アルミニウムという素材は軽量で強度もあり、とても便利な素材です。
とかく軽量化が求められる昨今では、アルミニウムやアルミニウム合金の製品への適用が広がっています。
しかし、実際にアルミニウムを触ってみると分かる人もいるかもいるかもしれませんが、アルミニウムというのはとても柔らかい素材でもあります。
柔らかくて表面が傷ついてしまっては、製品に適用できなくなることもあるかもしれません。
そんなアルミニウムの弱点を補ってくれるのは、無電解ニッケルメッキです。
無電解ニッケルメッキの表面は硬く、アルミニウムにほどこすことによって、アルミニウム材をとても有用な材料に変えてくれます。
本記事ではアルミニウム材への無電解ニッケルメッキの有用性や注意点など、詳しく解説します。
アルミ製品をご検討の方も、是非参考にされてください。
■INDEX■
1.1. アルミニウムで作る製品のメリット
1.2. アルミニウムの弱点である柔らかさ
2.1. 無電解ニッケルメッキの方法
2.2. 無電解ニッケルメッキの色とその特徴
3.1. 無電解ニッケルメッキの硬度と耐摩耗性
3.2. アルミ素材と無電解ニッケルメッキの硬度の比較
3.3. 無電解ニッケルメッキを使ったアルミ製品の例
3.4. さらに硬度を上げたいときのための熱処理
4.1. 熱処理に伴う変色
4.2. 変色を防止するためには
1.アルミニウム製品の普及
1.1. アルミニウムで作る製品のメリット
現代社会において、アルミニウムはさまざまな所で活用されています。
1円玉、アルミ缶のような日常で目にするものから、アルミサッシのような建築用途、車などの輸送機のボディや部品にも多く使われています。
なぜこんなにアルミニウム製品は広く普及しているのでしょうか?
理由はアルミニウム素材の特性にあります。
アルミニウムはなんといっても金属の中でも軽量で、鉄の3分の1の重さしかありません。
単純に手に持って重たくなるような金属に比べて使い勝手が圧倒的に良いです。
規模は大きくなりますが、車や電車、航空機などに重宝されるのもそういった理由です。
軽いものは輸送にも手間がかからず、コストも抑えられます。
いわゆる軽量化のメリットはたくさんあり、それを実現する代表的な素材がアルミニウムなのです。
軽いとはいえ、実はそれなりに強度もあり、比強度といわれる重量あたりの強度は鉄の2倍ぐらいあります。
また、単体でもそれなりの耐食性を保つことができ、長持ちする製品を作ることもできます。
その他、導電性が高い、熱伝導性が高い、磁気を帯びないなどの特性を生かした使用法もあり、アルミニウム素材は広い分野で活躍しているのです。
1.2. アルミニウムの弱点である柔らかさ
一方で、良いことばかりではなく、アルミニウムにも弱点があります。
アルミ製品を見ていると感じることもあるかもしれませんが、アルミニウムという素材はとても柔らかいです。
このことは、製品を作るときの加工性が高いというメリットにもなり得ます。
しかし、実際に私たちが使用するときには、表面がちょっとしたことですぐに傷ついてしまうというデメリットにもなります。
また、自動車の中身の部品など、機械部品は他の部品と接触しながら機能するものも少なくなく、そういった部品ではすぐに目減りしてしまい、機能しなくなってしまうこともあります。
できれば、アルミ素材を加工する段階では柔らかい性質のままで、実際に使用するときは硬くあってほしいものです。
そんな都合の良いことはなかなか難しいかもしれませんが、加工後に表面だけでも硬くして、素材を傷つきや目減りから守る方法はあります。
メッキという表面処理です。
本記事ではこのあと、アルミニウム材に最適な無電解ニッケルメッキを紹介します。
この方法によって、アルミニウム製品の活用はより盛んになり、製品の軽量化もとても進んでいます。
2.無電解ニッケルメッキとは
2.1. 無電解ニッケルメッキの方法
少し長い言葉ですが、「無電解ニッケルメッキ」というのはニッケルメッキの1つです。
鉄やアルミの素材にニッケルの皮膜を生成させるニッケルメッキの方法としては2種類あり、1つは電解ニッケルメッキ、もう1つが無電解ニッケルメッキです。
電解ニッケルメッキというのは、ニッケル皮膜を作るために電極を用い、電流を流して皮膜を生成させる方法です。
一方で、無電解ニッケルメッキはメッキに伴って電流を流すことはせず、電極も使用しません。
素材を電解液を含んだメッキ液に漬け込むことで、素材そのものが触媒となって、メッキ液内のニッケルイオンを素材表面に付着させて皮膜とするのです。
皮膜自体も触媒となるため、皮膜で覆われた後も、皮膜の厚さを増す形でメッキは進みます。
電解ニッケルメッキでは、複雑な形状の製品だとメッキ厚さにばらつきができてしまうのですが、無電解ニッケルメッキではそのようなことがありません。
どのような形状であっても、均一な皮膜を生成することができます。
また、プラスチック材など電流を通さない素材へのメッキも可能です。
2.2. 無電解ニッケルメッキの色とその特徴
例えば、アルミニウム材を無電解ニッケルメッキすると、元のアルミの白に近いシルバーから、ニッケルの飴色のシルバーになります。
基本的に無電解ニッケルメッキはカラーバリエーションとしてはこの一択ですが、黒色メッキといって黒色に仕上げることも可能です。
無電解ニッケルメッキの特徴として、耐食性を上げることができる点があります。
ニッケルの皮膜は元来耐食性が高く、また、無電解ニッケルメッキの皮膜は緻密でピンホールといわれる穴も空きにくいことから、素材を錆の発生などから防ぐことができます。
また、同様の効果は一部の薬品にもあり、耐薬品性として化学系の環境で使用される製品にも適用されます。
もう1つの大きな特徴は硬度です。
無電解ニッケルメッキの皮膜はとても硬く、アルミニウムのような柔らかい素材を守ってくれます。
このことについては、後ほど詳しく述べることにします。
その他にも無電解ニッケルメッキには多くの特徴があり、導電性、熱伝導性、はんだ付け性などにも優れています。
3.アルミニウムの弱点を補う無電解ニッケルメッキ
3.1. 無電解ニッケルメッキの硬度と耐摩耗性
無電解ニッケルメッキは「ニッケルメッキ」という名前ですが、実際の皮膜はニッケルとリンの化合物です。
この皮膜は、リンの影響もあり、析出した時点でとても高い硬度を持ちます。
メッキのような薄い皮膜程度でも、素材の表面は十分に硬くなり、それによって他の部品と接する箇所の消耗も少なくなります。
このような性質を耐摩耗性といいますが、無電解ニッケルメッキは製品の耐摩耗性を十分に上げてくれる表面処理法として知られています。
ただし、薄い皮膜でも硬度が得られると述べましたが、硬度向上を目的として無電解ニッケルメッキを行う場合は、厚めの膜厚としておくことをお勧めします。
なお、リンの含有量に応じて、「低リンタイプ」「中リンタイプ」「高リンタイプ」と種類分けされますが、最も硬度が高いのは「低リンタイプ」です。
3.2. アルミ素材と無電解ニッケルメッキの硬度の比較
物の硬さを示す数値にビッカース硬度というのがあります。
この値は高いほど硬いものを表し、ステンレスなら250〜600Hv程度、硬いことで有名なダイヤモンドなら8000Hv程度の値を持っています。
その中で、アルミニウムのビッカース硬度は50~100Hv程度しかなく、アルミニウム素材はとても柔らかいことを示しています。
一方で、無電解ニッケルメッキの皮膜のビッカース硬度は、低リンタイプで700Hvほど、中リンタイプや高リンタイプでも550Hvほどはあります。
アルミニウム素材には無電解ニッケルメッキを行うことができます。
柔らかいアルミニウム素材に無電解ニッケルメッキを行えば、表面はこの硬度を持つことができることになります。
それにより、表面が傷つく心配もなく、耐摩耗性は飛躍的に向上して、製品の長持ちにも繋がるのです。
メッキの皮膜ぐらいでは重量が変わることはほとんどなく、アルミニウム自体はそれなりに強度も持っているため、これでアルミニウムによる軽量化が弱点なく完成することになります。
ちなみに、電解ニッケルメッキの皮膜の硬度は150~500Hv程度で、無電解ニッケルメッキと比べると低くなります。
3.3. 無電解ニッケルメッキを使ったアルミ製品の例
無電解ニッケルメッキをほどこしたアルミニウム製品はさまざまな所で活躍しています。
その一例は、自動車部品です。
自動車部品はある程度の強度や機能性が必要な一方、軽量であることはとても重要です。
一方で、エンジンのシリンダやディスクブレーキ、ベアリング、カムなど、他の部品と接触して動きを伝える箇所も多く、そのような箇所は柔らかい素材であっては機能しません。
これらの箇所に、無電解ニッケルメッキの硬い皮膜を持ったアルミニウム材は最適で、実際に広く活用されています。
昨今の自動車事情においては、その活用の幅はますます広がっているところです。
自動車のみならず、他の輸送機械や精密機械にも、無電解ニッケルメッキを行ったアルミニウムは多く使われています。
3.4. さらに硬度を上げたいときのための熱処理
無電解ニッケルメッキによって表面の硬度が上げられることはすでに示したとおりですが、低リンタイプの700Hvよりも硬度を上げたい場合もあるかもしれません。
そのようなとき、無電解ニッケルメッキを諦めて他の表面処理を探すのも一案ですが、無電解ニッケルメッキも、この数値をより高くする方法があります。
熱処理といわれる方法です。
熱処理はベーキング処理ともいわれ、メッキを行った後に400℃程度の熱を加える処理方法です。
熱を加えられると、表面を構成するニッケルとリンの化合物が析出硬化をすることで、表面はより硬くなります。
無電解ニッケルメッキに熱処理を行うと、ビッカース硬度は900Hvほどまで上げることができます。
4.無電解ニッケルメッキの変色について
4.1. 熱処理に伴う変色
無電解ニッケルメッキの熱処理は良いことだけではありません。
もし耐食性も目的としたメッキであれば、熱処理に伴い、耐食性が低下してしまう可能性があるので、注意が必要です。
もう一点は変色です。
冒頭近くで触れた、無電解ニッケルメッキを行ったときの飴色のシルバー色は、綺麗な金属色です。
熱処理によって、皮膜は青紫系の色に変色してしまいますので、見た目も重視する箇所や部品への熱処理にも注意が必要です。
4.2. 変色を防止するためには
ただし、熱処理に伴う変色は、いくつか防止策があります。
1つは、温度を下げて熱処理を行う方法です。
300℃以下の温度に下げた熱処理なら、変色を防ぐことができる一方、その場合は通常の熱処理による効果よりも硬度を上げる効果は少なくなります。
2つ目は、特殊な方法を用いて、窒素雰囲気などで熱処理を行うことです。
変色は酸化に伴い起こる現象なので、酸化を起こさない環境で熱処理を行うのですが、特殊な炉を用いた方法なので、コストは上がってしまいます。
3つ目は、ニッケルとリンの化合物である皮膜をメッキの時点でニッケルとホウ素の化合物の皮膜とすることです。
この方法は、最初のメッキ液の構成が変わるため、メッキを行う最初の時点で決定していなければ、適用できません。
5.まとめ
アルミニウム素材への無電解ニッケルメッキは、硬度を上げることができ、素材の特性を生かした相性の良い組み合わせです。
以下は本記事のまとめです。
アルミニウム素材は軽量で比強度が高く、軽量化が必要な現代の多くの製品に用いられている。
アルミニウム素材の弱点である表面の柔らかさを、無電解ニッケルメッキの硬度の高い皮膜で補うことができる。
無電解ニッケルメッキを行ったアルミニウム部品は、硬度が高いことで耐摩耗性も保たれ、自動車部品などに広く使用されている。
さらに硬度を上げる方法として熱処理があるが、変色防止など対策が必要である。
6.当社の対応について
当社でも無電解ニッケルメッキに対応しております。
もちろん弊社で対応できる内容であれば弊社にて処理を行いますが、弊社でサイズなど対応が難しい場合、全国の協力メーカーから対応できるメーカーを探し弊社が協力メーカーと処理方法の調整など行いますので、複数のメーカーにご相談のご連絡を頂く必要がございません。
当社にご依頼頂く3つのメリット
自社で対応が難しい案件でも全国各地の協力メーカーにて対応
品質管理や納期管理は当社が一元管理を行いますので、ご連絡は弊社担当者一本で完了できます。
複数社確認を取る手間が省けます。
ご検討の際は是非ご相談ください。
お急ぎの方はこちら 直通電話 090−6819−5609
【著者のプロフィール】
1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。
30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。
Comments