
電気亜鉛めっき浴の種類
電気亜鉛めっきは、使用するめっき浴の種類によって仕上がりや特性が大きく変わります。
当社では、製品の材質や用途に応じて最適な浴を選定し、耐食性・外観・生産性のバランスを最適化しています。
一般に実用化されている電気亜鉛めっき浴には、次の3種類があります。
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シアン化亜鉛めっき浴
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ジンケート浴亜鉛めっき
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酸性亜鉛めっき浴(塩化亜鉛めっき・硫酸亜鉛めっき)
シアン化亜鉛めっきの特徴
シアン化亜鉛めっき浴は、長年にわたり広く実用化されてきた電気亜鉛めっき浴の代表的な種類です。
浴中のシアン化物は金属表面の油分や酸化膜を分解する作用を持ち、浴自体に強い脱脂作用があるため、前処理工程を簡略化できる場合があります。
さらに、優れた均一電着性と密着性により、複雑形状の製品やねじ部などへの安定しためっきが可能です。
特徴
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脱脂作用が大きく、前処理が容易
浴自体に洗浄効果があるため、下地処理の効率が良い。
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均一電着性に優れる
複雑な形状や内面部にも均一な膜厚を形成可能。
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皮膜の柔軟性が高く、二次加工性に優れる
膜硬度 HV60〜80 で、曲げ加工・プレス加工に対応。
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小物部品や複雑形状品に最適
ボルト・ナット、プレス部品、精密金具などに多用。
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シアン排水処理が必須
環境負荷低減のため、低濃度・中濃度浴が主流。
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塩化浴に比べ水素脆性が起こりやすい
高炭素鋼などでは適切なベーキング処理が必要。
シアン化亜鉛めっき浴は、均一電着性・密着性・加工適性に優れ、膜厚のバラツキの少ない亜鉛メッキを求められる部品に最適です。
一方で、シアン化合物の毒性に伴う安全管理と排水処理が不可欠であり、現在では環境対応型の低濃度浴や中濃度浴が主流となっています。
ジンケート浴亜鉛めっきの特徴
ジンケート浴亜鉛めっきは、排水処理が容易で、環境規制の厳しい製造現場に適しています。
主成分は以下の通りです。
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酸化亜鉛(金属亜鉛)
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水酸化ナトリウム
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光沢剤や各種添加剤
ジンケート浴では、水酸化ナトリウム濃度を亜鉛濃度で割った値(R比)で浴管理を行います。
特徴とメリット
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シアンフリー:シアン化合物を使用しないため、排水規制対応が容易
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優れた均一電着性:複雑な形状にも均一に皮膜が形成されやすい
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適用部品が広い:プレス部品やボルト・ナットなど機械部品に最適
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浴温管理が容易:通常20〜30℃で使用(夏場は冷却装置が必要)
注意点とデメリット
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皮膜の柔軟性が低い:皮膜硬度はHV110〜140で、二次加工性はシアン浴に劣る
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不純物に弱い:鉄や銅などの不純物混入により、皮膜品質が低下しやすい
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前処理がシビア:シアン浴では許容された前処理の甘さが、ジンケート浴では不良の原因となる
ジンケート浴亜鉛めっきは、環境負荷低減と高い均一電着性を両立できるめっき方法です。特に環境規制が厳しい業界に適しています。ただし、皮膜の柔軟性や二次加工性が求められる場合には、製品仕様に合わせた浴選定が必要です。
酸性亜鉛めっき浴(塩化亜鉛浴・硫酸亜鉛浴)の特徴
酸性亜鉛めっき浴は、光沢性・外観品質に優れ、装飾性と生産性を両立できるめっき方法です。
浴組成にはシアン化合物を含まず、比較的安全で扱いやすいため、近年では自動車部品・家電製品・建築金物など幅広い用途に採用されています。
酸性亜鉛めっきには大きく分けて以下の2種類があります。
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塩化亜鉛浴:塩化アンモニウムや塩化カリウムを導電塩として使用。高電流密度域でも光沢性が高く、厚付けが可能。ねじ類や量産品に最適。
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硫酸亜鉛浴:導電性が高く、析出速度が速い。浴管理が容易でコストも低く、大物製品や鋼板の連続めっき(ラインめっき)などに向く。
主な特徴
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シアン不使用のため、排水処理や作業環境面で有利。
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高い光沢性と均一な外観が得られる。
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電流効率が高く、生産性に優れる。
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めっき皮膜硬度はおおむね HV130〜150 と比較的硬く、耐摩耗性に寄与。
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塩化浴は厚付け性に優れ、複雑形状でも外観が良好。
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硫酸浴は大物製品や連続ラインでの大量生産に適する。
注意点
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水素脆性が発生しやすいため、特に高張力鋼やバネ鋼などでは**ベーキング処理(脱水素処理)**が必須。
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均一電着性はシアン浴やジンケート浴に比べやや劣るため、複雑形状品では膜厚ムラが出やすい。
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浴中の鉄不純物や添加剤の管理が重要。
用途例
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自動車部品(ボルト・ナット・ブラケット)
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家電製品の外装部品
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建築金物・配管部材
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鋼板の連続めっき(家電・建材用)
酸性亜鉛めっき浴は、外観品質・生産性・環境対応のバランスに優れためっき方法です。特に塩化亜鉛浴は光沢性と厚付け性、硫酸亜鉛浴は生産性が強みとなり、用途に応じて使い分けられます。
当社では、シアン化亜鉛めっき・ジンケート浴・酸性亜鉛めっきの中から、製品の材質・形状・使用環境に合わせて最適な処理方法をご提案しています。
各種亜鉛めっき浴の特性










