ニッケル及びニッケルクロムメッキJIS H8617
JIS H8617は、ISO 1456を元に、対応する部分についてはこれらの対応国際規格を翻訳し、技術的内容を変更する事なく作成した日本工業規格であるが、対応国際規格については規定されていない規定項目を日本工業規格として追加している。
1.適用範囲
この規格は、鉄及び鋼、銅及び銅合金、亜鉛合金、アルミニウム及びアルミニウム合金素地上に防食並びに装飾の目的で行った有効面のニッケルメッキ、銅-ニッケルメッキ、ニッケル-クロムメッキ及び銅-ニッケル-クロムメッキについて規定する。
2.引用規格
次に揚げる規格は、この規格に引用される事によって、この規格の規定の一部を構成する。これらの引用規格は、その最新版を適用する。
JIS H 0400 電気メッキ及び関連処理用語
JIS H 0404 電気メッキの記号による表示方法
JIS H 0851 メッキの厚さ試験方法
JIS H 8502 メッキの耐食性試験方法
JIS K 8150 塩化ナトリウム(試薬)
JIS K 8801 ヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウム(試薬)
JIS K 8802 ヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウム三水和物(試薬)
JIS K 8951 硫酸(試薬)
JIS K 8983 硫酸銅(Ⅱ)五水和物(試薬)
JIS P 3801 濾紙(化学分析用)
JIS Z 9031 ランダム抜取方法
3.定義
この規格で用いる主な用語の定義はJIS H 0400によるほか、次による
a)有効面 被覆されているか又は被覆されるべきで、その被覆が主要な性能及び外観に関わる部品の表面
4.種類、等級、記号及び使用環境
4.1 種類、等級及び記号
メッキの種類、等級及び記号は、素地金属、下地メッキ、最上層メッキ、メッキの最小厚さによって、表1〜2のとおり区分し、その記号は、JIS H 0404による。
4.2 使用環境、使用環境条件及び記号
メッキの種類、等級及び記号は、素地金属、下地メッキ、最上層メッキ、メッキの最小厚さによって、表1〜2のとおり区分し、その記号は、JIS H 0404による。
5.品質
5.1 メッキの外観
メッキの外観は、9.2によって試験を行い、メッキの有効面に、ざらつき、焦げ、割れ、ピット、素地の露出などのメッキの欠陥、膨れ、はく離などの密着不良の微候、更に汚れ、キズなどがあってはならない。
注)素地に欠陥があって、通常の方法では欠陥が明らかにならないものでも、メッキすることによって、メッキの欠陥のように現れるものは、受渡当事者間の協定による。
備考1. 外観の程度が指定される場合には、受渡当事者間の協定による。
備考2. 有効面に通電用接点を取ることが避けられない場合には、その箇所の指定は受渡当事者館の協定による。
5.2 メッキ皮膜の化学成分
メッキ皮膜の化学成分は、9.3によって試験を行い、その値は受渡当事者間の協定による。
5.3 メッキ皮膜の最小厚さ
メッキの最小厚さは、9.4によって試験を行い、表1〜2に適合しなければならない。
備考 有効面について、特に規定がない場合は、直径20mmの球が接触しえない面を有効面とみなさない。
5.4 メッキの微小孔及び微小割れの数
マイクロポーラスクロムメッキ及びマイクロクラッククロムメッキは、9.5によって試験を行ったとき、微小孔及び微小割れの数は、表3のとおりでなければならない。
5.5 メッキの耐食性
メッキの耐食性は、9.6によって試験を行い、素地金属の腐食欠陥がレイティングナンバで9以上とする。
なお、フェロキシル試験では、1cm2当たりの斑点数が5未満でなければならない。
5.6 メッキの密着性
メッキの密着性は、9.7によって試験を行ったとき、メッキの剥離又は膨れがあってはならない。
表1 種類 等級及び記号
表2 鉄素地上のニッケルークロムメッキ 種類 等級及び記号
表2 鉄素地上の銅ーニッケルークロムメッキ 種類 等級及び記号
表2 銅及び銅合金上のニッケルークロムメッキ 種類 等級及び記号
表2 アルミニウム及びアルミニウム合金上のニッケルークロムメッキ 種類 等級及び記号
表2 亜鉛合金上の銅ーニッケルークロムメッキ 種類 等級及び記号
参考表1 使用環境、使用環境条件及び記号
表3 微小孔及び微小割れの数
6. 素地
メッキ前の素地の状態は,メッキの品質に重大な影響を及ぼす。特に,素地材料が発注者から
供給される場合には,発注者は,加工仕様書などに,素地材料に関する情報を示さなければならない。
7. メッキ前の応力除去
鉄及び鋼素地,銅合金素地などに対して,メッキ前の応力除去が指定されている場合,その条件は,受渡当事者間の協定による。
なお,対応国際規格に参考として記載されているメッキ前の応力除去のための熱処理条件を附属書5(参考)に示す。
8. メッキ後の水素ぜい(脆)性除去
鉄及び鋼素地上のメッキにおいて,メッキ後の水素ぜい性除去を行うことが指定されている場合には,メッキ後,少なくとも4時間以内に熱処理によって,水素ぜい性除去を行う。熱処理条件は,受渡当事者間の協定による。
なお,対応国際規格に参考として記載されているメッキ後の水素ぜい性除去のための熱処理条件を附属書6(参考)に示す。
備考 メッキの厚さによって水素が除去される度合いが異なる場合があるので,それぞれ適正な処理温度及び処理時間を設定する。
9. 試験
9.1 試験片の作製
試験片は,通常,製品から作製する。ただし,メッキ製品それ自体を試験片として用いることができない場合には,代替試験片によって試験を行う。
代替試験片の作製は,可能な限りメッキ部品の作製と同じ材質の素地を用い,同じメッキ条件で行わなくてはならない。
9.2 外観試験
外観試験は,目視によって行い,ざらつき,焦げ,割れ,ピット,素地の露出などのメッキの欠陥,密着不良の徴候,汚れやきずなどの有無を調べる。
9.3 分析試験
化学成分の分析試験は,附属書1の方法でメッキの硫黄含有量を測定する。
なお,そのほかの元素の分析試験は,受渡当事者間の協定による。
9.4 厚さ試験
厚さ試験は,JIS H 8501に規定する顕微鏡断面試験方法,電解式試験方法,蛍光X線式試験方法,β線式試験方法,渦電流式試験方法,質量方法又は次の方法のいずれかによる。
STEP試験法 2層又は3層めっきのニッケル層それぞれ相互の電気化学的な関係(電位差)が測定できるだけでなく,個々の層の厚さも測定できる。
9.5 微小孔及び微小割れ試験
クロムメッキの微小孔及び微小割れ試験は,附属書2による。
9.6 耐食性試験
耐食性試験は,JIS H 8502に規定する中性塩水噴霧試験方法,キャス試験方法,酢酸酸性塩水噴霧試験方法,コロードコート試験方法又は附属書3による。
ただし,酢酸酸性塩水噴霧試験方法及びコロードコート試験方法における試験時間及び外観変化は,受渡当事者間の協定による。
a) 中性塩水噴霧試験方法 中性塩水噴霧試験方法は,表4に規定する時間連続して行う。
b) キャス試験方法 キャス試験方法は,表4に規定する時間連続して行う。
c) フェロキシル試験方法 フェロキシル試験方法は,附属書3による。
9.7 密着性試験
密着性試験は,JIS H 8504に規定する試験方法による。
9.8 展延性試験
展延性試験は,附属書4による。
10. 検査
検査は,次による。
a) メッキは,9.によって試験を行い,5.の規定に適合したものを合格とする。
b) 試験片は,同一部品のロットからJIS Z 9031によって抜き取る。
備考1. 検査項目及び試験方法の選択に関しては,受渡当事者間の協定による。
備考2. 試験片の数,検査順序及び検査対象箇所並びに試験片の代替使用は,受渡当事者間の協定による。
出典:JISハンドブック
11. メッキの呼び方
メッキの呼び方は,JIS H 0404による。
例1. 鉄鋼素地上,電気銅めっき2μm,電気光沢ニッケルめっき3μmの場合
例2. 鉄鋼素地上,電気銅めっき,電気光沢ニッケルめっき, 普通クロムメッキ3級の場合
12. 表示 送り状又は納品書に,次の事項を表示する。
a) めっきの記号
b) 加工年月日
c) 加工業者名
d) 発注書,加工仕様書などに記載されためっき品質の試験結果
13. 発注書又は加工仕様書への記載事項
発注者は,発注書又は加工仕様書に次の事項を記載しなければならない。ただし,付記事項については,受渡当事者間の協定によって省略してもよい。
a) 基本事項
1) 素地材料の性質,状態及び仕上がり
2) めっきの記号
3) めっきの有効面
参考 図面に指示するか,又は印を付けた実物見本を提出するとよい。
4) めっきの外観
参考 限度見本を提出するとよい。
5) 許容できるめっき表面の欠陥の種類,大きさ,範囲及び場所
6) 検査方法(用いられる密着性試験方法など)
b) 付記事項
1) 必要な熱処理
2) 必要とするめっき品質とその試験方法
3) めっきされた部品に対する特別な包装の必要条件
4) その他,特別な前後処理及び制限