキ業界に対する新たなイメージを持っていただけましたら幸いです。
■INDEX■
1.1. メッキとは
1.2. メッキの主な目的
1.3. メッキとSDGsの意外な親和性
2.1. 汚染物質
2.2. 公害の社会問題化
2.3. 公害克服のアプローチ
2.4. 現在のメッキ工場の姿
3.1. 製品の長寿命化による資源保護
3.2. 希少資源(レアメタル)の最小化利用
3.3. 循環型社会への適合
4.1. PFAS規制への対応
4.2. カーボンニュートラルとエネルギー革新
4.3. 資源の再定義によるサーキュラーエコノミー
4.4. 働き方と技術承継
1. メッキとは
1.1. メッキとは

メッキとは、素材となる物質の表面に金属の薄い皮膜を付着させる表面処理技術です。
素材そのものの性質を変えることなく、耐食性や耐摩耗性、電気伝導性、外観意匠性など、さまざまな機能を付与できる点が大きな特長です。
皮膜の付着方法には複数の種類があり、現在では主に電解メッキ、無電解メッキ、溶融メッキといった方法が広く採用されています。用途や求められる性能に応じて、最適な工法が選択されます。
メッキの歴史は非常に古く、人類が金属製の道具を使い始めた初期の時代にまでさかのぼります。紀元前から中世にかけては、金や銀を水銀に溶かして塗布するアマルガム法が用いられており、日本では奈良の大仏にもこの技術が使われたことで知られています。
その後、装身具や金具、武器などへの利用を通じて技術は職人の手により受け継がれ、18世紀後半から19世紀にかけて、イギリスで電池を用いた電解メッキ技術の基礎が確立されました。これを契機に、メッキは工業技術として急速に発展していきます。
現在も研究開発は進み続けており、メッキ技術は電子部品、自動車、半導体、医療機器など、現代の先端産業を支える欠かせない存在となっています。
1.2. メッキの主な目的

なぜ、手間をかけてまで金属の皮膜を表面に付着させるのでしょうか。メッキの目的は、主に次の3つに大別されます。
① 防食(耐食性の向上)
1つ目は、防食、すなわち下地金属を錆から守ることです。
金属は空気や水分に触れることで腐食が進行し、錆が発生します。腐食が進んだ金属は、本来持っている機能や強度を失い、さらに錆は内部へと進展していきます。その結果、一定期間を経ると素材は著しく劣化し、製品寿命を迎えてしまいます。
メッキによって表面に保護皮膜を形成することで、このような腐食を未然に防ぎ、製品の耐久性や信頼性を大きく向上させることができます。これは、メッキが担う最も重要な役割の一つです。
② 機能性の付与
2つ目は、機能性の付与です。
素材そのものには備わっていない性質であっても、表面にのみ必要な機能を付与できれば、製品や部品として十分に成立する場合があります。そのため、部品全体を高価な金属で製作するのではなく、メッキ皮膜として必要な機能だけを持たせるという考え方が広く用いられています。
具体的には、電気伝導性や熱伝導性の付与、表面硬度を高めて摩耗しにくくするなどの目的があります。例えば、電気を通す必要がある部品をすべて銅で製作すると、重量が増加し、材料コストも大きくなります。このような場合に銅メッキを活用すれば、部品全体に銅を使用することなく、最小限の銅資源で必要な機能を確保することが可能になります。
③ 装飾性の付与
3つ目は、装飾性です。
金属の中には、美しい光沢や独特の色味を持つものが数多く存在します。これらの金属をメッキとして表面に施すことで、製品の外観価値を高めることができます。アクセサリーや建築金物、日用品などでは、この装飾性を目的としてメッキが広く活用されています。
1.3. メッキとSDGsの意外な親和性

メッキというと、「環境破壊に一役買ってしまっているのではないか」「地球にあまり優しくない技術なのではないか」といったイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
郊外の工場から煙や排水が大量に発生し、近づくと危険、公害の元凶。メッキ業界には、残念ながらそのようなイメージが強く結び付いてしまった時代がありました。
しかし、こうしたイメージは主に1960年代から1970年代の昭和期に形成されたものであり、現在のメッキ業界の実態とは大きく異なります。当時問題となっていた環境負荷や公害に関する課題は、法規制の整備や技術革新、業界全体の取り組みによって、すでに克服されてきました。
それどころか、現在のメッキ技術は、SDGsに代表される持続可能な社会の考え方と非常に親和性が高く、未来を支える重要な基盤技術の一つとして再評価されています。
考えてみると、メッキの基本的な目的である「素材を腐食させず、長く使い続けること」や、「限られた資源を最小限の使用で最大限に活かすこと」は、まさにSDGsの思想と重なります。
もちろん、その実現のために環境を破壊してしまっては本末転倒です。しかしメッキ業界には、公害問題と真正面から向き合い、多大な努力と犠牲のもとで環境対策を積み重ねてきた歴史があります。その結果、現在のメッキは、環境に配慮した技術へと大きく進化しています。
2. メッキ業界における公害克服の歴史
2.1. 汚染物質

では、少しだけ当時の公害克服の歴史をご紹介します。
公害とは、本来、工場などから発生した環境汚染物質が、排気や排水を通じて外部へ流出し、それを動物や植物、さらには人間が取り込んでしまうことで発生するものです。
公害を引き起こす原因物質には、いくつか代表的なものがあります。
たとえば、水銀は水俣病の原因物質として知られており、神経系に深刻な障害を引き起こします。メッキの歴史を振り返ると、紀元前から中世にかけては、水銀を用いた「アマルガム法」が広く利用されていました。日本では奈良の大仏にもこの技術が用いられています。一方で、当時の職人が水銀中毒に苦しんだ記録も残されています。
しかし、19世紀に電解メッキが登場すると、アマルガム法は急速に姿を消し、メッキ技術は大きな転換期を迎えました。
近代以降、メッキ業界で特に問題視されるようになったのが、シアン、六価クロム、鉛、カドミウムといった物質です。
シアンは、金属を安定して溶解・析出させるために当時不可欠な物質でしたが、極めて毒性が強く、わずかな量でも致死的となる危険性があります。
六価クロムは、メッキ皮膜に高い光沢や耐食性を与える目的で多用されていましたが、発がん性が高いことが明らかになり、大きな社会問題となりました。
また、鉛やカドミウムといった重金属は、メッキ皮膜を構成する元素として利用されることがありましたが、土壌汚染や水質汚染を引き起こし、食物連鎖を通じて人体に蓄積されることで健康被害をもたらすことが知られています。
2.2. 公害の社会問題化

折しも高度経済成長期に入り、日本全体で工業化が急速に進んだこの時代、メッキ工場においても、こうした有害物質が結果として環境中へ排出されてしまっていました。
当時は排水処理や環境管理の技術も現在ほど確立されておらず、その影響が土壌や水質に及び、地球環境に悪影響を与えてしまったケースもあったと考えられます。
そのような状況の中、前述のカドミウムを原因物質とするイタイイタイ病をはじめとした深刻な公害が社会問題化し、人々の環境に対する意識は大きく変化しました。
なお、イタイイタイ病の直接的な原因はメッキ工場ではありませんでしたが、メッキ業界もこれを決して対岸の火事とは捉えず、自らの問題として正面から向き合う姿勢を取りました。
当然ながら、国もこの事態を重く受け止め、1967年には公害対策基本法(現在の環境基本法)が制定されました。さらに1970年には、いわゆる「公害国会」が開かれ、水質汚濁防止法や廃棄物処理法(現・廃棄物処理法)など、多くの公害関連法令が成立・改正されました。
これらの法整備を経て、日本では世界的にも類を見ないスピードで厳格な環境規制が導入され、メッキ業界においても排水処理や有害物質管理に関する規制が劇的に強化されることとなりました。
一方、世界に目を向けると、1990年代にはEUにおいてRoHS指令が発令されました。現在でもこのRoHS指令は、いわば世界標準の環境規制として位置付けられています。
日本の公害関連法が主に排出基準の厳格化を軸としているのに対し、RoHS指令は有害物質そのものの使用を制限する点に特徴があります。このような国際的な規制動向に対しても、日本のメッキ業界は早期から対応策を講じてきました。
2.3. 公害克服のアプローチ

このような段階を経て、現在では日本のメッキ業界は、世界でも有数の環境対策を重ねてきた産業となっています。
メッキ業界における公害克服のアプローチは、大きく分けて3つの段階に整理できます。
1つ目は、徹底した排水処理です。
メッキ工程で使用される薬品に含まれる有害物質を、化学的に分解・無害化する排水処理技術が確立されました。
たとえば、シアン化合物は塩素系薬剤などを用いて処理することで、炭酸ガスと窒素へ分解されます。また、強い毒性を持つ六価クロムは、「クロム還元処理」と呼ばれる技術により、毒性の低い三価クロムへ還元したうえで排出できるようになりました。
これらの技術は、現在のメッキ工場における環境対策の基盤となっています。
2つ目は、プロセスそのもののクリーン化です。
「排出物を処理する」段階からさらに進み、そもそも有害物質を使用しない工程を構築するという考え方が広まりました。この思想は、後に制定される国際的なRoHS規制とも方向性を同じくしています。
具体的には、シアンを使用しないシアンフリーめっき液の開発、六価クロムを用いず三価クロムで代替する技術、さらには鉛やカドミウムの代替としてスズ系合金や亜鉛ニッケル合金を活用するなど、材料・工程の両面での技術革新が進められてきました。
3つ目は、「資源の閉じ込め」と呼ばれるアプローチです。
これはクローズドシステムとも呼ばれ、洗浄水や工程水をろ過・浄化し、再びメッキ工程へ戻す仕組みです。排水を外部に出さないことで、環境負荷を抑えるだけでなく、水資源の使用量削減にも大きく貢献しています。
2.4. 現在のメッキ工場の姿

メッキ業界は、公害という負の経験を経たことで、それを克服するための技術を自ら開発し、現在に至るまでその歩みを止めていません。
現在では、メッキ工場は都市型産業として住宅街に隣接して操業できるほどの高い環境管理能力を備えています。
排水については、24時間体制でpHや有害物質濃度を監視・管理するシステムが導入されており、異常があれば即座に工程を停止できる体制が整えられています。また、排水処理の過程で回収されたニッケルや銅、金などの金属は、精錬メーカーへ戻され、再び資源として利用されるリサイクルループを形成しています。
さらに、近年では環境・社会・ガバナンス(ESG)への関心の高まりを背景に、世界市場を相手にするグローバル企業ほど環境基準に厳しく、一定水準以上の環境対応を行うメッキ会社としか取引をしないケースも珍しくありません。
3. メッキによる環境優位性
3.1. 製品の長寿命化による資源保護

このように、メッキ業界は過去の公害という大きな課題を克服しながら技術革新を重ねてきました。その結果、現代のSDGsの思想とも極めて相性の良い技術へと進化し、現在では「環境を守る技術」として重要な役割を果たしています。
例えば、メッキによって製品に耐食性を付与することで、素材本来の機能を長期間維持することが可能となり、製品の長寿命化に貢献します。これは製品の買い替えサイクルを延ばすことにつながり、製造に必要な資源やエネルギーの削減にも寄与します。
また、硬質クロムメッキに代表されるような表面に高い硬度を付与できるメッキ技術では、機械部品や工具の摩耗を抑制することができ、結果として設備全体のメンテナンス頻度の低減が期待できます。
このように、メッキは単なる表面処理技術にとどまらず、製品のライフサイクル全体において非常に高い優位性をもたらす技術であると言えます。
3.2. 希少資源(レアメタル)の最小化利用

また、製品全体を貴重で高価な金属で作るのではなく、必要な機能を表面だけに付与することで、限られた資源を効率的に活用することができます。
例えば、希少で高価な金を電気コネクタ全体に使用するのは非常に非効率ですが、接点部分の表面に数μm程度の薄膜を形成するだけで十分な性能を満たせるのであれば、大幅な資源削減が可能となります。
さらに、軽量なアルミニウムやプラスチックといった材料にメッキによって機能を付与することで、製品全体の軽量化を図ることもできます。
自動車をはじめとした輸送機器の軽量化は、燃費性能の向上やCO₂排出量の削減にも直結し、環境負荷低減に大きく貢献します。
3.3. 循環型社会への適合

メッキは、再生や回収が可能な技術でもあります。
表面が劣化した部品であっても、既存のメッキ皮膜を剥離し、再度メッキを施すことで、母材を廃棄することなく新品同様の性能へと復元することが可能です。
また、メッキ液や排水からニッケルや銅などの金属を高純度で回収し、再び原料として利用するクローズドシステムも確立されています。
つまり、メッキは再メッキによる高いリユース性と、金属循環による優れたリサイクル性を併せ持つ技術であると言えます。
4. これから未来に向けての重点事項
4.1. PFAS規制への対応

今後に向けて、現在メッキ業界でも注目されている課題がいくつかあります。
その一つが、PFAS(有機フッ素化合物)に対する規制強化です。
2026年には日本国内において水道法の基準が厳格化される予定であり、海外においても欧州のREACH規則で使用制限案が審議されるなど、世界的に規制の動きが加速しています。
メッキ業界では、これまで工程中の飛沫防止剤としてPFASを使用してきた経緯がありますが、こうした動向を受け、現在ではPFASフリーの代替薬品への切り替えが着実に進められています。
4.2. カーボンニュートラルとエネルギー革新

メッキ工程では、皮膜形成時の加熱や電解反応において比較的大きな電力を必要とします。
こうしたエネルギー消費の多い工程に対しても、脱炭素化を見据えた技術革新が着実に進んでいます。
近年では、タングステンやボロンを使用しない新たなメッキ技術の開発が進み、従来比で約3倍の析出スピードを実現することで、処理時間の短縮とエネルギー効率の大幅な改善を可能にする技術も登場しています。
また、IoTの導入により、設備の稼働状況や電力使用量をリアルタイムで監視し、待機電力の削減や最適な電流密度管理を行うスマート工場化も進展しています。
さらに、工場屋根への太陽光パネル設置や、再生可能エネルギー電力利用事業者の認定を受けるなど、エネルギーそのものをクリーン化する取り組みを進めるメッキ企業も増加しています。
4.3. 資源の再定義によるサーキュラーエコノミー

いわゆる都市鉱山の考え方に基づき、かつては廃棄物として扱われていた排水や汚泥を、価値ある資源として捉え直す動きが活発化しています。
膜分離技術や電気吸着技術を活用することで、排水中に含まれるニッケル、銅、金などの金属を高純度で回収し、工程内へ再利用、あるいは原料として外部へ循環させるクローズドシステムは、今後さらに発展が期待される分野の一つです。
中でも亜鉛メッキは、母材を溶解することなくメッキ層のみを選択的に剥離し、再メッキが可能である点から、資源消費を最小限に抑えられる技術として注目されています。
このような特性から、亜鉛メッキは「防錆技術」としてだけでなく、循環型社会を支えるSDGs貢献型メッキとして、近年あらためて評価が高まっています。
4.4. 働き方と技術承継

環境面だけでなく、社会面(Social)、ガバナンス面(Governance)においても、メッキ業界ではさまざまな取り組みが進められています。
社会面では、シアンや酸・アルカリといった危険性の高い薬品を扱う工程のロボット化・自動化が進展しています。これにより、作業者の安全確保という労働環境の改善と、薬品の飛散や持ち出しといったロス削減を同時に実現しています。
また、従来はベテラン作業者の経験や勘に頼る部分が大きかったメッキ液の管理についても、センサーやAIを活用した数値管理が普及しつつあります。温度、濃度、電流密度などをリアルタイムで監視・制御することで、品質の安定化だけでなく、薬品使用量や排水負荷の変動を最小限に抑えることが可能となっています。
ガバナンス面においても、工程管理の可視化、トレーサビリティの確保、環境データの記録・開示などが進み、取引先や社会に対して説明責任を果たせる体制づくりが強化されています。
このようにメッキ業界は、将来の環境規制や社会的要請を見据えながら、研究開発と技術革新を継続し、絶えずアップデートを続けています。
5. まとめ

メッキはかつて、公害という負の側面を経験した産業でした。しかしその経験を出発点として、環境対策技術を磨き上げ、世界でも類を見ないレベルまで高めてきた産業でもあります。
現在のメッキは、製品を長寿命化し、限られた資源を効率的に活用し、再生・回収を可能にする循環型技術として、SDGsやESGの考え方と深く結びついています。単に表面を覆う技術ではなく、製品のライフサイクル全体を支える重要な役割を担っています。
さらに、環境負荷低減だけでなく、作業者の安全確保、品質の安定化、データに基づくガバナンス強化など、社会的責任を果たす産業へと進化を続けています。IoTやAIの導入、エネルギー効率の改善、都市鉱山としての資源回収など、メッキ技術は今もなおアップデートされ続けています。
私たちの身の回りにある電子機器、自動車、インフラ、医療機器など、現代社会を支える製品の多くに、メッキ技術は欠かせません。目立たない存在でありながら、社会の基盤を静かに支え続ける技術それが、現代のメッキです。
メッキはもはや「環境に負荷を与える技術」ではなく、環境と産業の両立を実現する、未来志向の基盤技術として、その価値を発揮し続けています。








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