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【メッキのプロ直伝】カニゼン(無電解ニッケル)メッキの変色や腐食について原因と対策を解説

更新日:5月9日

カニゼンメッキという表面処理方法を聞いたことがある人もいると思います。

カニゼンメッキは無電解ニッケルメッキとも言いますが、素材の表面にニッケルの皮膜を付着させ、耐食性や硬度を上げる方法です。


では、無電解ニッケルメッキをすると、品物はどんな色になるのでしょうか?

また、その色から変色する恐れはないのでしょうか?


本記事では無電解ニッケルメッキの変色や腐食の対策について解説します。

さらに、耐食性の高い無電解ニッケルメッキでも起こりうる腐食のリスクについても、原因と対策を解説します。


無電解ニッケルメッキをご検討中の方は是非、ご一読ください。


■INDEX■

  1.1 無電解ニッケルメッキの特徴

  1.2 無電解ニッケルメッキの用途

  3.1 酸化による変色

  3.2 硫化による変色

  3.3 変色を防ぐために

  4.1 腐食の原因

  4.2 無電解ニッケルメッキの耐食性

  4.3 膜厚と耐食性

  4.4 腐食を防ぐために


 

1.カニゼンメッキ(無電解ニッケルメッキ)とは

1.1 無電解ニッケルメッキの特徴

「カニゼンメッキ」という表面処理方法は、いわゆる無電解ニッケルメッキのことを言います。

この方法は元々、1940年代にドイツで開発され、アメリカで発展し、日本では1950年代に日本カニゼン株式会社にライセンス取得されたものです。

現在では世界中に普及し、多くの製品に適用されている表面処理です。

メッキというと、素材に皮膜を生成させる過程で通電を行う電解メッキや、溶解した金属に素材を漬け込む溶融メッキを思い浮かべる人も多いかもしれませんが、無電解メッキはこれらとは違う方法です。

無電解メッキのメッキ液内には電解液が含まれており、素材自身を触媒として発生する電子を利用して金属の皮膜を付着させてゆきます。

電解メッキのように、電極を用いた外からの通電は必要ありません。

無電解ニッケルメッキの皮膜は、ニッケルとリンの化合物から成り立っており、複雑な形状においても膜厚は均一です。このような均一性は、無電解メッキ特有の利点といえます。

また、電極を用いないので、電気を通さないような物質(プラスチックやセラミックスなど)へのメッキも可能です。


1.2 無電解ニッケルメッキの用途

無電解ニッケルメッキのニッケルとリンの皮膜は、耐食性に優れています。

リンの含有率が比較的高い、中リンタイプや高リンタイプの方が耐食性が高く、製品となる素材を腐食から守る目的で利用されることも多いです。


無電解ニッケルメッキの耐食性については、後ほど詳しく触れてゆきます。


無電解ニッケルメッキの皮膜は硬度も高く、素材表面を硬くしておきたいときにも活用されます。

例えば、アルミニウムのような柔らかい素材でできた製品は、ちょっとしたことで表面が傷ついたり、何かと接触することで目減りしてしまうことがあります。


無電解ニッケルメッキの硬い皮膜で覆うことで、そのような状況を避けることができます。

特に、機械などの部品同士が接触する箇所にはこのような処理をしておく必要があり、部品を摩耗から防いでくれて製品の寿命を長くしてくれます。このような用途は耐摩耗性と言います。


他に、低リンタイプの無電解ニッケルメッキは、電気特性からハンダ付け性に優れており、電子部品の表面処理に用いられることなどもあります。

磁性のない中リンタイプや高リンタイプでは、均一性も高いことで、ハードディスクの下地メッキに利用されることもあります。



2.無電解ニッケルメッキの色

ここまで特徴や用途をご紹介してきた無電解ニッケルメッキですが、見た目は飴色のシルバー色です。

これはニッケル皮膜の色で、見た目は電解ニッケルメッキの色とよく似ています。


ちなみに、無電解ニッケルメッキと無電解ニッケルメッキは見た目では判別が難しく、判別が必要な場合は硝酸を表面に垂らしてやるとわかります。

硝酸に反応し、灰色になれば電解ニッケルメッキ、黒色になれば無電解ニッケルメッキです。


無電解ニッケルメッキの場合でも、金属質の美しい色合いなので、見た目的に殺風景なイメージにはなりません。

なお、電解ニッケルメッキの場合、色合いに光沢をつけるような光沢メッキを選択することも可能です。



3.無電解ニッケルメッキの変色について

3.1 酸化による変色

無電解ニッケルメッキのシルバー色ですが、時折、さまざまな理由から変色してしまうことがあります。そもそも、金属の変色とはなんなのか、からご説明します。

変色とは、一種の化学反応です。

身の回りの金属製品が、購入したときの色から変化してしまうのも、周囲の環境に応じてその金属の表面が反応し、色を変えてしまうのです。

つまり、厳密に言うと、その部分は元の素材とは別の物質になってしまいます。


典型的な例は酸化です。

酸化とは、空気中の酸素との反応です。

無電解ニッケルメッキの皮膜も、空気中の酸素と結合して酸化してしまうことがあります。

酸化すると、皮膜は黒ずんだ色になります。


水道近くなどの部品でも、この影響を受けて変色する場合があります。

また、無電解ニッケルメッキは、硬度を上げるなどの目的で後処理として熱処理を行うことがあります。この熱処理によっても、酸化して変色してしまうことがあります。


3.2 硫化による変色

もう一つ、変色の要因として硫化もあります。

例えば、無電解ニッケルメッキはゴム金型などに用いることがあります。

硬度や耐摩耗性も高く、離型性に優れていることなどが理由です。

一方で、ゴムを用いる環境は硫化のリスクもあり、そのような環境で用い続けた部品は黒く変色してしまうことがあります。


また、長時間ダンボールなどの梱包したままのものも、ダンボールから発生するアウトガスなどの影響で変色することがあります。部品の接合に接着剤などを用いた場合でも、硫化の可能性があります。


意外と見落としがちな話ですが、無電解ニッケルメッキといえど、このような使用環境によって、変色するリスクは多少あり得ます。


3.3 変色を防ぐために

場合によっては変色を伴ってしまう無電解ニッケルメッキですが、できれば変色は防ぎたいものです。

いくつか方法をご紹介します。


例えば、熱処理による変色を防止し、綺麗な色のままにしておきたい場合、熱処理温度を下げることが有効です。ただし、この場合硬度の上昇は大きく期待できず、ご要望の機能との兼ね合いがあります。


他にも熱処理の変色防止には、窒素雰囲気で熱処理する(酸化させない)ことなども有効です。

また、メッキ後に変色するのを防止する変色防止剤も開発されています。

使用環境を考慮するとともに、このような変色防止剤を活用することも有効な方法です。



4.無電解ニッケルメッキの錆(腐食)について

4.1 腐食の原因

本記事では、環境による変化としてもう一点、腐食(錆)についても触れてゆきます。


鉄製品などが赤くザラザラした表面になることで、錆の発生を認識したことがある人も多いと思います。錆の発生は、材料の腐食という反応によって生じます。

これも実は、変色の話で触れたのと同様、金属の化学反応です。


多くの金属は、空気中などの酸素と反応して酸化すると最初は表面が変色し、徐々に反応が進展して錆のような物質に変化してゆきます。

このプロセスそのものが腐食です。


例えば鉄のような物質は、表面が酸素と反応しやすく、表面処理などをせずに放っておくと、表面に錆が付いてしまうのです。

このような腐食した箇所は、元の素材とは性質が変わってしまい、鉄などの場合は強度不足や破壊を起こしてしまうこともあります。


4.2 無電解ニッケルメッキの耐食性

素材を腐食から守る手段として、さまざまな表面処理技術が開発されています。


本記事でご紹介している無電解ニッケルメッキも、耐食性の高い表面処理方法としてよく知られています。素材を腐食から守る耐食メッキには、実は2種類あります。

1つは素材より耐食性の低い皮膜をわざと付着させ、優先的に皮膜の腐食を先に促進させる犠牲防食タイプで、溶融亜鉛メッキなどがその代表例です。


もう1つは、予め腐食しない皮膜で素材を完全に覆ってしまう高耐食性皮膜タイプで、無電解ニッケルメッキはこちらの部類に入ります。この高耐食性皮膜タイプの防食には、実は1つ弱点があります。

ピンホールといわれる皮膜の穴がほんの僅かでもあると、その穴をきっかけに素材側の腐食がどんどん進展してしまうのです。

電解ニッケルメッキの皮膜の場合、実はこのピンホールが問題となってしまうこともあります。


無電解ニッケルメッキもピンホールが全く発生しないわけではありませんが、皮膜そのものも緻密で、ピンホールの発生率も低いです。

結果的に、無電解ニッケルメッキは高い耐食性を持つ表面処理として活用されることも多いです。


耐食性には、リン含有率が比較的高い、中リンタイプや高リンタイプの無電解ニッケルメッキを用います。また、酸化による耐食性だけでなく、無電解ニッケルメッキは、化学薬品などによる耐薬品性も高いことで知られています。


4.3 膜厚と耐食性

無電解ニッケルメッキの耐食性は、その膜厚とも関係します。

膜厚が厚くなるということは、高耐食皮膜の盾が厚くなるということなので、より素材を腐食から守ってくれます。また、膜厚が厚いほどピンホールは素材に到達しにくいので、そういう意味でも腐食のリスクは低くなります。


メッキ時間に応じて皮膜を厚くでき、いわゆる厚付けメッキが可能なことも無電解ニッケルメッキの有効な特徴で、耐食性重視でお考えの場合は、厚めの膜厚をお勧めします。

ちなみに、JISによる等級で耐食性目的の無電解ニッケルメッキは、少なくとも2級以上の膜厚5μm以上が推奨されています。


4.4 腐食を防ぐために

無電解ニッケルメッキの腐食を防ぐのには、さらに方法があります。


そもそも、無電解ニッケルメッキで腐食が起きるとしたら、ピンホールなどの発現です。

ピンホールを完全になくすことは難しいですが、より減らすことは可能です。


ピンホールとは、そもそも無電解ニッケルメッキを行う際の、素材に付着した油分や不純物によって発生します。これらをメッキ工程前にできる限り取り除くことで、ピンホールの出現を減らし、より耐食性を上げることができるのです。


素材に付着した油分や不純物をメッキ処理の前に取り除くプロセスをメッキの前処理といいます。

前処理をしっかりと行うこと、或いはメッキ液の管理を十分に行うことでピンホールの出現による腐食を防ぐ上で重要なこととなります。

せっかく行う無電解ニッケルメッキですから、このあたりもメッキを行うメーカーさんと十分に話し合うようにしましょう。



5.当社の対応

当社にて無電解ニッケルメッキを対応しております。

処理可能サイズとして、アルミニウムですと500mm×405mm t86mmまで実績がございます。

他の材料やサイズでも対応可能な場合もありますので、お気軽にご相談ください。


本記事でも登場した熱処理にも対応いたします。

また、ご相談に応じて前処理もさせていただきます。


さらに、

・製品の部分的なマスキング対応、研磨工程など対応可能。

・ネジやナット、その他の小物などジグに装着できない製品へもバレルメッキなどで対応可能。

といった弊社独自の利点もございますので、ご検討の際は是非ご相談ください。


6.まとめ

カニゼンメッキ(無電解ニッケルメッキ)の変色や腐食について説明してきました。

以下はそのまとめです。


・耐食性や硬度を上げる目的で使用される無電解ニッケルメッキは、見た目は飴色のシルバー色である。

・周囲の環境や熱処理によって変色することがある。

・無電解ニッケルメッキはピンホールの発生が少なく、耐食性が高い。

・無電解ニッケルメッキは膜厚が厚いほど耐食性が高い。

・適正な前処理を行うことで、さらに無電解ニッケルメッキの耐食性を上げることができる。



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【著者のプロフィール】

代表取締役

1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。

30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。




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