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【めっき技能士直伝】めっきによる電磁波シールド、電波透過皮膜とは

更新日:2023年10月25日

めっきの役割は、材料の表面に新しい機能を与えて付加価値を高める事です。 その機能といえば装飾、防食、耐摩耗性などはもちろんですが、世の中に溢れている電磁波をシールドする機能、逆に電波を透過させるめっき処理の必要性についてご説明します。



■INDEX■


  1. 電磁波シールド 1-1電磁波とは 1-2高度情報化社会の発展とノイズ問題  ①通信機器類の受・送信障害  ②電子・電気機器類の破損を含む誤操作  ③電磁波にさらされる人体への問題 1-3ノイズ対策 1-4シールド技術 1-5筐体への無電解めっきによる電磁波シールド技術


 

1.電磁波シールド



電子機器の普及に伴い「不要電波問題」が社会的に着目されてから四半世紀以上経過しました。今なおそのノイズ発生源の質的変化によって課題が生じています。

ノイズ問題とその対策としての無電解めっきによる電磁波シールドについて紹介します。



1-1 電磁波とは

電磁波とは、電場と磁場がある空間内を時間的に変化しながら伝播する波、現象と定義されています。電波も光も電磁波であり、これらは波長が異なるだけで、波長が長い方から順にガンマ線、エックス線、紫外線、可視光線、赤外線、電波に分類されます。電波はさらにその利用目的から中波、短波、超短波、マイクロ波に分類され、日本における電波の使用状況は総務省が管轄しています。


電磁波の発生源は、人工的な電波利用のみならず、身の回りの電気製品からも電磁波が発生しています。また、自然界における太陽活動や落雷、静電気の放電など電磁波で満ち溢れています。



1-2 高度情報化社会の発展とノイズ問題

電子機器の普及に伴いノイズ問題が注目されるようになりました。

ノイズとは目的とする信号や情報の伝達の妨害となる電磁波であり、1980年以降デジタル機器の出現・普及期により社会的な問題として着目されています。


①通信機器類の受・送信障害

ラジオやテレビの受信障害や、各種無線、携帯通信端末における送受信不具合、画質や音質の高度化や、移動端末の空間の広域化、高速移動により、今後も対策要求は高まる傾向です。


②電子・電気機器類の破損を含む誤操作

モニターの表示不具合や、作業機械、電子機器の誤動作。ペースメーカーに代表される埋め込み型電子医療機器の普及、自動車のICT化と自動運転技術の発展、工場作業・介護作業などへのロボット化など、事故が生じた際の重大事案は増大しています。


③電磁波にさらされる人体への問題

γ線・X線は、身体の奥まで入り込み、細胞を破壊またはDNAの再生を不完全(ガン化)にする可能性があります。

紫外線を過度に浴びると「炎症」「日焼け」「皮膚がん」などを引き起こします。

電波を浴びすぎると、ピリピリチクチク感じたり、「イライラ」などの不定愁訴を引き起こしたりします。



1-3 ノイズ対策

ノイズ対策はそのノイズ発生源、ノイズ自身の質、伝搬経路、製品がどのような関係性にあるかで適用すべき手法が異なります。考え方としては対象からのノイズの発生(EMI)および、対象への侵入(EMS)を防ぐ事で実現します。



1-4 シールド技術

シールド技術は非導体物である外装もしくは筐体や、パッケージを導体で被覆する手法です。導体被覆によるシールド効果は、入射したノイズは導体層表面で一部は反射し、一部はシールド層内部で吸収されます。


シールド性能はdB(デシベル)で表現され、電磁波減衰率(シールド前の電界強度とシールド後の電界強度の比)で表されています。


一般的に電子機器の誤操作を防止するためには30〜60dBのシールド効果が望まれています。



1-5 筐体への無電解めっきによる電磁波シールド技術

筐体両面に銅めっき1μm施す事でシールド性能60dB以上の遮蔽能力を確保することができますが、銅めっきのみでは継時で表面が酸化し導電性が低下するとともに、シールド性能も低下してしまうため、酸化防止目的で銅めっきの上にニッケルめっきを施すのが一般的な手法です。



両面めっきおよび片面めっきのシールド性能

周波数

30MHz

100Hz

300MHz

1GHz

両面めっき

Cu0.65μm/Ni0.36μm×2

>99dB

88dB

>92dB

>91dB

片面めっき

Cu1.3μm/Ni0.36μm

83dB

83dB

80dB

91dB

片面めっきはコスト面で両面よりも有利ではないかと思われると思いますが、めっき前にマスキングなどの特殊工程を必要とすること、シールド性能で比較した場合、片面めっきと両面めっきでは両面めっきの倍以上の膜厚が必要となり、コストアップに繋がります。



2.電波透過めっき皮膜

2-1 電波透過性金属意匠部品

自動車の運転支援システムの主要な安全装置として、ミリ波レーダーが用いられています。

前方の車両や障害物を感知し自動ブレーキを作動させるシステムはフロントグリルの中央部付近にミリ波レーダーが取り付けられるため、エンブレムには電磁波透過性が求められます。


エンブレムはクロムめっきなどにより金属装飾されていますが、金属皮膜は導電膜であり電波が透過する際に大きく減衰してしまい実用できなくなります。

これらの事から真空蒸着法やスパッタリング法などによりアイランド状に成長した不規則な皮膜が利用されており、アイランドの隙間から電波が透過することができます。


電波透過性金属めっきの用途として、ミリ波レーダー用エンブレムのほか、自動車ドアなどのキーレスロックシステムや通信機器の筐体などに展開されています。



2-2 電波透過めっき皮膜の形成

金属皮膜は導電性で、磁性を有する金属の場合、電磁波シールド皮膜としても利用されています。電波透過用金属皮膜は、電磁波シールドめっきの真逆の性能を有した金属皮膜です。


  1. めっき意匠面が非導電成膜であること。

  2. 薄膜であること。

  3. 非磁性であること。

電磁波透過させる場合は、これらの要件を満たす必要があります。


めっきの方法として薄膜形成に優位な無電解めっきが用いられています。使用される金属値してニッケル、パラジウム、錫などが検討されていますが、色々な背景からニッケルが主流となっております。

無電解ニッケルはニッケルとりんの合金めっき皮膜で、リンの%が低いと磁性を持った皮膜になりますが、リンの%を上げる事で非磁性の皮膜となり、電波透過めっき皮膜として利用可能です。また、通常の無電解ニッケルめっきですと導電皮膜になってしまい電波を透過する事ができませんが、めっき前工程で透明有機膜を施す事で微細クラックを発生させ電波透過を有するニッケルめっき皮膜が生成可能です。



電波透過特性表(76GHz帯)

試料

膜厚(nm)

減衰量(dB)

めっき皮膜による減衰量(dB)

素材(PC材)

0

0.98

-

ニッケルめっき

60

3.71

2.73

ニッケルめっき

140

5.73

4.75

クラックニッケルめっき

60

1.15

0.17

クラックニッケルめっき

140

1.37

0.39

電波透過特性表(76GHz帯)を見て頂くとわかるように薄膜のクラックニッケルめっき皮膜は、良好な電波透過を得る事が可能です。


無電解めっき法により、金属光沢性、電波透過性、光透過性などが得られ、電波透過性金属意匠性部品の他、光透過金属意匠部品としても展開が期待されています。




日常生活に利用されるめっきのまとめ

本記事では、自動車部品のめっき処理、コンピューターへのめっき処理をご紹介しました。

以下まとめです。


電子機器の普及に伴い不要電波問題が社会的に着目されております。

電磁波と言いましてもガンマ線、エックス線、紫外線、可視光線、赤外線、電波に分類されます。電波はさらにその利用目的から中波、短波、超短波、マイクロ波など多種ございます。

電磁波が発生することにより以下の課題が問題となっております。


①通信機器類の受・送信障害

②電子・電気機器類の破損を含む誤操作

③電磁波にさらされる人体への問題


電磁波シールド目的には銅めっきの上にニッケルめっきを施す2層めっきが有効です。

導電性を持たない樹脂材料やガラス、セラミックスなどへ弊社の銅メッキ、ニッケルメッキを施す事で通信機器の受信障害、電子・電気機器類の誤動作、電磁波による人体問題を解決できる可能性があります。


また、電磁波シールドとは逆に電波透過用メッキもご紹介させて頂きました。

自動車の運転支援システムの主要な安全装置として利用されているミリ波レーダー、自動車ドアなどのキーレスロックシステムや通信機器の筐体など、金属の意匠面を必要としつつ必要な電波を透過させる必要が増えてきております。


このような電波透過が必要な場合、特殊な前処理を行った上で無電解ニッケルメッキを施す事でアイランド形の無電解ニッケルめっきが形成出来ることから電波を透過しながら衣装性を持たせる事が可能になります。


弊社コネクションにて条件だしなどの試作開発から、量産対応まで対応しておりますのでお気軽にご相談ください。


めっきに関するお問合せやご質問はメールもしくはお電話にてお気軽にご連絡下さい。


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【著者のプロフィール】

1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。

30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。




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