アルミニウム材料は軽量で加工性も高く、現在ではとても多くの用途で使用される金属です。
そんなアルミニウムの硬度や耐食性を増すため、アルマイト(処理)がよく使われます。
しかし、使用目的によっては、アルマイトで得られた硬度ではまだ十分でない場合もあります。
特に摺動部品や航空機部品では、高い耐摩耗性が要求され、それに伴い硬度も普通のアルマイトでは実現できません。
そこで、普通のアルマイトより硬度の高い硬質アルマイトが適用されます。
本記事では、硬質アルマイトについて、その特徴や普通のアルマイトとの違いをご説明します。
「アルミニウム材を検討しているが表面が柔らかいのが困る」といったところで悩まれている方は、アルマイトと共に硬質アルマイトもご検討いただくと解決するかもしれません。
(目次)
・アルミニウム材の普及
・アルマイトの効果とその用途
・アルマイトの構造
・アルマイトとメッキの違い
・硬質アルマイトとは
・硬質アルマイトの構造
・低温での処理
・普通のアルマイトとの違い
1.アルマイトとは
1.1.アルミニウム材の普及
アルミニウムは近年、最も普及した金属と言えます。
アルミニウム元素が発見されたのは1800年代の話ですが、そこからわずか200年ほどで、現在ではアルミニウムは鉄に次ぐ普及率を誇る金属にまでなっています。
なぜそこまでアルミニウムが普及したのか?
最も大きな理由は軽量であることです。
鉄に比べて3分の1ほどの重量で抑えられるアルミニウムは、輸送機器や機械の動作部に適用することで、大きな優位性を得られます。
それに加え、柔らかい材料でもあるため、さまざまな形状への加工も行いやすく、製造側から見てもとても扱いやすい材料となります。
毒性もないため、日常生活の中にもアルミ製品は多く、誰もがお世話になっている金属と言えるでしょう。
昨今注目される環境面でもアルミニウムは優れており、飲料缶などでリサイクルが進んでいるように、少ないエネルギーで再生可能な循環型金属でもあります。
また、耐食性も高く、屋外の構造物への適用にも適しています。
これは、アルミニウム表面が空気中の酸素と反応し、酸化皮膜が生じることで錆などを発生させにくい性質に起因しています。
1.2.アルマイトの効果とその用途
このようにメリットの多いアルミニウム材料はさらに広くさまざまな分野で使用が望まれます。
しかし、残念ながらそのままの状態では使用しにくい状況もあります。
例えば、アルミニウムの「柔らかい」という性質は加工する側から見ればメリットですが、使用する側から見ると「傷が付きやすい」、「変形しやすい」といったデメリットにもなり得ます。
軽量なのでせっかく機械などの動作部に適用しても、接触部が弱くなってしまったり、表面が傷ついてしまっては元も子もありません。
また、他の金属より耐食性に勝りますが、より錆や腐食が発生しにくい方法も必要です。
そこで登場するのがアルマイトという技術です。
アルマイトは1929年に日本人によって発明された画期的な技術です。
アルミニウムの表面の硬度を上げ、傷を防いだり耐摩耗性を上げるだけでなく、耐食性も向上させることができます。
その方法は、いわば空気中の酸素と反応して自然にできていた酸化皮膜を意図的に発生させ、厚い酸化皮膜を作るというものです。
具体的には、硫酸やシュウ酸などの電解液の中でアルミニウム材を陽極として電解処理することで、アルミニウム表面に発生する酸化皮膜が成長してゆきます。
このアルマイトの技術は、アルミニウム材の普及を大きく促進しました。
自動車や航空機などの部品、半導体部品、建築材料といったものから、身近なものだとアルミニウム製のやかんや弁当箱にもアルマイトは活用されています。
1.3.アルマイトの構造
アルマイトを電子顕微鏡レベルで微細に見ると、ハニカム構造という蜂の巣のような六角柱の集まりの構造をしています。
六角柱の中央にはそれぞれポアという穴が空いています。
穴は貫通せずにアルミニウムとの界面近くまでで留まっています。
このアルマイト底部(アルミニウム界面付近)の穴の空いていない層をバリア層、そこからアルマイト表面までの穴の空いている層をポーラス層といいます。
なお、ポアを利用して染料を中に入れ、アルマイトにさまざまな色を付けるカラーアルマイトも広く利用されています。
また、このポアはそのままにしておくと耐食性に影響を及ぼすので、アルマイト処理を行う際には、穴に蓋をする工程を組み込むのが一般的です。
この工程のことを、封孔処理といいます。
1.4.アルマイトとメッキの違い
「アルマイトはメッキの一種」と考える人もいらっしゃるかもしれませんが、実はアルマイトとメッキは別物です。
メッキは、例えば、鉄の素材に亜鉛を付着させるなど、ある物質の表面に全く別の物質の皮膜を付着させる表面処理技術です。
一方でアルマイトは、アルミニウム自体の酸化反応でできた酸化アルミニウムが皮膜となります。
つまり、素材自身が皮膜生成の構成要素になるのです。
したがって、皮膜層の生成プロセスが異なります。
メッキが素材表面から厚みを増して皮膜を成長させるのに対し、アルマイトは酸化反応が内部にも起こりますので、内側にも皮膜が成長してゆきます。
ちなみに、皮膜の外側への成長と内側への成長は同じぐらいのスピードで、皮膜が10μmあった場合は、外側に5μm、内側に5μmぐらいの配分で皮膜が作られています。
元の素材からは皮膜厚さの半分しか厚みが増さないことになるので、精密な寸法が必要な製品の場合は注意が必要です。
メッキのように素材と皮膜が全く別の物質ではなく、化学的に生成されている分、アルマイトの方が剥離などはしにくいです。
(アルマイトとメッキの違い)
2.硬質アルマイト
2.1.硬質アルマイトとは
普通のアルマイトでも、元のアルミニウム素材と比べ、表面の硬度を高くすることができます。
しかし、用途の範囲が広いアルミニウムにおいて、アルマイト処理で得られた硬度でも十分でない場合もあります。
特に他の部品と接して動く部品に使用されるアルミニウム部品には、高い耐摩耗性も要求され、すなわちそれは高い硬度を要求することになります。
そのような要求に応える技術として、硬質アルマイトがあります。
単純に言ってしまえば、硬質アルマイトとは普通のアルマイトより硬度の高いアルマイト処理のことです。
2.2.硬質アルマイトの構造
硬質アルマイトの構造は基本的に普通のアルマイトと同じです。
ハニカム構造をしており、中央にポアという穴も存在します。
普通のアルマイトでは穴を塞ぐ封孔処理を行いますが、封孔処理は耐食性には優位である一方で、硬度は下げてしまう処理になるので、硬質アルマイトでは行わないのが一般的です。
硬質アルマイトの場合、普通のアルマイトと基本構造は同じであるものの、層を固くて厚いものにして硬度を上げています。
普通のアルマイトに比べてポアの直径は小さく、ポアとポアの間の孔壁が厚くなっています。
このような穴が小さくて壁が厚い構造が、皮膜自体を硬くする要因となっています。
2.3.低温での処理
硬質アルマイトの硬い皮膜を生成するため、普通のアルマイトとは処理のプロセスも一部異なります。
アルミニウム素材を陽極酸化させること自体に変わりはありませんが、最も異なるのは処理温度です。
普通のアルマイトは浴温を20℃程度にして処理するのに対し、硬質アルマイトは10℃以下の低温を保って行います。
これは電解液によって皮膜が溶解するのを抑制するためですが、実際に浴温が低いほど皮膜の硬度が上昇する傾向にあるという報告は多数されています。
素材表面で反応によって生じるジュール熱の影響も出ないよう、表面付近は撹拌も行います。
また、電流密度も通常のアルマイトの2~5倍程度まで上げ、皮膜を速く生成させるようにしています。
2.4.普通のアルマイトとの違い
既に構造や処理のプロセスの面で、硬質アルマイトと普通のアルマイトとの違いをいくつか述べましたが、主な違いをまとめます。
・浴温
硬質アルマイトは低温の電解液中で処理します。
電解液の種類によっても異なりますが、10℃以下に保って処理を行うことが多いです。
・膜厚
普通のアルマイトが5~20μmなのに対し、硬質アルマイトは10~100μmと厚いです。
膜厚が厚いほど柔らかい素地の影響を受けにくいので、硬度も増します。
・硬度
普通のアルマイトはHv200程度であるが、硬質アルマイトはHv400以上になります。
これは、ステンレスよりも高い値です。
・色調
普通のアルマイトはシルバー調またはカラーアルマイトの染料の色になります。
一方で、硬質アルマイトはグレーに近い色調になり、普通のアルマイトに比べると重厚感が増します。
ただし、素材と膜厚によっても異なります。
3.硬質アルマイトの特徴と用途
硬質アルマイトはその名の通りですが、普通のアルマイトより硬いことが最大の特徴です。
また、それによって高い耐摩耗性も実現することができます。
シリンダやベアリングケース、シャフトロールのように他の部品と接して動く部品には、その動きを円滑にする性質が求められます。
このような性質を摺動性といいます。
耐摩耗性が高い硬質アルマイトは、高い摺動性を要求するものにも活用することができ、そのような部品の軽量化や耐久性向上を実現することもできます。
摺動部品にアルミニウム材が適用できることにより、自動車や航空機、大型機械などの軽量化も大きく進歩しました。
また、硬質アルマイトは電気絶縁性も高く、それを利用した基盤などの用途で使用されることもあります。
4.テフロン硬質アルマイトについて
硬質アルマイト処理時に発生する穴(ポア)を利用し、そこにテフロン(PTFE)を充填させる方法をテフロン硬質アルマイトといいます。
単なるコーティングと違い、アルマイト内部にテフロンが含浸しているので、剥離は起きません。
硬質アルマイトの硬度や耐摩耗性に加え、テフロンの持つ撥水性や離型性を付加することができ、摺動性の向上も見込むことができます。
通常の硬質アルマイトの摺動性よりさらに滑り性能が必要な場合や撥水が必要な場合に用いられることがあり、成形金型や食品関連の分野などにも適用されています。
5.弊社の対応状況
弊社 株式会社コネクションでもアルマイトは行っております。
また、硬質アルマイトにも対応しております。
処理可能材質はアルミニウム(A1000系、A2000系、A3000系、A5000系、A4000系、A6000系、A7000系)で、製品の部分的なマスキング対応も可能です。
また、研磨工程も対応できます。
処理サイズは板形状であれば、深さ450×横幅450㎜まで可能です。
テフロン硬質アルマイトについても、対応可能です。
カラーやつや消しについてもご相談ください。
6.まとめ
アルミニウムの表面処理であるアルマイト。
その中でも特に硬質アルマイトについて解説してきました。
以下まとめです。
・アルマイトとは、アルミニウム材料の耐食性や硬度向上を目的として行われる表面処理で、その構造や処理工程はメッキとは異なるものである。
・用途の範囲が広いアルミニウム材料の中には、普通のアルマイトでは実現できない高い硬度や耐摩耗性を要求するものもあり、そのような場合は硬質アルマイト処理を行う。
・硬質アルマイトの基本構造は普通のアルマイトと同じであるが、浴温を低温に保って高い電流密度で処理するため、ポアの直径は小さく、それを取り囲む壁が厚い。
・硬質アルマイトは普通のアルマイトより膜厚が厚く、硬度はステンレスより高い。
・硬質アルマイトの高い硬度と耐摩耗性を利用して、摺動部品などにアルミ部品が使用され、自動車や航空機、大型機械の軽量化が進んだ。
・硬質アルマイトの硬度や耐摩耗性にテフロンの撥水性などを付加した、テフロン硬質アルマイトという処理もある。
アルマイトや硬質アルマイト及びアルミ製品をご検討中の方は弊社に是非ご相談ください。
お急ぎの方はこちら 直通電話 090−6819−5609
【著者のプロフィール】
1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。
30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。
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