素材をメッキ液へ浸す作業は、メッキの工程の中でも最も重要なものです。
メッキ時の浴の条件は、そのメッキの性質も左右します。
メッキの処理温度も、メッキの重要な条件の一つです。
一般的な無電解ニッケルメッキの処理温度は約90℃であり、これは他のメッキ方法のものより高温です。また、90℃前後の処理温度の中でも、その違いによって性質の変化が生じます。
本記事では、このような無電解ニッケルメッキの処理温度に着目し、さまざまな性質などをご紹介します。
■INDEX■
・無電解ニッケルメッキとは
・無電解ニッケルメッキの特徴
・大まかな工程
・メッキ液について
・リンの含有
・リン含有率によるタイプ分けとそれぞれの特徴
・リン含有率と処理温度
・無電解ニッケル-ボロンメッキについて
・無電解ニッケル-ボロンメッキの処理温度
・樹脂用の無電解ニッケルメッキの処理液について
1.無電解ニッケルメッキについて
1.1.無電解ニッケルメッキとは
無電解ニッケルメッキは、アルミニウムやステンレスといったさまざまな素材に対して、電極を用いることなく化学反応のみを利用して表面処理を行う方法です。
電解ニッケルメッキなど、多くのメッキは通電によって素材表面に皮膜を生成させる一方、無電解ニッケルメッキの場合は、素材表面とメッキ液内の還元剤との還元反応で皮膜が析出されることを利用します。析出した皮膜もさらに反応を続け、析出時間を増すことによって皮膜の厚みを増すこともできます。
電極と素材の位置関係によってメッキにムラができる心配などもなく、電解メッキでは困難な複雑な形状の素材でもメッキが可能です。また、素材の形状に関係なく、どの面においても化学還元は均一であることから、皮膜も均一に生成します。
種類としては、一般的な無電解ニッケル-リンメッキの他に無電解ニッケル-ボロンメッキといったさまざまな合金メッキ、黒色無電解ニッケルメッキ、テフロン無電解複合メッキなどがあります。
これまでの記事でもさまざまな無電解ニッケルメッキについてご紹介してきましたが、その種類について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
また、特に黒色無電解ニッケルメッキについてはこちらの記事でも詳しくご覧いただけます。
1.2無電解ニッケルメッキの特徴
無電解ニッケルメッキの皮膜にはいくつかの特徴があり、その特徴が利点として活用されます。
第一の利点として、耐食性を向上させることが挙げられます。
腐食、錆の発生から素材を守り、耐久性を向上させてくれます。
耐食性と並ぶ大きな特徴として、表面の硬度を向上させることも挙げられます。
表面を硬くできることで耐摩耗性も向上し、自動車部品など摺動部の部品にも適用することができます。
皮膜が均一に生成されることも無電解ニッケルメッキが採用される大きな理由の一つです。
精密な形状での仕上がりが必要な部品にも適用が可能であり、精密機械の部品への利用や電磁性などの性質とも組み合わせて電子部品への適用も多いです。
2.無電解ニッケルメッキの工程
2.1.大まかな工程
無電解ニッケルメッキはどのような工程で行われるかをご説明します。
大きく分けると、工程は「前処理」→「メッキ」→「後処理」の順に行われます。
前処理とは、文字通りですが素材をメッキ液に浸す前に行う処理です。
素材をそのまま浸せば皮膜が生成され、メッキが完成するわけではありません。
素材表面に付着した油分を取り除く脱脂工程や、アルミニウム素材であれば密着性を確保するためのエッチング工程などは不可欠です。このような前処理を十分に施した状態で、メッキ工程に入ります。
無電解ニッケルメッキの場合、素材をメッキ浴に浸すだけで電流を流したりすることはありませんが、メッキ液の内容やその条件によっても性質が変わります。
また、メッキ後には乾燥したり、研磨、塗装、熱処理などの後処理を行うことも多いです。
例えば、熱処理を行うと硬度を上げることができるなど、後処理にも重要な役割があります。
どのような素材にどのような性質の表面処理を行いたいかによって、それぞれの工程を計画する必要がありますので、メッキを行う際にはご相談ください。
2.2.液について
無電解ニッケルメッキにとって、メッキ液はとても重要なものです。
メッキ液にもさまざまな薬品が含まれていて、その主な構成は以下のようなものです。
ニッケル塩:析出するニッケル(イオン)の供給源。
還元剤:ニッケルイオンを金属に還元する。
促進剤:析出速度を増進させる。
安定剤:メッキ液の分解を防ぐ。
なお、薬品には水素イオンの濃度を表す(酸性やアルカリ性の強さを表す)pHがありますが、メッキ液のpHの値は表面の皮膜の性質にも影響を与える重要なメッキ条件となります。
2.3.リンの含有
一般的な無電解ニッケルメッキでは、還元剤に次亜リン酸ナトリウムが用いられ、析出する皮膜にリンが含まれます。
通常、無電解ニッケルメッキと呼ばれるものは、実際は無電解ニッケル-リンメッキであり、皮膜はニッケルとリンの合金ということになります。また、このリンの含有は無電解ニッケルメッキの性質を左右する要素ともなります。
リンの含有率が低いものを低リンタイプ、中間のものを中リンタイプ、高いものを高リンタイプとタイプ分けすることも多く、それぞれに特徴も違うため、用途も異なります。
それぞれの特徴や用途について、次に詳しく説明します。
3.リン含有率と特徴の違い
3.1.リン含有率によるタイプ分けとそれぞれの特徴
一般的な無電解ニッケルメッキのリン含有率の違いについて詳しく説明します。
・低リンタイプ(リン含有率1~4%)
硬度が高く、耐摩耗性に優れるため、自動車の摺動部品などに用いることができます。
また、はんだ付け性も高いため、電子部品への適用も可能です。
ただし、他と比べて耐食性は落ちてしまいます。
・中リンタイプ(リン含有率5~10%)
耐食性、耐摩耗性があり、最も汎用性の高いタイプです。
・高リンタイプ(リン含有率11%以上)
耐食性や耐酸性に優れていますが、硬度はあまり高くないため耐摩耗性は期待できません。
他のタイプは磁性ですが、高リンタイプだけは非磁性です。
このように皮膜の性質も明確に変わりますので、メッキ時にリン含有率はしっかりとコントロールする必要があります。
3.2.リン含有率と処理温度
無電解ニッケルメッキの場合、処理温度が90℃に近づくことで皮膜の析出速度も速くなります。
したがって、基本的に他のメッキ方法より高い90℃程度の処理温度でメッキを行います。
その中で、仮に同じメッキ液を使用したとしても、85℃で処理する場合と92℃で処理する場合では、リンの含有率が変わります。処理温度が低いほどリン含有率は高くなる傾向があり、この場合は85℃で処理を行うほうが高いリン含有率を得られます。
実際に、無電解ニッケルメッキのリン含有率に影響を与えるのは析出速度ですが、これは以下の二つのパラメータで調整できます。
メッキ液のpHが高いとリン含有率は低い。
メッキ時の処理温度が高いとリン含有率は低い。
なお、析出速度が遅い場合、リンの含有率は上がりますが、同じ厚さのメッキでも所要時間が長くなりますので、その点も注意しておく必要があります。
このように、無電解ニッケルメッキはメッキ条件によって皮膜の性質にも影響が大きいので、温度管理や液管理がとても重要なものとなります。
当社では、無電解ニッケルメッキの複雑なメッキ条件の管理もしっかり行っており、これまでにも多数の実績を頂いています。
4.その他の無電解ニッケルメッキにおける処理温度
4.1.無電解ニッケル-ボロンメッキについて
ここまでご紹介した無電解ニッケル-リンメッキのほかに、もう一つご紹介しておくべき無電解ニッケルメッキがあります。
無電解ニッケル-ボロンメッキです。
ボロンとはホウ素のことで、還元剤にジメチルアミン-ボランを用います。
一般的な特徴として、はんだ付け性やワイヤボンディング性に優れているため、電子部品などへの適用が可能です。また、硬度は後処理として熱処理を行わなくても高く、そのため耐摩耗性も高いのも特徴です。
さらに、耐熱性に優れているという利点もあります。ただし、耐食性は無電解ニッケルメッキよりも低いです。
4.2.無電解ニッケル-ボロンメッキの処理温度
無電解ニッケル-ボロンメッキの処理温度は60℃ほどなので、無電解ニッケル-リンメッキより低い処理温度で処理が可能です。
無電解ニッケル-リンメッキの90℃という処理温度は他の一般的なメッキの処理温度より高く、用途や材料によっては適さない場合もあります。
このような場合に、無電解ニッケル-ボロンメッキはいわば代替方法として活用されることもあります。
また、皮膜自体の耐熱性は高いので、処理時に素材が高温を嫌う一方で、使用時は高温を避けられないような環境での部品にも適用できます。
ただし、析出速度が遅くメッキに時間を要すること、無電解ニッケル-リンメッキに比べてコストが高いことなどのデメリットもあります。
4.3.樹脂用の無電解ニッケルメッキの処理液について
話は戻りますが、無電解ニッケル-リンメッキでは還元液に次亜リン酸ナトリウムを用い、90℃程度で処理を行うとご紹介しました。
無電解ニッケルメッキはさまざまな素材に処理を行うことができますが、その中には樹脂も適用範囲として含まれます。
本来、電流が流れにくい樹脂のような材料にもメッキを行えるということは電解メッキでは難しく、これは無電解メッキの利点でもあります。
樹脂は高温を嫌う性質もありますが、このような場合に特別に低温で無電解ニッケル-リンメッキを行える方法もあります。
このケースでの処理液はアンモニアタイプのものとなり、処理温度は40℃程度に抑えることができます。
5.まとめ
無電解ニッケルメッキの処理温度に着目し、皮膜の性質などをご紹介してきました。
以下まとめです。
無電解ニッケルメッキは電気を通さずに素材に皮膜を生成させることができ、皮膜の性質はリンの含有率によって異なる。
無電解ニッケルメッキを行うにあたって、メッキ液や処理温度の管理が大切である。
一般的な無電解ニッケルメッキの処理温度は90℃前後で、これは他のメッキ方法より高い。
90℃前後の中で処理温度を上げたり下げたりすることで皮膜のリンの含有率を変えることができ、処理温度が低いほどリンの含有率は高くなる。
高温を嫌う素材に対しては、60℃程度でメッキを行える無電解ニッケル-ボロンメッキも有効です。
樹脂系の素材に無電解ニッケルメッキを行う場合は、アンモニアタイプの処理液を用いることもあり、このときには処理温度は40℃程度での処理可能です。
6.当社における無電解ニッケルメッキの対応について
当社にて無電解ニッケルメッキを対応しております。
記事でご紹介した低リンタイプ、中リンタイプ、高リンタイプ共に対応が可能ですので、担当者にご希望をお伝え下さい。
なお、記事内でご紹介した無電解ニッケル-ボロンメッキも可能です。
また、樹脂用の無電解ニッケルメッキも対応しております。
その他、さまざまな素材や用途について実績も多数ございますので、お気軽にお問い合わせください。
お急ぎの方はこちら 直通電話 090−6819−5609
【著者のプロフィール】
1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。
30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。
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