無電解ニッケルメッキは、物質の還元作用を利用し、電極を用いずに製品にニッケル皮膜を生成させるメッキ方法です。複雑な形状でも均一な厚みでのメッキが可能なため、精密部品や電子部品などの硬度や耐食性の向上の目的で使用されます。一方、技術の環境への取り組みが必須となっている昨今、安定剤に鉛を用いる無電解ニッケルメッキはその対策が急務となっています。
本記事では、メッキ業界における環境問題に注目し、無電解ニッケルメッキの鉛フリー化の取り組みを取り上げます。
今後ますます考慮しなければならない環境に対する取り組み、現状十分に考慮できていない方は是非ともご検討ください。
■INDEX■
1-1 無電解ニッケルメッキの特徴
1-2 無電解ニッケルメッキの用途
2-1 メッキ浴の構成成分
2-2 安定剤の役割
2-3 安定剤の成分
3-1 RoHS指令とは?
3-2 製造業に課される課題
3-3 メッキ業界における環境への取り組み
4-1 鉛フリーへの取り組み
4-2 その他の取り組み
4-3 弊社の取り組み
1.無電解ニッケルメッキの特徴
1.1 無電解ニッケルメッキの特徴
メッキは様々な物質に行うことができる表面処理の方法です。
目的は装飾、防錆、機能的な面などさまざまで、それに応じて表面の金属の種類も異なります。 アルミ材等の防錆や硬度の増加、はんだ付け性の確保などで用いられるメッキに無電解ニッケルメッキがあります。
無電解メッキはその名の通り、電極を使用せず、メッキ液内の還元液を利用して化学還元を利用するメッキ方法です。材料をメッキ液に浸すだけで電流を通すことなく、化学反応によってメッキ処理が進行します。
最初は材料が触媒となって電子を放出して化学反応が進行し、ニッケル被膜が表面に析出し、その後は析出したニッケル自身が触媒となり、その被膜の厚さを増やしてゆくのです。当然、メッキ時に電気的な管理をする必要はなく、メッキ厚などの管理はメッキ時間で行うことができます。
また、電極の影響を受けないことで、材料のあらゆる箇所でも同様の反応が生じ、結果的にメッキ厚のムラなどはほとんど生じません。
複雑に入り組んだような形状の製品には、通常メッキも困難な場合がありますが、無電解ニッケルメッキでは均一にメッキを行うことができます。
1.2 無電解ニッケルメッキの用途
無電解ニッケルメッキは高い硬度を持ちます。 したがって、耐摩耗性にも優れ、自動車部品などのメッキに使用されます。また、均一性も高く、非磁性も保てることで、ハードディスクなどに用いられることもあります。
その他にも、複雑な形状への対応が高いことから、電気電子分野や精密部品にも多く使用されるなど、さまざまな用途で活躍しており、現代の技術には不可欠なものとなっています。
一方、化学反応を利用する無電解ニッケルメッキは、化学的な物質を多く利用し、現代技術のもう一つの課題である環境的側面からも、より注目する必要があります。
2.無電解ニッケルメッキの安定剤とは?
2.1 メッキ浴の構成成分
無電解ニッケルメッキは、単純な表現をすると、材料(製品)をメッキ浴に浸け、材料とメッキ液の化学反応によってメッキを行います。
そのメッキ液には、さまざまな物質が含まれます。
主な構成要素は以下のとおりです。
・ニッケル塩:析出するニッケル(イオン)の供給源となります。 ・還元剤:ニッケルイオンを金属に還元するための薬品です。 ・促進剤:析出速度を増進させるためのものです。 ・錯化剤:反応で沈殿物などが生じるのを防ぎます。 ・界面活性剤:メッキ面の漏れ性の改善、ピットなどの欠陥を防止します。 ・添加剤:表面の光沢化、平滑化などを行います。 ・安定剤:メッキ液の分解を防ぎます。
2.2 安定剤の役割
この中で、安定剤はメッキ液に必要不可欠な要素です。
メッキ液は触媒(材料)以外の物質でも反応してしまう可能性があります。
メッキ液内の物質と反応してしまえば、メッキ液が自己分解してしまい、勝手に反応が進んでしまう恐れもあります。これを抑制するものが安定剤です。
メッキ浴に何も浸していなくても反応してしまったのでは、無駄も増えてしまいますし、メッキ液自体も長持ちしませんので、これはなくてはならない要素なのです。
2.3 安定剤の成分
無電解ニッケルメッキのメッキ液内の安定剤は従来、鉛などの重金属化合物を使用していました。 これにより、材料をメッキ液に浸すと、微量ではありますが、メッキ皮膜中に鉛が供出していることもありました。
また、使用できなくなったメッキ液を廃液する際も、中に鉛が含まれることがありました。 このことが、環境的観点から見ると問題となります。
鉛は人体に影響がある毒性を持つことでも知られる物質で、現在では使用が強く規制されているのです。
3.環境に配慮した技術の時代
3.1 RoHS指令とは?
メッキの話を一時中断し、少し広い意味での現代技術の環境の話をします。
人類は歴史とともに技術を発展させ、さまざまな文明を開拓してきました。
近年は特に技術の発展が目覚ましく、現在の技術の進化のスピードは少し前の想定をも大きく上回るほどです。 それはとても素晴らしいことですが、近代から現代にかけ、この技術の進化を求めるがあまり、自分たちが住む地球の環境という大切な問題をないがしろにしてしまった側面もあります。
昨今では、多くの人がそのことに問題意識を持つようになり、次第に技術の発展も環境問題をクリアしたものに限るようになっています。
したがって、どんなに素晴らしい技術でも、地球環境を悪くするものは現代では使用しにくいのです。
EUは2003年に電気・電子機器について有害物質の使用制限を唱えるRoHS指令を発令しました。
現在では、このRoHS指令が環境規制の世界基準となっています。当然、世界中に製品を供給する日本でも、RoHS指令の準拠は当然やるべきこととして認識されてきています。
RoHS指令では、人体に影響を及ぼすいくつかの物質が規制の対象になっています。単純な廃棄はもちろん、製品に使用する際にも、その製品をいつか廃棄することで生態系を壊したり、地下水を汚染するなど、地球環境に悪影響となってしまいますので、使用自体にも厳しい規制となっています。
もちろん、該当物質が含まれる製品を使用することで、使用する人の人体に異常が起こってしまうことも大きな理由です。その規制物質は、鉛、カドミウム、水銀、六価クロムなどがあります。
主な物質とその特徴は以下のとおりです。
鉛:貧血などを伴う鉛中毒を引き起こす他、小児や胎児の成長にも悪影響を及ぼします。
カドミウム:日本ではイタイイタイ病を引き起こした物質で、発がん性も指摘されています。
水銀:水俣病で有名な水銀中毒を引き起こす物質です。脳や神経にも影響を与えます。
六価クロム:皮膚や粘膜を傷める他、発ガン性物質でもあります。
ポリ臭化ビフェニル(PBB):樹脂成形などに用いる物質ですが、精神疾患や発ガン性他幅広い人体への影響が指摘される物質です。
ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE):甲状腺ホルモン系の影響などが指摘され、生物蓄積性が高いため生物濃縮される可能性も高い物質です。
3.2 製造業に課される課題
技術の発展とともに、当然のように生じた環境規制で、製造業も従来と考え方を変えています。
現在では、環境へ配慮した取り組みや製品の開発は当然のことになってきています。
また、世界の基準となっているRoHS指令は当然遵守すべきという風潮が多数派です。
規制対象となっている物質はできるかぎり使用しないことが重要ですし、鉛フリーやクロムフリーといった言葉を用いてそれらを使用していないことをアピールすることも多くなっています。
製造業は、これまでのようにあらゆる物質を無尽蔵に使って製品を開発するのではなく、開発した製品が環境に配慮したものであることが絶対条件となっているのです。
現代社会において、環境問題対策は必須の業務です。
3.3 メッキ業界における環境への取り組み
このような現代社会全体の流れに、もちろんメッキ業界も乗っています。
製造業の製品が環境に配慮しているので、当然メッキの工程でもそのことをおろそかにはできません。
現在では、メッキ業界もかなりハイスピードでこの環境への配慮へと動いています。 例えば、従来六価クロムを使用していたクロメート処理ですが、現在は主に使用する自動車メーカーが六価クロム自体をNGとしています。
したがって、自動車メーカーの製品を扱うところは、完全にこの三価クロムへの切り替えを完了しています。 自然界にも存在する三価クロムは、環境への負担が六価クロムより少ない物質です。
なお、機械加工部品や建築関係では、三価クロムと六価クロム両方をラインナップしているところもあります。また、鉛については、もともとはんだメッキからスタートしたものでしたが、それがスズメッキや鉛以外のスズ合金メッキに変遷しています。
現在、はんだメッキを行うメッキ業者はほとんどありません。
4.無電解ニッケルメッキの環境問題
4.1 鉛フリーへの取り組み
話を無電解ニッケルメッキに戻します。
既に述べた話の中で、無電解ニッケルメッキの環境問題はメッキ液の安定剤に含有する鉛の存在です。
これはRoHS指令の基準を準拠しなければならず、それはつまり安定剤の鉛フリーを実現してゆかなければならないことにあります。現在、安定剤も既に鉛以外の物質を使用したものに置き換わっており、鉛フリーが急ピッチで進んでいます。
例えば、ビスマス(蒼鉛)という物質は溶解性が良好で、毒性が弱くRoHS指令の規制対象にも入っていません。
このような物質を鉛の代替として安定剤に使用するよう開発され、使用が進んでいます。
現在ではほとんどのメッキ業者が、安定剤の鉛フリーを実現しています。
4.2 その他の取り組み
無電解ニッケルメッキ関連でもう一つ環境問題が存在するとすれば、PFOS・PFOA(有機フッ素化合物)です。 これも環境内で分解されにくく、蓄積性も高いため、使用が制限されている物質です。
従来、テフロン無電解複合メッキに含有されていましたが、現在はフリー化が進み、非含有タイプの薬剤に切り替わっております。もちろん当社も切り替え完了済みです。
4.3 弊社の取り組み
弊社 株式会社コネクションも、環境に対しては十分な配慮を行っています。
無電解ニッケルメッキについては、全てのラインナップ(無電解ニッケル、黒色無電解ニッケル、テフロン無電解複合メッキ、無電解ニッケルーホウ素)で鉛フリーが完了しています。
安心してご相談ください。
5.まとめ
本記事では、無電解ニッケルメッキの安定剤についてご紹介し、その環境問題についても解説しました。 以下まとめです。
無電解ニッケルメッキのメッキ液はさまざまな物質で構成されており、その1つである安定剤には従来、鉛が使用されていた。
地球環境の観点から、鉛は使用が制限されることが多く、RoHS指令でも規制物質の1つとなっている。
メッキ業界も環境問題に対する取り組みを急ピッチで進めており、無電解ニッケルメッキの安定剤についてもほとんどの業者で鉛フリー化が行われている。
弊社 株式会社コネクションでも、全ての無電解ニッケルメッキのラインナップで鉛フリーが完了している。
環境問題は現代社会では検討が必須です。 安全安心な製品作りのため、いつでもご相談ください。
お急ぎの方はこちら 直通電話 090−6819−5609
【著者のプロフィール】
1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。
30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。
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