無電解ニッケルーリンメッキ
JIS H8645
JIS H8645は鉄、鋼及び非鉄金属素地上に防食性、耐摩耗性などの目的で施した有効面の無電解ニッケル-リンめっきについて規定する。
1.定義
この規格で用いる主な用語の定義は、JIS H0400によるほか、次による。
a) 有効面 被覆されているか又は被覆されるべきで、その被覆が主要な性能及び外観に関わる部品の表面。
b) 熱処理 めっきの硬さ調整、耐摩耗性及び密着性を向上させるために行う加熱処理。
2.等級及び記号
a) 等級 めっきの等級は表1の通り、めっきの最小厚さによって7等級に分ける。
b) 記号 めっきの記号はJIS H0404による。
3.品質
3.1. めっきの外観
めっきの外観は、外観試験によって試験を行い、表面は平滑で、ピット、膨れ、剥離、割れ素地または下地めっきの露出、その他使用上有害な欠陥があってはならない。
3.2.めっき皮膜の化学成分
めっき皮膜の化学成分は、分析試験によって試験を行い。表2に適合しなければならない。
3.3. めっきの表面粗さ
めっきの表面粗さは、粗さ試験によって試験を行い、その値は受渡当事者間の協定による。
3.4. めっきの最小厚さ
めっきの最小厚さは、厚さ試験によって試験を行い、表1に適合しなければならない。
3.5. めっきの硬さ
めっきの硬さは硬さ試験によって試験を行い、ビッカース硬さ500以上、ヌープ硬さ450以上とする。
なお、附属書7にビッカース硬さ600~1000とすることができる熱処理条件を示す。
(備考 試料のめっき厚さは50μm以上とする。)
3.6. めっきの密着性
めっきの密着性は、密着性試験によって試験を行い、めっきの剥離または膨れがあってはならない。
3.7. めっきの多孔性
めっきの多孔性は、多孔性試験によって試験を行い、その品質は、受渡当事者間の協定による。
3.8. 素地の腐食防止
素地の腐食防止は、耐食性試験によって試験を行い、その品質は受渡当事者間の協定による。
3.9.めっき皮膜の耐食性
めっき皮膜の耐食性は、めっき後処理を行った後耐食性試験によって試験を行い、JIS H8502に規定するレイティングナンバで9以上なければならない。また、その後処理、試験時間及び外観変化は受渡当事者間の協定による。
(備考 必要に応じて、JIS H8502に規定する腐食減量法によって評価してもよい)
3.10.めっきの耐摩耗性
めっきの耐摩耗性は耐摩耗性試験によって試験を行い、その評価方法は受渡当事者間の協定による。
(備考 試料のめっき厚さは20μm以上とする)
3.11.めっきのはんだ濡れ性
めっきのはんだ濡れ性ははんだ濡れ性試験によって試験を行い、浸漬した部分は均一にぬれており、はんだの表面は平坦でこぶがあってはならない。
(備考 はんだ濡れ性試験の後、密着性試験のうち曲げ試験を行い、はんだがうろこ状にとんだり、剥離があってはならない)
表2 めっき皮膜の化学成分
4. 素地
めっき前の素地の状態は,めっきの品質に重大な影響を及ぼす。特に,素地材料が発注者から供給される場合には,発注者は,加工仕様書などに,素地材料に関する情報を示さなくてはならない。
備考 最終仕上げに有害となる素地表面の欠陥を,目視によって加工業者が検査する。欠陥は,処理前に発注者に注意する。
5. ショットピーニング処理
疲労強度を向上させる目的でショットピーニング処理が指定されている場合,その条件は,受渡当事者間の協定による。
なお,ピーニング強度について特に指定がなければ,附属書1の方法によってピーニング強度を設定する。
6. 下地めっき
めっきの密着性,拡散防止,めっき浴の汚染防止などの目的で下地めっきを行う場合,そのめっきの種類及び厚さは,受渡当事者間の協定による。
7. めっき前の応力除去
鉄鋼製品,銅合金製品などに対して,めっき前の応力除去が指定されている場合,その条件は,受渡当事者間の協定による。
なお,対応国際規格に参考として記載されているめっき前の応力除去のための熱処理条件を,附属書8(参考)に示す。
8. めっき後の水素ぜい(脆)性除去
鉄鋼製品などに対する水素ぜい性除去が指定されている場合,その条件は,受渡当事者間の協定による。
なお,対応国際規格に参考として記載されている水素ぜい性除去のための熱処理条件を附属書9(参考)に示す。また,附属書2にぜい性の減少を測定する試験方法を示す。
備考 熱処理は,めっき後,少なくとも4時間以内に開始しなければならない。
9. 試験
9.1 試験片の作製
試験片は,通常,製品から作製する。ただし,めっき製品それ自体を試験片として用いることができない場合には,代替試験片によって試験を行う。
代替試験片の作製は,可能な限りめっき部品の作製と同じ材質の素地を用い,同じめっき条件で行わなくてはならない。
9.2 外観試験
外観試験は,目視によって行い,ざらつき,焦げ,割れ,ピット,素地の露出などのめっきの欠陥,密着不良の徴候,汚れやきずなどの有無を調べる。
9.3 分析試験
化学成分の分析試験は,附属書3の方法でめっきのニッケル含有率及びりん含有率を測定する。
なお,そのほかの元素の分析試験は,受渡当事者間の協定による。
9.4 粗さ試験
粗さ試験は,JIS B 0651に規定する器具によって測定する。
9.5 厚さ試験
厚さ試験は,JIS H 8501に規定する顕微鏡断面試験方法,電解式試験方法,蛍光X線試験方法,β 線式試験方法,渦電流式試験方法,走査電子顕微鏡試験方法又は質量方法のいずれかによる。
9.6 硬さ試験
硬さ試験は,JIS Z 2251に規定する試験方法によって測定する。
9.7 密着性試験
密着性試験は,JIS H 8504に規定する曲げ試験方法,熱衝撃試験方法,やすり試験方法又は次の方法によってもよい。
なお,注文者の要求のあるものについては,附属書4によって熱処理を行った後,この試験を行ってもよい。
ポンチ試験 先端が直径2mmまで研削されたばね付きセンターポンチを使用し,めっきに約5mm間隔で幾つかのくぼみを作り,密着性を判定する。
9.8 多孔性試験
多孔性試験は,附属書5の方法による。
9.9 耐食性試験
耐食性試験は,JIS H 8502に規定する中性塩水噴霧試験方法,酢酸酸性塩水噴霧試験方法,キャス試験方法,コロードコート試験方法又は附属表6のいずれかによる。
9.10 耐磨耗性試験
耐磨耗性試験は,JIS H 8503に規定する磨耗試験方法による。
9.11 はんだぬれ性試験
はんだぬれ性試験は,次に規定する浸せき試験によるほか,JIS C 0050又は受渡当事者間の協定によって有効性が認められた方法による。
a) 試験片に非腐食性のフラックス(例えば,松やにをアルコールに溶かしたもの。)を塗布する。
b) JIS Z 3282に規定するH60A,H63A又はこれと同等の共晶組成のはんだ浴を250±5℃に保持し,試験片を3秒間浸せきする。
c) 試験片を取り出して,余分のはんだを軽く振り切り,空冷する。
備考 めっき後の放置日数については,受渡当事者間の協定による。
10. 検査
検査は,次による。
a) めっきは11.によって試験を行い,5.の規定に適合したものを合格とする。
b) 試験片は,同一部品のロットからJIS Z 9031によって抜き取る。
備考1. 検査項目及び試験方法の選択に関しては,受渡当事者間の協定による。
備考2. 試験片の数,検査順序及び検査対象箇所並びに試験片の代替使用は,受渡当事者間の協定による。
11. めっきの呼び方
めっきの呼び方は,めっきの種類,素地金属及びめっきの最小厚さ又は等級の順に表す。
例:鉄鋼素地上,無電解ニッケル−りんでニッケル (90%) −りん (10%),20μm(又は5級)のめっき
例:鉄鋼素地上,無電解ニッケル−りんでニッケル (90%) −りん (10%),5級(又は20μm)のめっき
12. 表示
送り状又は納品書に,次の事項を表示する。
a) めっきの記号
b) 加工年月日
c) 加工業者名
d) 発注書,加工仕様書などに記載されためっき品質の試験結果
13. 発注書又は加工仕様書への記載事項
発注者は,発注書又は加工仕様書に次の事項を記載しなければならない。
ただし,付記事項については,受渡当事者間の協定によって省略してもよい。
a) 基本事項
1) 素地材料の性質・状態
2) めっきの記号
3) めっきの有効面参考 図面に指示するか,又は印を付けた実物見本を提出するとよい。
4) めっきの外観 参考 限度見本を提出するとよい。
5) 検査方法(用いられる密着性試験方法など)
b) 付記事項
1) 必要な熱処理 参考 めっき前の応力除去処理及び/又はめっき後の水素ぜい性除去のための要求事項
2) 圧縮応力を誘導する処理のための要求事項 参考 例えば,めっき前のピーニング処理
3) めっき前処理のための要求事項又は制約
4) めっきの最大厚さ
5) めっきの最終表面粗さ
6) 必要とするめっき品質とその試験方法 参考 例えば,硬度,化学組成,耐食性,多孔性,耐磨耗性,はんだ付け性。
7) 許容できるめっき表面の欠陥の種類,大きさ,範囲及び場所。
8) めっきされた部品に対する特別な包装の必要条件
9) 特別なめっき後処理
出典:JISハンドブック