【メッキ技能士直伝】無電解ニッケルメッキ(カニゼンメッキ)とは?特徴・メリット・用途をわかりやすく解説
- connectionfukui
- 2023年12月22日
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更新日:6 日前
弊社では無電解ニッケルめっき、カニゼンメッキ処理を行っています。
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「無電解ニッケルメッキ(カニゼンメッキ)」は、電気を使わずに化学反応によって金属表面にニッケル皮膜を形成する表面処理技術です。
一般的な電気ニッケルメッキと比べて、膜厚が均一でピンホールが少なく、高い耐食性・耐摩耗性を実現できるのが大きな特徴です。
本記事では、無電解ニッケルメッキの原理やメリット、適用分野、注意点まで詳しく解説します。自動車部品・電子部品・精密機械など幅広い業界で採用される理由を知ることができます。
■INDEX■
1.1.ニッケルメッキの基本概念
1.2.メッキ技術の進化と無電解ニッケルメッキの位置づけ
2.1. 無電解メッキプロセスの概要
2.2.ニッケルメッキの無電解法とは
3.1.耐摩耗性と耐腐食性の向上
3.2.環境への配慮と省エネルギー性
3.3.複雑な形状への適用可能性
5.1.プロセスの制御と品質保証
5.2.無電解メッキの品質評価基準
6.1.無電解ニッケルメッキのメンテナンスガイド
6.2.メッキ層の劣化とその防止策
7.1.無電解ニッケルメッキのメリットとまとめ
7.2.専門家へのお問い合わせや相談
1.はじめに
1.1.ニッケルメッキの基本概念

ニッケルめっきは、金属素材の表面にニッケルを析出させて被覆する表面処理方法の一つです。
ニッケルは空気中でも比較的安定で、腐食しにくい性質を持っています。そのため、ニッケルめっき皮膜も耐食性に優れており、防食を目的として利用されることが多くあります。さらに、硬度が高い・変色しにくい・外観に光沢が出やすいといった特長も併せ持ちます。
一般的なニッケルめっきは、電極を用いた電解めっき法によって行われます。この方法は導電性を有する基材に対して適用されてきましたが、電極配置との関係で皮膜厚さにムラが生じやすく(不均一性)、またピンホールなどの欠陥が発生することも課題とされています。
下図は、従来の電解ニッケルめっきの原理を示した模式図です。電極反応により電子が供給され、その結果として基材表面にニッケル皮膜が析出します。

1.2.メッキ技術の進化と無電解ニッケルメッキの位置づけ

日進月歩で進化するめっき技術の中で、従来の電解めっきの課題を解決する画期的な方法も登場しました。
1900年代初頭には、電気を使わず化学反応の力で金属を析出させる「化学めっき(無電解めっき)」が開発されました。さらに1950年代になると、ニッケル皮膜を電気を用いずに析出させる「無電解ニッケルめっき」が実用化され、日本国内では「カニゼンめっき」という名称で広く普及しました。
この無電解ニッケルめっきの登場は、従来の電解ニッケルめっきが抱えていた 皮膜厚さの不均一性 や ピンホールの発生 といった弱点を克服する画期的な技術革新となりました。
2.無電解ニッケルメッキの基本原理
2.1.無電解メッキプロセスの概要

無電解めっきは、その名の通り皮膜を析出させる工程で電気を使用しません。
素材とめっき液との化学反応によって電子が供給され、その結果、表面に金属皮膜が析出していきます。
下図は無電解ニッケルめっきの原理を示した模式図です。この方法は「化学還元法」と呼ばれ、素材(ワーク)が触媒として作用し、還元剤の反応によりニッケルイオンが還元されて金属ニッケルとして析出します。そのため、電極を必要とせず、非導電性材料に対しても処理が可能という大きな特長があります。

2.2.ニッケルメッキの無電解法とは

無電解めっきは、ニッケルめっきの分野でも広く活用されています。
従来の電解ニッケルめっきでは、電極配置の影響により皮膜厚さに不均一が生じる課題がありました。これに対して無電解ニッケルめっきは電極を必要としないため、基材表面全体で化学反応が均一に進行し、均一な皮膜を形成できます。さらに、析出する皮膜は緻密でピンホールの発生も少ないことから、耐食性が大幅に向上します。
また、電気を使用しないため、従来の電解めっきでは処理が難しかった 非導電性材料(樹脂・セラミックスなど)へのめっき も可能です。
一方で、電解めっきに比べると皮膜の析出速度が遅く、生産性が低下する場合があるほか、薬品コストや廃液処理コストが高くなるため、加工コストが増加するといったデメリットもあります。
3.無電解ニッケルメッキの特長
3.1.耐摩耗性と耐腐食性の向上

無電解ニッケルめっきの目的として最も多いのは、耐食性の向上です。
この点は通常の電解ニッケルめっきと共通しており、ニッケル皮膜そのものが持つ高い耐食性によって実現されます。しかし、無電解ニッケルめっきの場合は皮膜がより緻密で、ピンホールも発生しにくいため、電解ニッケルめっきに比べて一層高い耐食性が期待できます。

無電解ニッケルめっきは、硬度が高いという点でも優れています。
機械部品など、金属同士が接触して繰り返し使用される部分では、摩耗による消耗が避けられません。例えば、アルミニウムのような軽量材は軽くて強度面に優れる一方で、表面が柔らかいため、そのままでは摺動部品としての使用が難しくなります。
このような場合に、無電解ニッケルめっきを施すことで、表面硬度を高めて耐摩耗性を付与することが可能です。実際に、自動車部品などの摺動部材には無電解ニッケルめっきが多く適用されており、耐久性の向上に大きく貢献しています。

3.2.環境への配慮と省エネルギー性

近年では、地球環境に配慮した技術の確立が大きな課題となっています。どれほど優れた技術であっても、環境負荷が大きければ社会での適用は難しく、このことはめっき技術にも当てはまります。
無電解ニッケルめっきでは当初、めっき液を安定化させるために鉛を含む安定剤が使用されていました。しかし鉛は有害物質であり、現在の環境規制の基準となっているヨーロッパの RoHS指令 に抵触してしまいます。
この課題に対応するため、ビスマスなどの代替元素を利用した鉛フリー安定剤が開発され、現在ではほとんどの無電解ニッケルめっきで鉛を使用しない処方に切り替わっています。
さらに、廃液リサイクルや薬品回収技術も進展しており、環境負荷を低減しながら無電解ニッケルめっきを適用する取り組みが広がっています。
3.3.複雑な形状への適用可能性

無電解ニッケルめっきのもう一つの特筆すべき特長は、皮膜の均一性です。
従来の電解ニッケルめっきでは、電極の位置に依存して皮膜厚さにばらつきが生じ、複雑な形状の素材では十分にメッキできない箇所が発生することがありました。
これに対して無電解ニッケルめっきは、化学反応により基材表面全体に均一に皮膜が析出するため、従来では困難だった複雑形状の部品にも均一なメッキが可能となります。
さらに、前述の耐摩耗性や耐食性の向上と相まって、この均一性によってさまざまな機械部品への適用が可能になりました。その結果、従来は軽量化が難しかった複雑形状の部品を、アルミニウムなどの軽量材料で置き換える事例も増えています。

4.無電解ニッケルメッキの応用分野

無電解ニッケルめっきは、さまざまな分野で活躍しています。
自動車業界摺動部(シリンダ、ベアリング、カムなど)への適用が多く、耐摩耗性・耐食性を活かしています。
航空機・船舶自動車同様、耐摩耗性や耐食性を求められる部品に広く使用されています。
化学工業分野一部の薬品に対する耐薬品性が高く、化学装置や配管部品などに適用されています。
金型・精密機械部品皮膜の均一性を活かし、寸法精度や耐久性が求められる部品に有効です。
電子部品ニッケルの高い導電性を活かして、はんだ付け性を必要とする部品にも使用されます。
特殊用途ハードディスクのディスク面やケースなど、精密かつ特殊な部材へのめっきにも利用される事例があります。
5.無電解ニッケルメッキの品質管理
5.1.プロセスの制御と品質保証

無電解ニッケルめっきの品質は、主に皮膜の膜厚に依存します。
例えば、はんだ付け用途であれば最小膜厚3μm程度の薄い皮膜でも十分ですが、耐食性や耐摩耗性を確保するためには、少なくとも10μm以上の膜厚が必要です。無電解ニッケルめっきでは、膜厚はメッキ時間で管理されます。
無電解ニッケルめっきでは、皮膜の厚さが増加する際の析出速度はほぼ一定であるため、所望の膜厚を時間管理によりほぼ正確に得ることが可能です。
もう一つ重要な品質指標が密着性です。せっかく析出した皮膜が剥がれやすくては意味がありません。密着性とは、皮膜が素材表面にしっかり付着している度合いを示す指標であり、メッキ品質を評価する上で欠かせない要素です。
無電解ニッケルめっきでは、本工程の前に酸洗いやエッチングなどの前処理を行い、素材表面の油分を除去したり、凹凸をつけてアンカー効果を付与することで、十分な密着性を確保します。
このように、所望の膜厚の管理と高い密着性の確保が、無電解ニッケルめっきにおける品質管理の重要ポイントです。
以下は、一般的な無電解ニッケルめっきの工程です。
【アルミ素材の処理工程】

【鉄素材の処理工程】

5.2.無電解メッキの品質評価基準

無電解ニッケルめっきの品質評価では、メッキ後にさまざまな検査が行われます。
外観検査目視によるチェックで、ざらつきや異物の付着などの不良を確認します。また、触れてみることで感触による異常の有無も確認されます。異常が見つかった場合は、原因を特定し、必要に応じて再メッキを行います。
膜厚の確認メッキの重要な品質指標である膜厚は、マイクロメータによる実寸測定や、蛍光X線測定などの非破壊測定法で確認されます。所定の膜厚が確保されているかどうかをチェックすることで、耐食性や耐摩耗性の保証につながります。
密着性の確認密着性は、皮膜が素材表面にしっかり付着しているかを評価する指標です。簡易的にはテープテストなどで皮膜の剥離がないかを確認します。
無電解ニッケルめっきを使用する際は、こうした品質保証を確実に実施できる専門業者を選ぶことが、安定した製品品質の確保において非常に重要です。
6.メンテナンスと注意点
6.1.無電解ニッケルメッキのメンテナンスガイド

無電解ニッケルめっきは、使用環境に適した膜厚と確実な密着性が確保されていれば、十分に長期間使用できます。ただし、酸化や硫化により、まれに表面が変色することがあります。
変色した場合、絶対にやってはいけないことは、見た目を整えるために研磨することです。研磨すると皮膜が削られて膜厚が減少し、本来の耐食性や耐摩耗性が損なわれてしまいます。
変色や摩耗などで皮膜が劣化した場合は、専門業者への相談が推奨されます。酸化膜や硫化膜を適切に除去し、その上から再メッキを行うことで、元の性能を回復することが可能です。また、この再処理技術を応用すれば、摩耗によって膜厚が減少した製品を復活させ、リユース性を高めることもできます。
6.2.メッキ層の劣化とその防止策

前述の通り、メッキ製品が変色する主な原因は、酸化や硫化です。これらの現象は使用環境に大きく影響されます。例えば、メッキ製品を長時間ダンボール容器などに密閉して保管すると、硫化によって表面が変色してしまうことがあります。
もししばらく保管する必要がある場合は、このような環境を避けるか、ビニール袋などで保護することが推奨されます。また、変色防止策として、メッキ表面に塗装を施すことも効果的です。
7.まとめとお問い合わせ
7.1.無電解ニッケルメッキのメリットとまとめ

本記事では、無電解ニッケルメッキのさまざまな特長について解説しました。以下にポイントをまとめます。
耐食性が高い無電解ニッケルメッキは、一般的な電解ニッケルメッキに比べて緻密な皮膜を形成するため、より高い耐食性を発揮します。
高硬度で耐摩耗性に優れる表面硬度が高く、摺動部品など繰り返し摩耗する部材でも性能を維持します。
膜厚の均一性が高い電極を使わず化学反応で析出するため、複雑な形状の製品にも均一にメッキ可能です。
膜厚と密着性の管理が重要使用環境や性能に応じた膜厚の確保と、十分な密着性は、品質管理上欠かせないポイントです。
変色への注意酸化や硫化による変色が起こることがあります。変色した場合は、自己判断で研磨せず、必ず専門業者に相談しましょう。
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1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。
30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。
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