メッキの歴史は長く、最初にメッキの技術が登場したのは今から3500年前と言われています。
長い歴史の中で数々の技術が確立され、現在では一言にメッキと言ってもさまざまな種類があります。
メッキの種類などを調べているとよく目にするカニゼンメッキもその一つです。
「カニゼンメッキ」とは、このサイトの記事にたびたび登場する無電解ニッケルメッキのことです。
本記事では、メッキの役割や歴史といった歴史的背景を振り返り、カニゼンメッキ(無電解ニッケルメッキ)について深く説明を加えます。
また、現代における無電解ニッケルメッキの活躍についてもご紹介します。
■INDEX■
・メッキの役割
・メッキの歴史と種類
・カニゼンメッキの登場
・カニゼンメッキの概要
・無電解ニッケルメッキとの違い
・軽量化への貢献
・データ技術への活用
・環境への配慮
・黒色メッキ
・カニフロンメッキとは
1.メッキの歴史
1.1.メッキの役割
メッキは、品物の表面に金属の薄い皮膜を付着させて覆う技術です。
なぜわざわざ表面を薄膜で覆うことが必要なのかと疑問を持たれると思いますが、メッキにはさまざまな目的や役割があります。
例えば、金属は腐食に弱く、そのままでは錆付いたり強度低下を起こしてしまうものも少なくありません。このような金属の表面は、耐食性の高い皮膜としておくことで、腐食を防止できます。
また、品物そのものは柔らかく傷つきやすいもので作ったとしても、表面を固くしておけば外的要因から守れるパターンも少なくありません。
他にも、品物自体を熱から守る目的、化学的な安定の目的、電気的性質を付与する目的など、メッキにもさまざまな役割があり、用途に応じて使い分けをします。
単に美観や見た目を意識して意匠目的でメッキを行うこともあります。
このようなさまざまな目的に伴い、メッキにも沢山の種類があります。
1.2.メッキの歴史と種類
メッキという技術は歴史が古く、今から3500年ほど前のメソポタミア文明では既に腐食防止のための溶融スズメッキが使われていたと言われています。
溶融メッキとは、金属を高温で溶かしたものに品物を漬け込む方法で、現在でも腐食防止などの目的でよく使われています。また、日本でも東大寺の大仏は金メッキがされていて、建立当時は金色だったという話が残っています。
当時の金メッキはアマルガム法という方法でしたが、この方法は有害な水銀を用いるため、現在では行われていません。メッキ技術の転機は1800年代で、ボルタ電池の登場でした。
この発明によって電気が一気に普及し、金属イオンを通電によって品物に付着させる電解メッキが発明されました。
電解メッキの発明はメッキにとっては革命的な出来事で、腐食防止などの目的以外のメッキの用途開発や多くの種類のメッキの登場など、世界中の工業化にも拍車をかけました。
現在でも電解メッキは非常に重要な技術の一つとして、ニッケルメッキやクロムメッキなどはその地位を十分に保っています。
1.3.カニゼンメッキの登場
1900年代にガラスの鏡面反応をヒントに、電気を使わない無電解メッキ(化学メッキ)が発明されました。その後、1952年にニッケル皮膜を電気を使わずに付着させるメッキ方法がアメリカのGATC社で確立され、実用化されました。これがカニゼンメッキです。
GATC社はカニゼンメッキのライセンスをアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、日本に販売しました。
日本では1955年に日本カニゼン株式会社という会社が東京で設立され、1958年に操業開始、その後全国全世界でカニゼンメッキは普及してゆきます。
2.カニゼンメッキとは?
2.1.カニゼンメッキの概要
この前でも述べているとおり、カニゼンメッキというのは電気を使わずにニッケル皮膜を品物に付着させる方法で、いわゆる無電解ニッケルメッキのことです。
「触媒」を意味するC(K)atalytic、「ニッケル」のNickel、「生成」を意味するGenerationの頭文字でKanigen=「カニゼン」という言葉になりました。
カニゼンメッキという言葉は、前述の日本カニゼン株式会社の商標名となります。
主な特徴としては、
・メッキの際に通電を必要としない。
・メッキ皮膜が均一である。
・耐食性や耐摩耗性に優れている。
などがありますが、詳細についてもう少し後ほど触れます。
2.2.無電解ニッケルメッキとの違い
「カニゼンメッキ」という言葉は「無電解ニッケルメッキ」の商標名ですが、厳密に意味の違いはありません。基本的にどちらの名称を使っても同じ意味でメッキ業界でも捉えられています。
世の中には「宅急便」や「ピンポン」、「セロテープ」など、商標名のほうが有名な名前もたくさんあり、注意が必要な場合もありますが、メッキ業者に「カニゼンメッキをお願いします」と言っても十分通り、「無電解ニッケルメッキ」として行われることになります。
3.無電解ニッケルメッキの原理と特徴
無電解ニッケルメッキは電気を使わずにニッケル皮膜を付着させると言いましたが、どのように行うのか、少し説明を加えます。
ニッケルメッキにおいて、電解でも無電解でも付着の仕方は同じで、メッキ液内のニッケルイオンと電子の結びつきによってニッケル皮膜が生成されることになります。
電解メッキでは電子の供給を通電によって行いますが、無電解メッキはメッキ液内の電解液によって、品物自身が触媒となって出す電子を利用します。
この電子を利用して品物にニッケル皮膜が付着するので、化学的な力のみでメッキが進行することになります。無電解メッキが「化学メッキ」とも言われる所以です。
品物のあらゆる箇所で反応が促進してゆくので、時間とともにメッキ厚が大きくなり、その進展はどの面を見ても均一です。すなわち、複雑な形状であっても皮膜の均一性が保たれます。
また、電解メッキは通電可能な物質の品物でなければメッキができませんが、無電解ニッケルメッキにその縛りはありません。
電気を通さないプラスチックやセラミックスのようないわゆる不導体でもメッキが可能です。
ニッケルメッキの特徴である耐食性も、皮膜が緻密でピンホールなどの欠陥が起きにくい分、電解メッキより期待ができます。
皮膜の硬度も高く、耐摩耗性に優れるため、接触の多い機械部品等にも多く活用されます。
非磁性の皮膜を作ることもできたり、皮膜自体の導電性から電子部品に適用されることもあります。
無電解ニッケルメッキの特徴は、こちらの記事に詳しく書かれていますので、参考にされてください。
4.現代における無電解ニッケルメッキ
4.1.軽量化への貢献
メッキの歴史の中では比較的近代のものですが、無電解ニッケルメッキにも歴史があることはここまで述べたとおりです。
技術が日進月歩で進化する現代社会においても、無電解ニッケルメッキは必要不可欠のものとして君臨しています。自動車や船舶、航空機などは軽量化による効率化を日々模索しています。
軽量材料の代表格であるアルミニウムやアルミニウム合金と無電解ニッケルメッキは非常に相性が良く、耐食性を増したり、柔らかいアルミボディを保護する役割も果たしています。
このような機械部品の一部となるものは、摺動部といって他の部材と接して消耗しやすい箇所も多いので、無電解ニッケルメッキの耐摩耗性が必須のものになります。
4.2.データ技術への活用
全く別の分野ですが、データ全盛社会の昨今、コンピュータなどのデータ管理に必要なハードディスクにも無電解ニッケルメッキは大きく関与しています。
ハードディスクにある丸い円盤部分には磁気の膜が吹き付けられていて、その磁気データを読み取る形で製品として機能します。
この部分はとても精度が高い上に、その円盤自体は磁性を持たないようにしなければ、データの正確な読み取りができなくなります。
アルミで作られたこの円盤には、高精度な無電解ニッケルメッキが施されています。
皮膜が均一で高精度な無電解ニッケルメッキならではの活用法です。
4.3.環境への配慮
現代社会では、技術の発展とともに地球環境への影響も考慮しなければなりません。
どんなに良い技術であっても、それが環境を破壊するようなものであれば、使用することはできません。
無電解ニッケルメッキは、このような環境問題にも明確な解答を持っています。
メッキを含め、地球環境の世界基準とも言えるものはRoHS指令です。
環境問題をいち早く手掛けたEUが2003年に定めたのがRoHS指令ですが、これには今後の技術開発の中でも使用できない物質を指定しています。
鉛、カドミウム、水銀、六価クロムなど毒性があったり、地球上の生物にとって害のある物質です。
従来、メッキにはこのような物質を使うものもありましたが、現在ではそれらを使わない方法が模索され、採用されています。
無電解ニッケルメッキにおいては、メッキ安定剤に鉛を使用していた時代もありましたが、現在ではビスマスを代わりに使用するなど、完全に鉛フリーを実現しています。また、ビスマスなどの重金属も使用しない重金属フリーも進んでいます。
環境に悪いイメージを持たれることもあるメッキですが、現在ではRoHS指令にも準拠し、環境に十分配慮して行う技術として成り立っています。
5.無電解ニッケルメッキの応用例
5.1.黒色メッキ
通常は飴色系のシルバーの色をしている無電解ニッケルメッキですが、黒色に処理することもできます。
これは、無電解ニッケルメッキに対して、後処理で酸化処理を行うことで黒色に変化させたものです。
無電解ニッケルメッキそのものの均一性や耐摩耗性はそのまま性質として持ち続け、例えば、光学部品の黒色が望まれるようなものにも適用できます。
当然、塗装するわけではないので、色落ちするようなことはありません。
5.2.カニフロンメッキとは
もう一つ、特徴的な無電解ニッケルメッキの応用の紹介です。
無電解ニッケルメッキ(カニゼンメッキ)にフッ素樹脂(PTFE)を混ぜて共析させた、テフロン無電解複合メッキという技術です。
この技術は、「カニフロン」という名前(日本カニゼン株式会社の商標名)でも知られているものです。
フッ素樹脂が複合されることで、離型性や撥水性にも優れた表面を実現でき、射出成形用ノズル、ゴムやプラスチックの成形金型などに活用されています。
6.まとめ
本記事では、カニゼンメッキとは?というトピックから、無電解ニッケルメッキの歴史や現代社会での役割について解説しました。
以下まとめです。
メッキの歴史は古く、3500年ほど前からさまざまなメッキが活用されているが、電解メッキが登場してから、一気に開発が進んだ。
カニゼンメッキとは無電解ニッケルメッキのことで、1955年に設立された日本カニゼン株式会社の持つ商標名である。
開発されてからも月日が経つが、無電解ニッケルメッキは現代の技術にも不可欠な存在である。
無電解ニッケルメッキはRoHS指令も準拠した、環境に配慮された技術である。
無電解ニッケルメッキには、黒色メッキやテフロン無電解複合メッキ(カニフロン)などの応用技術もある。
7.弊社の対応について
当社にて無電解ニッケルメッキ(カニゼンメッキ)を対応しております。 その他の無電解メッキとしましてテフロン無電解複合メッキ(カニフロン)、無電解ニッケルボロンなど取り揃えております。
株式会社コネクションは、無電解ニッケルメッキに関する豊富な知識と経験を持ち、お客様のニーズに合わせたカスタムソリューションを提供しています。
お急ぎの方はこちら 直通電話 090−6819−5609
【著者のプロフィール】
1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。
30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。
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