無電解ニッケルメッキは、耐食性や耐摩耗性をはじめ、素材にさまざまな機能を付加することができる表面処理です。
無電解ニッケルメッキの適用範囲は広く、私たちが日常生活で使う意外なものにも適用されていることがあります。
それだけ、無電解ニッケルメッキは現代社会に欠かせない技術なのです。
本記事では、無電解ニッケルメッキのさまざまな用途例の中から、いくつかをピックアップして、その概要を説明します。
■INDEX■
・原理と特徴
・無電解ニッケルメッキが活躍する分野
・自動車用のシャフトや軸受
・自動車部品に無電解ニッケルメッキが適用される理由
・化学用のバルブ
・化学部品に無電解ニッケルメッキが適用される理由
・プラスチック金型
・金型に無電解ニッケルメッキが適用される理由
・ノコギリ、草刈り機などの刃
・ノコギリや草刈り機に無電解ニッケルメッキが適用される理由
・アルミハードディスクの下地
・ハードディスクに無電解ニッケルメッキが適用される理由
・セラミックスのメタライズ
・セラミックス基板に無電解ニッケルメッキが適用される理由
1.無電解ニッケルメッキとは
1.1.原理と特徴
無電解ニッケルメッキとは、化学的な還元反応を利用して素材にニッケルの皮膜を付着させる表面処理の方法です。
素材もしくは生成されたニッケル皮膜を触媒として電子のやり取りが行われるため、外部から電子を供給する必要がなく、メッキに際して電極を使用する必要がありません。
素材面のあらゆる箇所で反応が促進され、複雑な形状であっても均一なメッキを行うことができる精密さを持った方法となります。
無電解ニッケルメッキはアルミニウムや鉄などの金属だけでなく、電気を通さないようなプラスチックやセラミックスなどへも処理を行うこともできます。
ニッケル皮膜の性質としては、耐食性や硬度(耐摩耗性)に優れ、皮膜そのものは通電性やはんだ付け性といった電気的特性も持っています。
典型的な皮膜はニッケルとリンの化合物で構成されますが、リンの含有率によっては非磁性の性質を持つことも知られています。
無電解ニッケルメッキの原理や基本的な性質については、こちらの記事もご覧ください。
1.2.電解ニッケルメッキが活躍する分野
無電解ニッケルメッキにはさまざまな特徴があり、それぞれの特徴を生かした用途も多岐にわたります。したがって、それを生かして使用される分野も広いものとなります。
主に耐食性や耐摩耗性を生かして自動車、船舶、航空機や機械分野でも広く活用されています。
このような分野では、昨今は軽量で高強度なアルミニウム素材の活用が活発ですが、無電解ニッケルメッキはアルミ素材への適用も多く見られます。
無電解ニッケルメッキは一般的な耐食性の他にも、酸やアルカリへの耐薬品性にも優れている場合があり、化学分野への適用も行われています。
皮膜の均一性は、通常の表面処理では形状が保持できなかった物への適用も可能にし、精密機械などの分野でも利用されます。また、電気的特性を生かした電気電子分野にも活用されています。
このように分野をまたいださまざまな用途について、本記事では具体的に適用例をご紹介します。
無電解ニッケルメッキのご利用をお考えの方は、似た使用法などを探されてみてください。
2.無電解ニッケルメッキの用途例:自動車部品
2.1.自動車用のシャフトや軸受
無電解ニッケルメッキは自動車部品によく活用されています。
自動車にはたくさんのシャフトや軸受、歯車といった部品が使われていますが、これらに無電解ニッケルメッキは大きく貢献しています。エンジンやブレーキなどの部品にも多く使用されます。
これらの部品に共通しているのは、部品と部品が接して機械的な機能を持っていることです。
このような部品を摺動部と言いますが、摺動部は何度も他の部品と接するため、消耗しないような部材である必要があります。
2.2.自動車部品に無電解ニッケルメッキが適用される理由
自動車部品の摺動部に無電解ニッケルメッキが採用される理由は、耐食性と耐摩耗性です。
自動車のエンジン部のピストンなど、もし錆びついてしまっては極端にその動きが悪くなってしまいます。そのような箇所は何度も部品同士が当たるため、それによる消耗にも強く、硬い表面が必要です。
そのため、硬度と耐摩耗性にも優れた無電解ニッケルメッキはとても相性が良いのです。
なお、無電解ニッケルメッキの硬度は、後処理で熱処理を行うとさらに向上します。
3.無電解ニッケルメッキの用途例:化学部品
3.1.化学用のバルブ
無電解ニッケルメッキは化学分野でもよく使われます。
例えば、化学工業用のバルブなどは常に腐食環境にさらされる一方、その機能を全うするためには腐食に強い必要があります。管や弁などでも同様の機能が要求される箇所が多いです。
3.2.化学部品に無電解ニッケルメッキが適用される理由
化学部品に無電解ニッケルメッキが使われるのは、主に耐食性です。
一般的な耐食性に加え、無電解ニッケルメッキは酸やアルカリに対する耐薬品性にも優れており、そのような点で化学部品にも大変優位です。
バルブのような部品であれば、独特の形状をしていることが多く、細かい寸法公差も課されるため、無電解ニッケルメッキの皮膜の均一性も有り難い性質です。
4.無電解ニッケルメッキの用途例:金型
4.1.プラスチック金型
プラスチック製品の製造というのは、製品の形状の金型に樹脂材を流し込み、冷却して固めたものを取り出すという工程で行います。
金型は製品の形状を文字通り型どるもので、とても重要な役割を担います。
このプラスチック金型にも、無電解ニッケルメッキが用いられます。
4.2.金型に無電解ニッケルメッキが適用される理由
金型は何度も製品の素材に接し、それを取り出すことを繰り返すため、十分な強度や耐久性が要求されます。
機械の摺動部と同様、摩耗して形状が変わってしまうリスクもあり、そのようなときには製品形状そのものに大きな影響が出たり、生産性を低下させてしまいます。このような条件に、無電解ニッケルメッキの耐摩耗性はよく合致します。
また、型から製品がきっちり離れて、取り出しやすいことも必要です。
そのような性質のことを離型性と言います。
離型性を確保するため、テフロン無電解複合メッキが有効です。
5.無電解ニッケルメッキの用途例:ノコギリや草刈り機
5.1.ノコギリ、草刈り機などの刃
機械加工のための工具や大工道具などにも用いるノコギリ、草刈り機の刃などはいずれも耐久性が求められる製品です。
ノコギリは手にとって使う人も多いので実感すると思いますが、何度も硬い材料を扱う一方、簡単に欠けてしまうようなものでは使い物になりません。
ノコギリも草刈り機も錆が発生してしまうと、たちまち切れ味が悪くなり、やはり使えなくなってしまいます。
5.2.ノコギリや草刈り機に無電解ニッケルメッキが適用される理由
このようなノコギリや草刈り機の刃にも無電解ニッケルメッキは使われています。
ここまでにも何度かご紹介している耐食性や耐摩耗性に優れているという特徴が主な理由です。
ノコギリの刃などは複雑な形状をしているため、形状に対応できるメッキの均一性もとても大きな採用理由です。
同様の理由で、機械加工用の工具などにもよく無電解ニッケルメッキが使用されます。
6.無電解ニッケルメッキの用途例:ハードディスク
6.1.アルミハードディスクの下地
1990年代のパソコンの普及以降、ハードディスクはさまざまな場面で活躍する製品です。
ハードディスクというのは、とても精密に仕上げられたアルミ板に磁性膜が貼られていているのが基本構造です。これを高速回転させ、ヘッドを近づけてデータを読み書きすることで処理を行います。
ヘッドとディスクが離れすぎてもデータの読み取りができませんし、近づきすぎて当たってしまってもいけませんので、ディスクの平面精度はとても高いものが要求されます。
このハードディスクにおいて、アルミ板に磁性膜を貼る下地には無電解ニッケルメッキが使われています。
6.2.ハードディスクに無電解ニッケルメッキが適用される理由
ハードディスクの下地に必要な機能性として、硬度が挙げられます。
ハードディスクに使用するアルミ板は高精度である必要があり、そのために超精密な研磨を行う必要があります。このような研磨は高い硬度の下地でなければできず、無電解ニッケルメッキが持つ表面硬度は最適です。
無電解ニッケルメッキの皮膜の均一性もこの目的によく合致する性質です。
また、皮膜に磁性がある場合、使用する際のノイズの原因となったりするため、皮膜は非磁性である必要があります。
無電解ニッケルメッキの皮膜にはリンが含有されていますが、リンの含有率が高いタイプであれば非磁性の皮膜となり、この要求にも応えることができます。
無電解ニッケルメッキは、その生成法からピンホールなどの欠陥も少なく、それによる信号エラーも避けることができます。
7.無電解ニッケルメッキの用途例:セラミックス基板
7.1.セラミックスのメタライズ
近年の電子機器の基板にはセラミックスが使用されていることがあります。
セラミックス自体は電気絶縁性を持ち、発熱による誤作動も防止してくれるうえ、軽量であるという利点もあります。
このようなセラミックス基板も、回路形成する上で、はんだ付けなどが可能な金属的性質を持った表面にしなくてはいけません。このような処理のことをメタライズと言います。
セラミックス基板のメタライズにも無電解ニッケルメッキが活用されます。
7.2.セラミックス基板に無電解ニッケルメッキが適用される理由
ほとんどの表面処理方法は、セラミックスやプラスチックのような通電できない物質への適用ができません。
一方で、無電解ニッケルメッキはメッキに伴う通電が必要ないため、このような物質にもメッキが可能です。
セラミックスに施されたメッキ皮膜ははんだ付け性にも優れ、電子基板として広く活用されています。
8.まとめ
無電解ニッケルメッキのさまざまな用途について、いくつか具体例をご紹介しました。
以下はそのまとめです。
無電解ニッケルメッキは、硬度が高く、耐摩耗性に優れているので、自動車部品など機械部品によく使われる。
無電解ニッケルメッキは、耐食性に優れるだけでなく、酸やアルカリに対する耐薬品性も優れているため、化学部品にも活用される。
無電解ニッケルメッキを施した金型は耐久性も向上し、離型性にも優れる。
無電解ニッケルメッキは複雑な形状にも均一に皮膜を形成できるため、ノコギリや草刈り機の刃、機械加工の工具などにも適用される。
無電解ニッケルメッキは精度高く非磁性を付与できることなどから、ハードディスクの下地にも利用されている。
電子基板のひとつであるセラミックス基板のメタライズにも、無電解ニッケルメッキが用いられる。
8.弊社の対応について
当社にて無電解ニッケルメッキの対応しております。
鉄、ステンレス、アルミニウム、銅・銅合金への無電解ニッケルメッキはもちろん、その他の材料(セラミックス、樹脂材料)にも対応しております。
用途や目的についてもご相談も随時受け付けておりますので、
お気軽にご相談下さい。
お急ぎの方はこちら 直通電話 090−6819−5609
【著者のプロフィール】
1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。
30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。
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