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【メッキのプロ直伝】リンとホウ素で何が違う?無電解ニッケルホウ素メッキとは?

無電解ニッケルメッキはさまざまな分野でその特徴を活かし、活躍する表面処理法です。

そんな無電解ニッケルメッキには、表面の皮膜の組成によって2つの種類があります。


1つは無電解ニッケルリンメッキ(Ni-P)で、一般的に無電解ニッケルメッキといえばこちらを指します。その名の通り、皮膜はニッケルとリンの化合物です。

もう1つ、無電解ニッケルホウ素(ボロン)メッキ(Ni-B)という種類があります。

こちらの皮膜はニッケルとホウ素の化合物ということになります。


無電解ニッケルメッキをご存じの方の中にも、もしかしたら馴染みの薄い種類かもしれませんが、こちらの無電解ニッケルホウ素メッキにも優れた特徴がたくさんあります。


本記事では無電解ニッケルホウ素メッキに焦点を当て、その特徴や適用例をご紹介します。

通常の無電解ニッケルメッキより有用な場合もありますので、ぜひご一読ください。


■INDEX■


 1.1.無電解ニッケルメッキの特徴

 1.2.無電解ニッケルメッキのプロセス

 2.1.無電解ニッケルリンメッキとは

 2.2.リンの含有率による特徴の違い

 3.1.無電解ニッケルホウ素メッキとは

 3.2.無電解ニッケルホウ素メッキの長所

 3.3.無電解ニッケルホウ素メッキの短所

 6.1.無電解ニッケルホウ素メッキのまとめ

 6.2.専門家へのお問い合わせや相談


 


1.無電解ニッケルメッキとは

1.1.無電解ニッケルメッキの特徴


ニッケルという金属は空気中でも安定しており、錆びにくい性質があります。

ニッケルの皮膜を付着させ、素材を守るためのニッケルメッキは、さまざまな素材に対して用いられる代表的な表面処理方法です。


その中で、無電解ニッケルメッキは、電極を使わずに化学還元を利用して皮膜を生成させるやり方です。電極を使用して通電する電解ニッケルメッキと違い、電気を通さないような素材にも適用できます。また、還元に際して皮膜は均等に生成されるため、複雑な形状であってもムラなく均一なニッケル皮膜で覆うことができます。


そもそも錆びにくいニッケル皮膜が緻密に生成され、ピンホールのような腐食を誘発する要素の発現率も低いため、耐食性に優れています。

また、硬度が高く、耐摩耗性にも優れているため、機械の摺動部品などにも適しています。


はんだ付け性と言われる電子部品への適用性も高いなど、他にもさまざまな長所があります。

他方、無電解ニッケルメッキは電解メッキに比べて処理時間がかかることや、コストが高いことなどが短所となります。


1.2.無電解ニッケルメッキのプロセス


一般的な無電解ニッケルメッキは、洗浄して表面の油分を落としたり、エッチングで素材表面を少し粗くして、密着性を良くするような状態にした後、メッキ液に素材を漬け込みます。

電解メッキであれば、ここで通電のプロセスがありますが、無電解ニッケルメッキの場合はメッキ液内の還元剤の作用によって素材そのものが触媒となって電子を放出します。


この電子とメッキ液内のニッケルイオンが反応し、素材表面に付着する仕組みになっています。

皮膜が付着した後も、今度は皮膜の成分が触媒となって反応を続け、皮膜は厚く成長してゆきます。

この反応速度はほぼ一定なので、皮膜の厚さは素材を漬け込んでいる時間によって管理することができます。


メッキ液の組成は、金属塩や還元剤などで構成されています。

金属塩とはニッケルの主成分が含まれた薬品で、硫酸ニッケルや塩化ニッケルが使用されます。

還元剤は電子を放出させるための薬品で、次亜リン酸塩・ホウ素化合物などが使用されます。

このうち、次亜リン酸塩を利用した無電解ニッケル皮膜にはニッケルとリンの化合物が、ホウ素化合物を利用した皮膜にはニッケルとホウ素の化合物が付着することになります。



2.一般的な無電解ニッケルメッキ

2.1.無電解ニッケルリンメッキとは


還元剤の種類によって皮膜の構成が2種類ある無電解ニッケルメッキですが、より一般的で通常、「無電解ニッケルメッキ」と言った場合に用いられるのは、無電解ニッケルリンメッキの方です。


通常、含まれるリンの割合は5~10%程度で、耐食性や硬度に優れています。

図面などには、メッキの皮膜成分にNi-Pなどと表示されており、このうちNiがニッケル、Pがリンのことを指します。

また、還元剤の組成やpHを変えることによって、リンの含有率を変えることもできます。


リンのパーセンテージが高いものを高リンタイプ、通常の5~10%のものを中リンタイプ、パーセンテージが低いものを低リンタイプと言います。


2.2.リンの含有率による特徴の違い


無電解ニッケルリンメッキは、リンの含有率が違うと、特徴も変わります。

例えば高リンタイプは、耐食性は高いですが、硬度は他と比べるとさほど高くなく、500Hv程度です。

高リンタイプでははんだ濡れ性は良好ではありません。


通常よく見られる中リンタイプは、耐食性はある程度期待でき、硬度550Hvとそれなりにあり、耐摩耗性も得られます。低・中・高リンタイプの無電解ニッケルの中でも最も汎用性に優れています。


低リンタイプは、高リンタイプと逆に耐食性はあまり期待できませんが、皮膜の硬度は熱処理なしで700Hvと高い皮膜が得られます。

また、はんだ付け性にも優れているため、電子部品などにもよく用いられます。

同じ無電解ニッケルリンメッキでも、リンの含有率によって少しずつ違う性質を上手く活用することがお勧めの使い方です。



3.無電解ニッケルホウ素メッキ

3.1.無電解ニッケルホウ素メッキとは


無電解ニッケルメッキの還元剤にホウ素化合物を用いると、皮膜はニッケルとホウ素の化合物である無電解ニッケルホウ素メッキとなります。

ホウ素のことはボロンとも言うため、無電解ニッケルボロンメッキと言うこともあります。


無電解ニッケルホウ素メッキもまた、通常よく使われる無電解ニッケルリンメッキとは性質が違います。硬度は析出状態で800Hv程度を見込むことができ、無電解ニッケルリンメッキの硬度をも上回る硬さを得ることができます。


耐食性は無電解ニッケルリンメッキの方が優れています。

また、はんだ濡れ性に関しては無電解ニッケルホウ素メッキも優れています。

さらに、無電解ニッケルリンメッキは加熱を行うと変色してしまう性質がありますが、無電解ニッケルホウ素メッキは、高温化でも変色しずらいため、高温での表面抵抗の変化を避けたい場合などに利用されております。


3.2.無電解ニッケルホウ素メッキの長所


あらためて無電解ニッケルホウ素メッキの長所を挙げると、以下のようになります。


  • 耐食性がある。

  • 析出時の皮膜硬度がとても高く、耐摩耗性にも優れている。

  • はんだ付け性が高いため、電子部品などに適している。

  • 変色が少ない。

  • 熱に強いため、高温使用での表面抵抗に変化が少ない。

特に高温化での変色しづらさを活かして、無電解ニッケルホウ素メッキはセンサー関係のメッキによく用いられます。


3.3.無電解ニッケルホウ素メッキの短所


一方で、無電解ニッケルホウ素メッキには弱点もあります。

短所として挙げられるのは、析出速度の遅さです。


析出速度とは、メッキの皮膜を生成する時間あたりの量のことです。

無電解ニッケルリンメッキの析出速度は1時間に15~20μm程度なのですが、無電解ニッケルホウ素メッキの析出速度は1時間に6~9μmほどしかありません。

したがって、メッキ処理に要する時間がどうしても長くなってしまいます。


また、還元剤自体が高価で、浴の管理も高度な知識や技術が必要なため、コスト的には無電解ニッケルリンメッキと比べても上がってしまいます。



4.適用例1:熱処理による変色を避けたい部品への無電解ニッケルホウ素メッキ


無電解ニッケルメッキは硬度が高く、耐摩耗性が良いため、機械の摺動部分によく使われますが、

部品表面を硬くすることは、その部品自体を守ることにも繋がります。


表面を硬くする表面処理には、硬質クロムメッキ(750Hv程度)などを用いる場合もあります。

ただし、硬質クロムメッキでは皮膜の均一性はなく、寸法公差が厳密な部材には用いることができません。


次に無電解ニッケルメッキの熱処理を用いる場合も考えられます。

無電解ニッケルリンメッキの場合、低リンタイプで熱処理を行うと硬度が1000Hvまで上がります。

硬質クロムメッキより高硬度で、この場合は皮膜も均一になります。


しかし、この方法でも欠点があり、無電解ニッケルリンメッキは熱処理によって変色してしまいます。

そこで、無電解ニッケルホウ素メッキを用います。

無電解ニッケルホウ素メッキは、リンの場合と違い、熱処理によって変色することがほとんどありません。熱処理をしなくても800Hvほどある硬度は、熱処理を行うと1000Hvまで上がり、十分な硬度が得られます。なおかつ、均一性も保たれます。


このような性質を併せ持っているため、無電解ニッケルホウ素メッキは硬度目的の硬質クロムメッキや無電解ニッケルリンメッキの熱処理に代替する技術として用いることができます。


5.適用例2:無電解ニッケルホウ素メッキの電子部品への応用


無電解ニッケルホウ素メッキははんだ付け性にも優れています。

他にも、電導性、ボンディング性、ろう付け性なども併せ持っており、熱に対ししても強い性質があります。

したがって、プリント基板など電子部品への用途にもよく用いられます。

また、金メッキの下地に用いるニッケルメッキにも無電解ニッケルホウ素メッキを用いることもあります。



6.まとめとお問い合わせ

6.1.無電解ニッケルホウ素メッキのまとめ


本記事では、無電解ニッケルホウ素メッキについて解説しました。

以下はそのまとめです。


  • 無電解ニッケルメッキには、メッキ液内の還元剤の違いから、無電解ニッケルリンメッキと無電解ニッケルホウ素メッキがある。

  • 一般的に用いられるのは無電解ニッケルリンメッキだが、無電解ニッケルホウ素メッキにもさまざまな特徴がある。

  • 無電解ニッケルホウ素メッキは硬度が高く、耐摩耗性に優れているため、機械部品の摺動部に用いられる。

  • 無電解ニッケルメッキは熱に強く、高温化での表面抵抗の変化が少ないため、センサー関係の部品に利用されている。

  • 無電解ニッケルホウ素メッキははんだ付け性など電気的特性も高いため、電子部品に用いられることもある。

  • 無電解ニッケルホウ素メッキは析出速度が遅いため時間がかかり、コストも高めである。


6.2.専門家へのお問い合わせや相談


無電解ニッケルホウ素(ニッケルボロン・Ni-B)なら株式会社コネクションへご相談ください。

RoHS指令対応の無電解ニッケルホウ素メッキも可能でございますので、お気軽にご相談ください。

特殊材料、微細部品などへのメッキ処理を得意としております。


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【著者のプロフィール】

代表取締役

1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。

30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。



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