あらゆるところで見かける構造物は、すべて強度計算をクリアした状態でそこに存在しています。
強度とはどのようにして決まるかを少し理解すれば、一見変わった形をしている構造物の断面の形も、とても理にかなったものだと感じることができます。
そんな構造物の中で、特に金属でできたものは、腐食という天敵がいます。
腐食によって構造物は強度を著しく損なうこともあり、せっかく強い強度で作られたものを壊してしまう恐れもあります。
表面処理は、そのような腐食から構造物を守る大切な技術です。
中でもメッキは広く使われる防食方法で、本記事で詳しく取り扱います。
構造物を作るとき、その耐久性について知りたい方は是非お読みください。
■INDEX■
1.1.構造物とは
1.2.強度とは
1.3.構造物の強度と形状や寸法
2.1.腐食とは
2.2.腐食の種類
2.3.腐食による構造物への影響
3.1.表面処理とは
3.2.表面処理の種類
4.1.メッキによる防食
4.2.防食メッキの種類
4.3.メッキによるその他のメリット
4.4.メッキのデメリット
1.構造物の強度の考え方
1.1.構造物とは
構造物とは、さまざまな材料や部材から構成され、人工的に作られた物です。
建物やそれ以外のものもあり、目的はさまざまですが、構造物が基本的な存在としてあるおかげで、人々は生活を豊かなものとできています。
特に屋外で使用する構造物は、その目的を達成するだけでなく、危険がないようにしなければなりません。そこで、どんな構造物でも簡単に壊れたり危険な状態にならないよう、法律などでその設置基準が厳密に決められています。
ダムやトンネルなどのとても大きな構造物から、普段何気なく活用している建物、信号や標識などの支柱構造物、ガードレールなどに至るまで、このようなベースがあり、厳密な検討を経て存在しているのです。
1.2.強度とは
構造物の設置基準の中でも、しばしば重視されるのは強度です。
強度を十分に担保している構造物でないと、そこにあるだけで危険な存在にもなり得てしまいます。
例えば、通常の状態ではなんの危険もない支柱であっても、強風が吹いて倒れてしまうような弱い構造であれば、災害時にとても危険な存在となってしまいます。
また、大雪の重さに耐えられないような屋根を持った建物であれば、安心して人々が季節を越すことができません。したがって、強度の設定は地域や用途によっても異なるものとなります。
沖縄のように強風を主体にして強度を決定する地域もあれば、北海道のように積雪を主体にする地域もある、といった感じです。
そのような強度は、結局のところ構造を構成する部材の材料強度に依存します。
鉄鋼材やアルミニウムなど、重量に対しての比強度が高く、コスト的にも高くなりすぎない材料を使用した構造物が多いのはそのためです。
また、実はよく見ると、同じ体積であればより強度面で優位となる断面の材料を使用しているケースも少なくありません。
1.3.構造物の強度と形状や寸法
構造物を構成する材料の強度は、断面が充実しているほど強度が高いです。
例えば、パイプのように中空の物より、丸鋼のような中身が詰まったもののほうが曲がりにくく、強く作ることができます。
ただし、中身が詰まってしまうと、その構造は重くなってしまい、コストも掛かってしまいます。そこで、設計者はより軽くて強い構造を構成することを考えます。
例えば、材料が曲がるときのことを考えてみます。
曲がる材料が最終的に切れてしまうとき、基本的には材料は外側から破壊します。
一方で、材料の中央付近は外側ほど変形せず、簡単に壊れる部分ではありません。
そこで、その材料が壊れないためには、外側が強ければある程度の強度を担保できるという考えになります。
前述のように中実の丸鋼ではなく、結局パイプのように外側だけに厚肉がついた材料をよく使うのはそのためです。
基本的に材料は外側やそこに近いところに十分な厚みを設けておけば、簡単には壊れることがなく、軽くて丈夫な構造を作ることができるのです。
H型鋼やI型鋼、コの字型鋼などが活用されるのも同様の理由です。
パイプや型鋼の厚みを十分に確保することが、構造物の強度確保に重要な話となります。
2.構造物と腐食
2.1.腐食とは
強度をクリアし、十分に安全を担保された構造物で最も怖いリスクは腐食です。
腐食とは、材料が外気や他の物質に触れることで化学的に変化し、外見や機能が損なわれてしまう現象です。よく見かける腐食の例は鉄などの錆です。
錆は見た目を損なうだけでなく、ボロボロとこぼれ落ちてしまうこともあります。
いつの間にか、錆びついた鉄鋼材料が壊れた状態になってしまうことも珍しくありません。
一気に壊れてしまうものではありませんが、腐食によって材料は次第に蝕まれ、破壊に至ることもあるのです。
2.2.腐食の種類
腐食にはいくつかの種類があります。
最もよく見かける腐食は全面腐食です。
全面腐食とは、材料の表面全体が均一に腐食する状態のことです。
腐食する表面は、少しずつ次第に失われてゆき、厚みが減ってゆくことになります。
他にも、孔食と呼ばれる局部腐食もあります。
孔食は金属の一部分のみで起こる現象で、一部のみで貫通した穴が空いてしまうこともあります。ステンレスやアルミニウムなどで起こる現象です。
また、空気などとの接触だけでなく、異種材料との接触でも腐食は起きます。
異種金属接触腐食またはガルバニック腐食とも言われるこの腐食は、金属同士が接触しているときに電位差が生じ、その間で化学反応が起きてしまうことで発生します。
したがって、異種金属を接した構造を考えるときは、実はそのような点も考慮に入れて作る必要があります。
2.3.腐食による構造物への影響
このような腐食は構造物の強度にも大きな影響を与えます。
腐食は基本的に材料の表面から次第に広がってゆきます。
つまり、表面からだんだん厚みが減ってゆくような成長をしてゆきます。
考えてみると、もともと構造物は外側の表面付近の強度を高くして、全体の強度を保っていました。つまり、表面の厚みは強度の肝にもなるものです。
この部分腐食により損なわれてしまうということは、減肉することで強度不足が簡単に起きてしまうのです。
せっかく検討を重ねて作った構造でも、数年経って錆が広がったせいで、規定の強度を満たさなくなったとなっては意味がありません。
そこで、構造物は表面をしっかり守ってやり、耐久性を上げることがやはり構造規格でもよく定められます。
3.腐食を防止するための表面処理
3.1.表面処理とは
構造物を構成する材料を腐食から守る手段として、さまざまな表面処理があります。
表面処理とは、文字通り表面になんらかの処理を施して材料本体を守ることです。
表面に薄い膜を発生させ、材料の中身を外的な環境から守るようなやり方となります。
厳密に言うと、素材を腐食から守る耐食の他にも、表面処理にはさまざまな性質を付与できるメリットがあり、目的に応じてその種類を選択することになります。
3.2.表面処理の種類
表面処理にはいくつかの種類があります。
例えば、材料を外から塗料などで塗る塗装も表面処理の一つです。
塗装も塗料の膜が材料を覆うことができ、素材を腐食から守ってくれます。
また、さまざまな色を選ぶことができ、美観を良くすることもできます。
ただし、塗料の密着はさほど強くないため、塗料が剥がれてしまったりした場合、その部分から錆びてしまうなど効力がなくなってしまいます。したがって、重要な構造物にはメッキという方法を用います。
メッキとは、化学的な方法などで材料の表面に金属の皮膜を生成させる方法です。
塗装に比べて密着性も高く、簡単には剥がれません。
また、メッキには硬度や電気的性質などを付与できるものもあり、耐食以外の目的でメッキを行う場合もあります。
メッキとよく似ていますが、アルミニウム材料の場合、アルマイトという方法もあります。
アルマイトとは、アルミニウム素材の表面を酸化皮膜で覆う技術です。
メッキと違うところは、メッキは素材とは関係のない金属皮膜を付着させるのに対し、アルマイトは素材のアルミを利用した酸化皮膜を付着させるところで、そのプロセスも性質も少しずつ違います。
4.メッキという方法
4.1.メッキによる防食
メッキは構造物を腐食から守るのに、最もお勧めの方法です。
構造物の基準によっては、表面処理の方法をメッキによる防食と指定しているものもあります。
表面を確実に腐食から守ってくれるだけでなく、簡単に剥がれることもなく、メンテナンス面でも塗装などと比べて優位性が高いです。
また、メッキの種類によっては硬度や耐摩耗性を上げてくれるものもあり、材料同士が接するような構造のものでも耐久性を上げてくれます。
4.2.防食メッキの種類
防食メッキには大きく分けて2つの種類があります。
1つは、皮膜自体が腐食しにくい材料になっていて、材料を盾のようにして守る高耐食性皮膜方式です。ニッケルメッキなどがこのような種類のメッキとなります。
この方法は、ほんの少しでも小さな穴が皮膜に発生してしまうと、そこから腐食が成長してしまうことになるため、メッキの充実性や密着度は重要となります。
もう1つは、あえて耐食性に劣る皮膜を施しておき、そちらを優先的に腐食させることで結果的に素材を腐食させない犠牲防食方式です。亜鉛メッキなどがこのタイプのメッキです。
この方式の場合、必ずしもメッキが均一でなくても犠牲防食が機能してくれるメリットがあります。
4.3.メッキによるその他のメリット
前にも少し述べましたが、メッキにはその他にもメリットがあります。
耐食性と並んで活用されるのは、硬度や耐摩耗性です。
硬い金属の皮膜でメッキすることで、摺動部への表面処理としても高い効果を発揮してくれます。
また、素材にはない電気特性や熱的特性、磁性などを付与することもできます。
このような性質は、構造物というより電子機器や精密機器などに用いることが多いです。
もちろん、金属の見た目の美しさを利用して、美観面で活用することもできます。
4.4.メッキのデメリット
良いことだらけに思われるようなメッキですが、わずかにデメリットもあります。
例えば、コスト面は塗装に比べると不利です。
したがって、重要な構造物にはメッキで表面処理することを基本とし、それほど長持ちする必要のないものは塗装による表面処理で済ませるのも一つのやり方かも知れません。
また、メッキ処理が難しい材料なども存在しますので、専門家にご相談下さい。
5.まとめ
構造物の強度と腐食、またその対策としてメッキという方法をご紹介し、解説しました。
以下はそのまとめです。
・材料は力をかけると外側から破壊するため、構造物の材料は外側を強化した形で構成し、設計されているものが多い。
・腐食は材料の表面から化学的に素材の外観や機能を損なわせてゆく現象である。
・腐食が起きてしまうと、材料の強度も損なわれてしまう。
・材料を腐食から守る方法として、メッキがよく用いられる。
・メッキは材料を腐食から守るだけでなく、硬度などのメリットも有る。
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【著者のプロフィール】
1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。
30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。
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