亜鉛メッキは、実は私たちの身の回りに多く使われている技術です。
シルバーの見た目で、亜鉛であることを意識することはあまりないですが、外に出れば多くの鋼構造物に使用されています。屋内の装飾品やネジなどにも使われています。
亜鉛メッキが広く使われる大きな理由は、耐食性に優れているためです。
亜鉛メッキの防食の特徴は、亜鉛自らが素材より先に腐食されることで素材を守る、犠牲防食を行うことにあります。
亜鉛メッキには電気亜鉛メッキと溶融亜鉛メッキの二種類があり、それぞれ特徴や用途も少しずつ違います。
本記事では、亜鉛メッキの最大の特徴である犠牲防食の話を中心にその特徴を説明し、さらに電気亜鉛メッキと溶融亜鉛メッキそれぞれの特徴についても詳しく説明します。
構造物の防食など、亜鉛メッキについて調べている方は、是非参考にしてください。
■INDEX■
1.亜鉛メッキとは
・亜鉛という物質は
・亜鉛メッキとは
・亜鉛メッキの種類
・亜鉛メッキの皮膜
・犠牲防食とは
・電気亜鉛メッキの工程
・クロメート処理
・電気亜鉛メッキのメリットとデメリット
・電気亜鉛メッキの用途
・溶融亜鉛メッキの工程
・溶融亜鉛メッキのメリットとデメリット
・溶融亜鉛メッキの用途
6.まとめ
1.亜鉛メッキとは
亜鉛という物質とは
亜鉛という物質は日常でさほど馴染みのある物質ではないかもしれませんが、私たち人類の歴史の中で、古くから使われてきた物質です。
例えば、黄銅(真鍮)と言われる金属は銅と亜鉛の合金で、紀元前には既に使われていたと言われています。
金属としての亜鉛は銀白色をしていて、鉄に比べると少し軽いです。
前述の真鍮を含めて、さまざまな金属との合金がよく知られており、ダイカスト製品の地金などで使用されています。また、アルカリ電池などの負極材料として用いられることもあります。そして、何と言っても亜鉛といえば亜鉛メッキです。
亜鉛は鉄などを覆うメッキ材として、現在でも広く活躍するとても有能な物質です。
亜鉛メッキとは
亜鉛メッキとは、文字通り素材表面に亜鉛の皮膜を付着させるメッキです。
構造物に多用される鋼材では頻繁に利用されています。
私たちが普段目にする鋼構造物は銀色の金属色をしていますが、実際はこれらの色は鋼の色ではなく、亜鉛メッキの色であることが多いです。そんな亜鉛メッキの主な目的は、素材の腐食防止です。
防食といえば亜鉛メッキとなるぐらい、亜鉛メッキは有名な防食方法です。
日本でも古くから亜鉛メッキは用いられており、亜鉛メッキされた鋼板は「トタン」という名前でもよく知られています。トタン板を含め、あらかじめ鋼板を亜鉛メッキされた亜鉛メッキ鋼板と呼ばれるものは、各鉄鋼メーカーから多くの種類が開発されており、広く使用されています。
その用途の多くは建物など構造物で、重要構造物にも用いられるほど、亜鉛メッキの信頼性は高いものになっています。
亜鉛メッキの種類
亜鉛メッキにはそのプロセスによって2つの種類があります。
電気亜鉛メッキと溶融亜鉛メッキです。
電気亜鉛メッキは、電気を用いて亜鉛皮膜を付着させるメッキ方法です。
電流を流すことで、メッキ層内の亜鉛が素材表面に析出します。
電気を通しやすい鉄鋼材では有効な方法で、均一な皮膜を生成できますが、あまり厚い被膜を付着させることはできません。
一方、溶融亜鉛メッキは溶融した亜鉛の層の中に素材を浸して、表面に亜鉛を付着させる方法です。
鉄鋼などの素材と亜鉛は化学的に結合するので、単に浸けるだけと言っても、皮膜が簡単に剥がれることはありません。
また、電気亜鉛メッキより厚い皮膜を付着させることも可能です。
溶融亜鉛メッキは「ドブ漬けメッキ」などといった通称を使用されることもあります。
2.亜鉛メッキによる防食
亜鉛メッキの皮膜
亜鉛メッキの皮膜は文字通り亜鉛です。
皮膜表面には不動態膜が生成され、これによる防錆作用が多少期待できます。
ここで再び亜鉛自体についての話になりますが、実は亜鉛という物質は鉄などと比べるとイオン化傾向が高い物質です。これは即ち、亜鉛は空気に触れることで腐食しやすい傾向にあることを意味します。
犠牲防食とは
腐食しやすい皮膜が表面にあるのに、なぜ防食できるのか?
このことが亜鉛メッキの大きな特徴です。
亜鉛の皮膜と鉄が仮に同時に空気に触れた場合、亜鉛の皮膜は先に積極的に反応し、鉄の腐食を防いでくれます。
したがって、仮に不動態膜がなかったり、皮膜にピンホールができていても、亜鉛メッキの皮膜は鉄を腐食から防ぐ役割を果たしてくれます。
このように、自らが反応を促進させることで素材の腐食を防ぐ防食のことを、犠牲防食といいます。古い時代から、亜鉛メッキが重宝され人々の生活にも欠かせないものとなっている理由はこの犠牲防食です。
数多くあるメッキの中には、耐食性の高い皮膜で素材を覆う防食方法も少なくないですが、そのようなメッキは皮膜が目減りしたり傷ついてしまうと、その防食作用はそこで終わってしまいます。傷などの場所から腐食が広がってしまうのです。
一方で犠牲防食ができる亜鉛メッキは、何年も反応を続け、亜鉛皮膜が全て壊れてしまうまでは素材を守ってくれるため、構造物の耐久性も上げてくれます。
3.電気亜鉛メッキについて
電気亜鉛メッキの工程
電気を利用して亜鉛皮膜を付着させる電気亜鉛メッキですが、主な工程は以下のようなものになります。
脱脂→電解脱脂→酸洗い→メッキ→硝酸浸漬→クロメート処理→乾燥
最初は加工などの工程で付着した油分などを取り除く脱脂です。
また、電解脱脂でさらに細かい油分を取り除き、塩酸などで酸洗いも行って鉄などの素材素地を完全に露出させる状態を作ります。
その上でメッキしますが、電気亜鉛メッキの皮膜はそれだけでは腐食しやすく、膜厚も充分でないため、クロメート処理を行うことが一般的です。
クロメートの密着性を良くするため、その前に硝酸浸漬をします。
クロメート処理の後、乾燥させれば終了です。
クロメート処理
電気亜鉛メッキを行ったものには、最後にクロメート処理を行います。
前にも述べているとおり、電気亜鉛メッキの亜鉛皮膜そのままでは、皮膜が腐食しやすく、白錆などを発生してしまうからです。
クロメート処理を行うことで、表面のクロメート皮膜によって耐食性を上げることができます。メッキ直後の製品は亜鉛色のシルバー色ですが、クロメート処理を行うと、製品はクロメートの色になります。
構造物を締結するネジの中で、青っぽいシルバーのものを見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。この色のネジは電気亜鉛メッキに光沢クロメート処理を行ったもので、ユニクロメッキと呼ばれるものです。
このように、クロメート処理を行うことで、見た目の美しさも保つことができます。
クロメート処理には光沢の他、有色や黒色といった種類もあるため、意匠目的に活用することもできます。また、クロメート処理を行うことで、導電性を上げたり、塗装との密着性を上げることもできます。
電気亜鉛メッキのメリットとデメリット
電気亜鉛メッキのメリットとしては、電気を通して皮膜を徐々に蓄積させてゆくことから、皮膜が比較的均一で、綿密であることが挙げられます。
皮膜の性質としては、耐食性の高いクロメートの皮膜で覆われている上に、犠牲防食作用のある亜鉛皮膜があるという構造で、これらがトータルで構造物の耐食性を上げてくれます。
クロメートの色が露わになるので、見た目も美しく仕上がります。
一方で、均一な皮膜はあまり厚いメッキは適しておらず、薄い皮膜となってしまうことはデメリットの1つです。皮膜の厚さはそのまま耐食性の大きさに直結しますが、この点は後述の溶融亜鉛メッキには劣ります。
電気亜鉛メッキの用途
上記のような特徴を活かし、電気亜鉛メッキは複雑な形状のものや精密な機械部品に用いられることが多いです。また、クロメート処理の選択次第でさまざまな見た目を実現することができるため、意匠重視の物にも有用です。
一方で、長期間の耐久性が求められる部材など、耐食性重視の用途にはあまり向いていないので、注意が必要です。
概ね、屋内の小型の金物に用いられる事例が多いようです。
4.溶融亜鉛メッキについて
溶融亜鉛メッキの工程
もう1つの亜鉛メッキの方法である溶融亜鉛メッキは、高温に溶かされた亜鉛が入った層に直接素材を漬け込んで行います。
主な工程は以下のとおりです。
脱脂→酸洗い→フラックス処理→乾燥→メッキ→冷却
最初に加工の際に付着した油分を取り除く脱脂を行うのは、電気亜鉛メッキと同じです。
また、酸洗いで素材を露わにし、フラックス処理で錆の発生を抑えます。
乾燥させた後、溶融亜鉛に製品を浸漬してメッキを行います。
メッキ後に冷却するのは、鉄素材層と亜鉛層の合金化を防ぐためです。
溶融亜鉛メッキのメリットとデメリット
溶融亜鉛メッキは鉄と亜鉛が合金化して結合するため、とても密着性が高く、簡単には剥離しません。また、電気亜鉛メッキのような薄い皮膜ではなく、50μmを超える厚い皮膜を付着させることができます。
このぐらいの皮膜だと、市街地で外に出しておいても50年程度の耐久性を有します。
耐食性を持つ表面処理の中でも、かなり高いコストパフォーマンスを有しています。
電気亜鉛メッキのようなクロメート処理は必要なく、亜鉛層に直接塗装しても、塗装とも十分な密着性があります。ただし、見た目は亜鉛のいわゆる金属然としたシルバー色なため、意匠性に優れているとは言えません。
皮膜の均一性という面では電気亜鉛メッキには劣ります。
また、高温の溶融亜鉛を用いることから、熱変形などの可能性があり、あまり精密な製品への適用は難しいです。
溶融亜鉛メッキの用途
このような特徴から、溶融亜鉛メッキは何と言っても耐食性重視の部材や構造物に頻繁に活用されます。
街中で見かけるシルバー色の構造物は、溶融亜鉛メッキの色であることも少なくないと思います。支柱や桁など、大型構造物でも溶融亜鉛メッキを行っているものは、厚い皮膜が犠牲防食の役割を果たして構造を守ってくれ、50年ぐらいの長い耐久性を保ってくれているのです。
一方で、細かい構造の精密部品などにはあまり向いていません。
概ね、屋外の大型の製品に用いられる事例が多いようです。
5.弊社の対応について
弊社 株式会社コネクションでも亜鉛メッキを扱っております。
電気亜鉛メッキについては弊社HPのこちらのページでも紹介しておりますので、是非ご覧になってください。
また、溶融亜鉛メッキについても取り扱いしております。
詳細や個別案件のご相談については遠慮なくお問い合わせください。
6.まとめ
本記事では、亜鉛メッキについてその種類やそれぞれの特徴をご紹介しました。
以下はそのまとめです。
亜鉛メッキには電気亜鉛メッキと溶融亜鉛メッキの2種類がある。
亜鉛メッキの皮膜は、鉄素材より先に反応して素材を守る犠牲防食タイプの皮膜である。
電気亜鉛メッキは皮膜が均一に付着し、複雑な形状のものにも対応できる。
電気亜鉛メッキの皮膜は薄く腐食が進みやすいので、表面にクロメート処理を行うことが一般的である。
溶融亜鉛メッキは密着性が高く、厚い皮膜で犠牲防食を行うことができ、高い耐食性を持つ。
溶融亜鉛メッキは熱変形の影響などにより、あまり細かい素材には適していない。
概ね、電気亜鉛メッキは屋内の小型構造物、溶融亜鉛メッキは屋外の大型構造物に使用されることが多い。
弊社、株式会社コネクションでは電気亜鉛メッキ並びに溶融亜鉛メッキ共に対応しております。クロメート処理に関しましても3価の対応はもちろんですが、6価での対応もしておりますので、6価での対応先を探されているメーカー様は是非お問い合わせをお願い致します。
お急ぎの方はこちら 直通電話 090−6819−5609
【著者のプロフィール】
1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。
30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。
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