無電解ニッケルめっき工程
アルミ素材に無電解ニッケルめっきする場合、前処理が特に重要です。 アルミ素材は空気中の酸素と非常に反応性しやすく、素材表面に酸化皮膜が生じています。この酸化皮膜は、腐食からアルミ素材自身の表面を守ってくれるため、耐食性の面ではありがたい存在です。しかしめっきを施す場合、酸化皮膜がめっきの析出を阻害し、密着性低下の要因となってしまいます。 また、アルミニウムには以下のような特徴があります。
卑な金属のため、適切な前処理処理を施さずにめっきを行うと、めっき液で素材が溶解してしまう。
アルミニウム素材に自然酸化皮膜が生成されるため、めっきの密着を阻害する。
アルミニウム以外の各種合金成分や金属間化合物の偏析があり、均等に前処理を行う事が難しい。
無電解ニッケルめっきを行う場合、アルミ素材加工の際に付着した切削油、自然に生成された酸化皮膜などに対し、適切な処理を行う必要があります。これを前処理と言います。
無電解ニッケルめっきを施す前準備
アルミ素材へ無電解ニッケルめっきを行う場合、適正な前処理を行なっていない状態で、無電解ニッケルめっきにアルミ素材を浸漬させてもめっきは反応せず、逆にアルミ素材が溶解してしまいます。 アルミ素材へ無電解ニッケルめっきを処理する場合、適正な前処理が必須です。 適正な前処理工程を一つ一つご説明します。
アルミ素材への無電解ニッケルめっき処理工程
脱脂工程
エッチング工程
デスマット工程
ジンケート工程
ジンケート剥離工程
ジンケート工程
無電解ニッケルめっき
①脱脂工程
①の工程は脱脂工程です。 アルミニウム素材の表面に付着している工作油等の油分を取り除き、以降の工程に備えます。アルミニウムは、アルカリ性に弱いため、中性または腐食抑制力を有する弱アルカリ性の脱脂剤を使用します。良好なめっきを実現するためには、穴や切削加工部など油分の溜まりやすい箇所も十分に脱脂することが重要です。
②エッチング(表面粗化)工程
②の工程はエッチングです。 アルカリ性溶液、電解などを用いて、表面介在物や酸化皮膜を取り除き、なおかつアルミ素材の表面を意図的に溶かし表面を粗します。アルミニウムの表面を意図的に粗し、表面に凹凸があることでめっきを引き剥がすエネルギーは分散され、めっきが剥がれにくくなります。また、素材の凹凸内部に皮膜が閉じ込められるようにしてめっきを剥がれにくくする効果も期待できます。これをアンカー効果と言います。
③スマット除去(デスマット)
③の工程はスマット除去です。別名としてデスマットとも呼ばれています。 前のエッチングの工程で溶解しなかった合金成分の残留物(スマット)や添加金属を除去する工程です。エッチング工程では酸化皮膜は除去できますが、ケイ素や銅などを除去することができません。したがって、エッチング後にはこれらの残留物が表面に残ってしまいます。残留物が表面に残った状態であってはめっきの密着が阻害されてしまいますので、取り除く必要があります。
④ジンケート処理(亜鉛置換)
④の工程はジンケート処理です。別名亜鉛置換とも呼ばれています。 アルミニウム表面はとても酸素と反応しやすく、前の工程で酸化皮膜を除去したにも関わらず、再び酸化皮膜が生成してしまいます。ジンケート処理は再度生成された酸化皮膜を除去すると同時に、亜鉛の置換膜を生成させる工程です。 亜鉛膜を生成させることで、次工程までの間に再酸化することを防ぐと共に、めっき液によるアルミニウムの腐食を防止する役割があります。
生成された亜鉛膜をジンケート剥離で一旦除去し、再度ジンケート処理を行う事で1回目よりも緻密な亜鉛膜が形成され、めっき皮膜の密着性および耐食性が向上します。
なお、メッキ液には最初に表面にある亜鉛皮膜がニッケルに置換され、その後はそのニッケルを触媒としたメッキの進行となります。
⑤ジンケート剥離
ジンケート処理を1回行った後、それをあえて剥がしてもう一度ジンケート処理を行うことが一般的です。ダブルジンケート処理と呼ばれるこの方法は、より均一な亜鉛皮膜を発生させることができ、さらに密着性を向上させることができます。 無駄に思えるこの工程ですが、やった場合とやらない場合では無電解ニッケルめっき後の外観などに影響が出ます。 以上の工程を経て、初めてアルミ素材をめっき液に浸し、無電解ニッケルメッキを行います。
まとめ
アルミ素材への無電解ニッケルめっきの前処理工程について解説してきました。以下まとめです。
アルミ素材に無電解ニッケルめっきをする場合、表面に生成している酸化皮膜を除去が必須。
アルミ素材の無電解ニッケルめっきには、ジンケート処理→ジンケート剥離→ジンケート処理という前処理工程が有効。
エッチング工程は、表面を粗し凹凸を作ることで密着性の向上に大きく寄与し、アルミの前処理での密着性の重要ポイントです。
アルミの前処理を行う事で、寸法の減少があるため、寸法精度に対してはめっきの膜厚管理ではなく寸法管理が必要です。
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【著者のプロフィール】
1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。
30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。
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